キリマンジャロを描いた話(6)
image view: Kilimanjaro National Park_ Tanzania, United Republic of_ キリマンジャロ国立公園_ タンザニア連合共和国 2013年9月の日記より
●2013年9月11日
3歩あるくだけで限界がくる。
その度に腕を足について大きく3回深呼吸する。まるで前に、上に進まない。砂がずるずると滑るので、足を進めても下がっているような感覚になる。これが昼間の登山だったら周りもはっきりしているし気温も高いので、ここまで苦しくないのかもしれない。
暗い闇の中をひたすら苦しみながら足を進めていく。一寸先がまったく見えない。これは生きて行く上での様々なことと重なっているように感じた。見えなくても進んでいくしかないし、進んでいけば必ずなにかにぶつかる。それはゴールかもしれないし、課題かもしれない。引き返してしまったら、見えるはずの未来がみえないんだ。
松田は自分の意志でこんなところで山登りをしている。意味のないことかもしれないけれど、あるいは意味があるはず。理由よりも心がここに来たがっていたから、どんなに苦しくても足を止めることはしなかった。一歩一歩。ずり落ちながらも登っていく。三歩ごとに立ち止まって深呼吸する回数が10回以上に増えている。
まったく前に進んでいる気がしない。身体が重くて重くてしょうがない。高山病によるめまいが激しい。おおげさに聞こえるかもしれないけれど、ここに書き足りないくらいしんどかった。砂場を超えるとごつごつした岩場が出て来る。
這いつくばるようにしながら、登る。登る。
暗闇の中で脳裏をよぎる想い。過去の記憶。未来への葛藤。
「なんでこんなことやってるんやろう」
「なんで人と違う生き方なんやろう」
「なんであの時あの道を選ばなかったんやろう」
「なんでこんなにしんどいんやろう」
「なにしてるんやっけ…」
様々な思いが寄せては返して行く。
「ぜーぜーぜーぜーぜーぜー」
息苦しい。寒さよりも高山病が深刻だった。
「バクバクバク」
「そういえば心臓って生涯で脈打つ回数決まってるよね。ここでこんなにバクバクしてたら寿命縮まるやん」的なことを考え続ける。
朦朧と考え続け、何時間経っただろうか。
そしてやがて、突然その時は突然訪れる。
暗闇に浮かび上がる緑色の看板。
「CONGRATULATIONS」
気付いた時には周りは開け、薄暗い景色の中に
「ギルマンズポイント」のサインが見えた。
5,685mまで登ってきたのだ。ここは頂上ではないけれど、頂上クレーターの入り口地点だ。頂上まで高度200m地点。ここまででも、辿り着けたことに対するなにげないひとことが胸に響く。
「CONGRATULATIONS(おめでとう)」
泣かないはずだったのに、この看板の文字を見て涙がどっと溢れた。