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詩 『糸/音』

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音にすると 少し離れる。 たけど繋がっている。
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2021年9月の記事一覧

詩「背中」

詩「背中」



「背中」

            こい瀬 伊音

削って削って削りでた木は舟になって
川に浮かんでいくのです

削って削って飛び散る銀を
指で広げていくのです

削られ削られとがった先でいっぽんの線を引く
細く細く息をして
舟を忘れて

見上げていた目でふりかえれば
裾模様と
海に浮かぶ大船団

千里走れる脚
幾山川越えていく杖
あの光るところへ
頂へ

2021.09.26

書くことが、

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詩「鎮静の月」

詩「鎮静の月」

背中につけたちいさなあとは
すぐにきえるから心配しないで

細く細くただ息をして
空にとけるから気にしないで

ここに
そこに

金に塗った爪を切って
紙石鹸で手を洗って

おまけ

鎮静の月、は
新月直前の三日月だそうです。
消え入りそうな。

そう知ったら
詩がうまれたのでした。

詩「クレパス」

詩「クレパス」

ねむれ
ないねむれな
いねむれ
ない

夜が隣にすわって
時計は一歩一歩まえへ
こおろぎは地面で
鈴虫は草を揺らす

ねむり
たいねむれな
いねむり
たい

宙に浮いたおやすみは
どこにも届かない
から
心臓のあるく音、の、なかにかくす

壊して壊したりない夜の
星をぬりつぶして

#4-① 重ねて重ねて重ねまくる/   詩「ゆれる」

#4-① 重ねて重ねて重ねまくる/ 詩「ゆれる」

文体の舵をとれ
練習問題4
問1 語句の反復使用
 一段落(300文字)の語りを執筆し、そのうちで名詞や動詞または形容詞を、少なくとも三回繰り返すこと。

 

 そんなにもゆれてゆれてゆれているのはなにかと聞いているのです、と僕が云うと、足元も、目の前も、あなたの顔もです、と聡子が答える。
 ゆれてゆれてゆれているのはあなたのこころではないのですか。混乱のあまり、僕は聡子の言葉を執拗に追って

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詩「なないろの表面」

詩「なないろの表面」

よくばりになるときえる
よくばりになると
だからわたしはてばなして
きえないようにそっとはなれる

よくばってしまうことは
ほしがってみることは
だからわがままでいけないと

そっとはなれ
そっとはなれ
わたしはどこにいるといえる
きえないために
けさないために

正体はひといろ
なないろにかくして

詩「オープンチケット」

詩「オープンチケット」

             こい瀬 伊音

その羽はつよいの
まだ翔んだことのない羽で
鳥かごから海をこえて
ホバリング、止まり木はたった一本

テスト飛行はありません
ふりかえれない
せめて
いつでも帰っておいでと
だれか伝えて

2021.09.01

詩「もうなかぬ」の、
あるいは続編

photo Masumi