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【短編集】日常のガラクタ

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鯉登氷瀑が執筆した短編小説、短編シナリオ、エッセイのまとめ。
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2022年12月の記事一覧

【エッセイ】去り際のしがらみ

【エッセイ】去り際のしがらみ

 電車の七人がけ、一番端の席で私が広告を眺めていると、一人の女性が乗り込んできた。40代くらいだろうか、よそ行きの格好でデパートの紙袋をいくつか腕から下げている。駅のホームに残った友人に向かい、名残惜しそうな笑みを浮かべて小さく手を振っている。またね、それじゃあ、うん、またね。念入りな別れ際の挨拶だなぁと思った。
 スピーカーから流れ始めた駅メロは早々にぶつ切りとなり、電車のドアが閉まる。ドアのガ

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【シナリオ】花咲け!(3枚)

【シナリオ】花咲け!(3枚)

   人 物
 水瀬耕太(29)高校教師
 山野なずな(16)高校一年生
 鈴城朱莉(17)高校二年生・園芸部
 箱部圭(17)高校二年生・園芸部
 王崎貫太郎(50)高校教師・学年主任
 

○学校・花壇
   横長のフラワースタンドにはいくつかの鉢植えが並ぶ。その横にはレンガで囲われた花壇がある。水瀬耕太(29)と、鈴城朱莉(17)や箱部圭(17)を含め数人の園芸部員達が作業をしている。水瀬が

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【シナリオ】土曜日の放課後(3枚)

   人 物
 中谷裕作(16)学生
 藤本哲也(16)学生・中谷の同級生

◯千寺川沿い・河原
   町の中心を流れる川。両側は土手であり、散り際の桜が立ち並んでいる。広めの河原には雑草が生い茂り、ゴミが点々と落ちている。
中谷裕作(16)は、トングとゴミ袋を持ち、橋の下の影でゴミ拾いをしている。腕で額の汗を拭う。

◯同・川
   中谷はズボンの裾をまくり、川の真ん中に投棄された錆だらけの自転

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