0365-R_カイロの歴史地区_エジプト_アラブ共和国M04

カイロで死にかけた話

世界遺産 カイロの旧市街_エジプト_ Historic Cairo_ Egypt


2012年の夏、松田はラマダンも理解せずエジプトに来た。

カイロではは2011年に革命が起こってその頃はまだ混沌としていたというのは後から知った話だった。

この頃の松田は旅行を舐めきっていた。その象徴は服装に現れている。

「The 旅人」そういう言葉がふさわしかった。

鯉の絵が入った刺青風アロハシャツにダボダボのアジアンパンツ。なぜか額にタオルを巻いてた。もちろん大きなバックパックにはパソコンも全財産も全ての荷物が入っている。挙句の果てに、カメラを首からぶら下げて、iPhoneを手に持っていた。

当然こういう服装で旅をすることはおすすめできない。いかにも襲ってくださいという印象を受けることは後々感じたことだが。

カイロの市街に行きたくて、朝6時にホテルを出てタクシーに乗った。エジプトのタクシーはボロくて運転手もパンチが効いている。なにやらぼったくられたような気がしながら、カイロの旧市街の中心にあるモスクの前で降ろしてもらった。この市街を遠目に見るのが目的だったので、とぼとぼと郊外の方に歩いていた。

道中、人々から、ペンと写真撮影をせがまれる。カイロでは行き交う人のすべてが声をかけて来るような印象を受ける。それらの要望に丁寧に対応しながらとぼとぼと歩く。

1時間ほど歩いただろうか。ひと気のない小高い丘に着く。

ふと後方から小型のトラックが近づいてきた。車内に2人、荷台に1人が乗っている。荷台の男が何やら話しかけてきたので、撮影してほしいのかと思い、カメラを向けた。そうすると男は首を横に振る。

次の瞬間ショットガンを向けられてしまった。

「んぉ!!?!!」

自分でも驚く声が出た。お相撲さんが気合をいれると時の声だった。

ショットガンを向けられただけで、お腹に穴が空いた感覚になった。

え、、、本当にこんなことってあるんだ。

壮絶に長い2秒だった。

2秒考えて、僕は右に走ることを決意した。サンダルだったけど全力で走った。背中に穴が開いてもしょうがないと思った。

その時のカバンの中身の仕事道具を奪われることは死ぬことに等しかったのだ。口座に貯金はなかったし、パソコンとカメラにはすべての情報が入っていた。もちろんバックアップなんて取ってなかった。

松田は夢中で、トラックの前方をゆるゆる走っていた普通の乗用車に

「ヘルプ!」

と言ってとび乗った。

幸いにも3人組はUターンをして何処かへ向かっていく。

急に飛び乗った車の運転手はとても親切な人で、安全な場所まで送ってくれた。もしこの人が仲間だったら終わりだと思いながら飛び乗った。

車を降りてから、30分以上震えが止まらなかった。周りの景観のすべてが北斗の拳の世界に見える。全員が暴徒に感じられる。

あの時、ちょっと撃たれただけで死んでいた。

「ただ生きてるってすごい。。。」

松田はつくづくそう感じた。


震えながら描いたモスクの絵。この日も猛烈に暑かった。