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先生との時間(BL小説)

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六十過ぎの先生と若者のBL小説の連作です。
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記事一覧

先生と、 (BL小説)

 恋人にしてください、と言ったとき、先生は笑っていた。
 僕と? 恋人?
 俺が頷くと、先生はため息を吐いた。ため息の似合う人だ。
 恋人じゃなくちゃいけないんですか? 友人でなく?
 俺はもう一度頷いた。
 セックスがしたいんですか?
 え?
 俺が戸惑っているのを、先生は面白そうに笑った。
 セックス。したいんですか?
 はい!
 したいかどうか、わからなかった。考えたことがなかったように思う

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先生と花見(BL小説)

 どんな格好をしていけばいいのかな、と、久しぶりに迷った。普段友達に会うようなのは落ち着きがない? でも落ち着いた服ってなんだ。俺は服は嫌いじゃないけど、派手な服を着るタイプじゃない。モノトーンとか、紺とか、そういう地味な色が多い。体をある程度鍛えていて、筋肉もあるので、服装はある程度シンプルな方がバランスが取れると思っている。
 結局服じゃなくて本体の問題なんだよな。ため息をつく。
 白いシャツ

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先生とケーキ(BL小説)

 先生の家は、本の匂いがする。乾いた静かな、ちょっと埃っぽい匂い。
 それが今日は、ひどく甘い匂いがした。バターと砂糖。ケーキの焼ける匂いだ。
「どうしたんですか」
 誰か来ていたのかな、と思って聞いてみる。誰か来てちょっとケーキ焼いていくという展開がよくわからないけど、それを言うなら六十四歳の先生の家に二十二歳の恋人がやってくるのもよくわからないかもしれない。
「ケーキを焼きまして」
 先生はい

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先生と心臓(BL小説)

 あんまり本を読まない。特に嫌いなわけじゃないけど、あんまり興味がない。
 他の家族はみんな本を読むから、面白そうだと借りることもあれば、勧められることもある。二つ年上の姉はたまに「これ面白かった」と教えてくれる。姉のセンスは信用しているので、借りて読むこともある。
 篠崎清二の本も、姉から借りた。翻訳家の書いたエッセイ。俺が中学生の時にたまたま読んで好きだった、アメリカのちょっと不思議な小説を訳

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先生とこたつ(BL小説)

 煙草が高くなりましたね、と、先生が言う。白くて骨ばった指先に、新聞の紙は妙に硬くてつやつやして見える。
「高くなったんですか」
「悪夢が現実になった感じの値上がりですね」
「はー」
 俺には煙草のことはよくわからない。成人してまだ二年だし、周りの同世代にも吸ってるやつはほとんどいない。臭いし、正直まだ大麻とかのほうが吸いたいぐらいだ。親もどっちも吸ってなかった。じいちゃんは吸ってて、吸ってる間は

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