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【短編小説】ウルトラヒーローの憂鬱

 ウルトラヒーローの朝は早い。片道一時間半の職場に向かうため素早く着替え家を出る。朝飯は食べない派だ。

 ウルトラヒーローが普段何をしているのか。結構みんな知らないかもしれないからここで教えてあげようと思う。

 普通に仕事してる。サラリーマン。

 これ言うと結構驚かれるんだけどね。そりゃあそうだろって話。生きてくためにはお金を稼がなきゃいけない、社会のルールだ。

 ヒーロー活動なんてこれっぽっちもお金になりゃしない。怪獣が現れて、戦って、帰る。それだけ。

 どういうことかというと、ウルトラヒーロー基金ってのがあってね。知ってる? コンビニのレジの横とかに箱がおいてあると思うんだけど、そこに一般の方が入れてくれたお金が一応僕のお給料みたいな形になってるんだ。でもそこから建物とかの損害額が引かれてしまうんだよ。僕のお給料なのに怪獣がぶっ壊した分を僕が払わなきゃいけないんだ。そりゃあ確かに僕も戦ってるときに壊しちゃうこともあるけどさ。でもそれはしょうがないというか、不可抗力というか。とにかく僕は納得していない。

 しかも僕の場合は三分間しか活動できないんだ。三分て、カップラーメンも作るだけで食べられやしない。

 他のスーパーヒーローはいいよな、時間無制限で。相手を疲れさせてから得意の方法で倒すことができる。

 僕も最近は結構有名になってきてね。僕が三分間しか戦えないってことが怪獣たちにバレてきているんだよ。だから怪獣たちは頑張って時間稼ぎするわけ。ビルの陰に隠れたり、人質をとったり、反省したフリをしたり。正々堂々と戦って来ようとしないんだよ。

 だから僕は毎回焦りながら戦うんだ。ビルの陰にいようが、人質がいようが、反省していようが関係ない。とりあえずスペシウム光線をブッ放す。そうすれば大抵の怪獣はやられてくれる。まぁそんな狡いことするような怪獣ってのは弱い奴らばかりだからね。今のところこれで問題ない。

 でもやっぱり焦って戦いたくはないんだよ。もしかしたら本当に反省してるかもしれないし、人質も安全に助けたいし、建物壊して給料減らしたくないし。

 だからウルトラヒーロースーツを作ってる博士に頼みに行ったわけ。なんとか三分からせめて十分くらいまで伸ばせないかって。そしたらなんて言ったと思う? 「ウルトラヒーローは三分間しか戦えないってところにアイデンティティがあってカッコいいんじゃないか」だってさ。危うくスペシウム光線で焼き殺しちゃうところだったよ。アイデンティティってなんだよ! そんなのどうだっていいだろ? 人命の安全と僕の給料の方がよっぽど重要だろ!
そこから頑張って説得してみたんだけど結局最後まで首を縦に振らなかった。とりあえずローキックだけで我慢しておいたけど今度あったら普通に本気パンチかましちゃうかもな。

 おっと! また怪獣が出たらしい。えーっと場所は……新宿? おいおいマジかよ。あんなビルばっかのところで戦ったら絶対赤字だろ。

 ……サボっちゃうか。いや違うよ? たまにはさ、他のスーパーヒーローにも活躍させてあげないと可哀想だろ? ここはやっぱり譲り合いながらお互いを高め合っていく必要があると思うわけ。だから今回はちょっと僕が一歩引いてあげるよ。ていうかまだ会社の仕事終わってないしね。定時で帰りたいんだよね。

 あ、最後に一言だけ。みんなお願いだからウルトラヒーロー基金にご協力お願いします! 地球の平和を一緒に守っていこうな!

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