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フェルミ推定

イノベーションの創出には、そのアプローチとして発想法や思考法が重要になる。ロジカル思考やデザイン思考などの概要を理解し、それぞれをどのように活用することができるのかを探る。デザイン思考という言葉が広く出回っていたのは、約10年前くらいのことになる。そして、ここ2,3年ではアート思考という言葉が広まり出している。

様々な思考法があるなかで、「フェルミ推定」という考え方から始めたい。今回の「フェルミ推定」は、ロジカル思考のひとつである。

以下の内容は、名古屋大学「バイオベンチャービジネス論」の授業で、事業化のための考え方やアントレプレナーの思考について、話してくれないかと依頼されたのがきっかけになっている。

私は、もともと物理学の研究者なので、当然のことながら、物理学者のフェルミを知っており、物理学者がよくやる「ざっくりとした数字」を出すということを知っている。ざっくりとした値を何とか出してみるというのが、フェルミ推定だ。

物理学者のエンリコ・フェルミ(1901-1954)は、ローマに生まれ、26歳でローマ大学教授となり、フェルミ-ディラック統計、ニュートリノの導入、弱い相互作用など、数々の輝かしい業績を上げ、1938年ノーベル物理学賞を受賞している。1942年にシカゴ大学に世界最初の原子炉を完成させている。


そのフェルミは、世界最初の核実験が行われたとき、ノートの紙片を爆風を感じると同時に部屋に自由落下させて、爆発の衝撃波で飛ばされたその紙の挙動から、実験に用いられた核爆弾の規模を推定した。こんなことから、ざっくりとした値を何とか出す方法はフェルミ推定と呼ばれている。

「日本全国に電柱は何本あるか?」
という問題について、スマホやPCを使わず一切の情報を得ないで考えてみよう。この時のポイントは、得られた回答の正確性ではなく、どういう考え方で回答に至ったのかの「プロセス」を重視することである。

例えば、だいたい100m四方に1本くらいと仮定してみよう。すると、日本の総面積(30万km2)に対して計算すると、3000万本ということになる。電柱に関する統計データは、約3500万本(平成28年)であるので、だいたい一致する。こうしたざっくりと計算する方法がフェルミ推定だ。

エンリコ・フェルミは、大学での授業でも、「シカゴにピアノの調律師は何人いるか?」といった問題を出して、学生に考えさせていたらしい。

より詳しい解説が、細谷 功「地頭力を鍛える」(東洋経済新報社)に記載されているので、参考にしてほしい。

フェルミ推定を自分でやってみることによって、仮説思考力や抽象化思考力などを鍛えることができる。コンサルティング企業の採用面接でも利用されている。

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