長編小説は長い! ・・・ので、自作短歌
長編小説は長い!・・・あたりまえですけど。
長い小説を読んでいると、なかなかレビューを書くまでに至らないので(並行して何冊も読んでいたりするので)、自作短歌で日を繋ぐことにしようかと。駄作ですけど。
僕だけの夏
庭先に小さきクワガタを見つけたりそこに命の在るを思へば
六月の街にビルの嶺その陰に梅雨の気配を忍ばせながら
プランターに茄子のゆらりと下がりゐてこんなところに僕だけの夏
レモン汁は金の日溜まり夏がきて目眩のなかの遠雷のごと
そして夏は人待ち顔でやつてくるまだ握手さへしてゐないのに
真昼間のレモンチユーハイ四十度海岸線をゆくカブリオレ
夏雲に近きハイウエイを走るときあの日の我にまた出逢ふごと
炎天の下で静かに灼けてゆく時刻表なきバス停留所
夏と春の狭間に歌を拾ひつつ今宵の雨にふと浮気する
それぞれに翔ぶことそして歌ふこと雨脚の間を駆け抜けて夏
風の星
この町で風の香りは土の香り水の香りは哀しみの果て
走ることなき自転車を川縁の芒の原に隠したはいつ
次の世もまた次の世も在るものを今のみとふは寂しくはないか
雨よりもヘツドライトを気にしたり見えぬ柩を運ぶごとくに
寝台に乗りし日もあり風待ちの茜に暮るるホームは下り
真夜中の雨の終はりの寂しさはうづくまる子の背を見るがごと
人生の裔は分厚き過去問をたつたひとりで問き終へしのち
わたくしは風の星など持つといふでは何を見むあの塔のうへ
古き地図を辿るがごときPCのメールに残る幾つもの過去
教科書を開きてみたり何故か降り続く雨降り止まぬ雨
夢二の栞
装丁の擦り切れたるを撫でをれば夕日傾く図書室のにおひ
テーブルに古き夢二の栞あり朝の日差しに紛れゆくごと
古書店の軒端に垂るる雨雫をひとり荷風が気に病んでゐる
*荷風/永井荷風
寄港地のその名前だに知らぬものまして吾を待つ人のことなど
二巻めのブデンブロークを前にして今宵は風が強しとぞおもふ
*ブデンブローク/「ブッデンブローク家の人びと」 トーマス・マンの小説
缶ビールを今宵は開けぬ泡音のごとなる雨の降り始めれば
物語のお供に熱き珈琲を 石畳をゆく馬車に降る雨
古書店を梯子したるはあの夏のアントーニエにまみえむがため
*アントーニエ/「ブッデンブローク家の人びと」のヒロイン
ビートルズののちもロツクは続くごと終はりはいつも無施錠のドア
珈琲のカツプの中に溶け残る古き思想と角砂糖のかけら
満月の朝
ふたたびの満月の朝 神とふは天に真白く置き去りしもの
いくつもの谷より霧の昇るとき山は山としてそこに在ること
空色のベンチの上のランドセルは遠きあの日の失意のカタチ
メタバースのごとき夢より覚めてみれば障子の向かうに鎮座する朝
開演も終演もまた風のなかラストステージは誰もがひとり
戦争もワイドシヨーなるこの昼間 隣家の壁を塗装する音
青鈍のインクで描く数式の√の先の割り切れぬ問ひ
空の底に雷ひとつ残り居てプテラノドンの羽音の響き
降りやまぬ雨の向かうにある街の古きチヤペルは歌つてゐるか
テーブルに奴豆腐と酎ハイとあとは小皿に煩悩ひとつ
かみさま
<2024年6月18日新作>
デカルトのいかにも潔き数式も道標にあらじこの行く末は
時々は涙するのもありですかと遠きあの日の草いきれのなか
からつぽの遺失物係が多すぎて失くしたものがまだ見つからない
街の灯さへ消えてしまつた 僕たちはどこに帰ればいいのだらうか
右肩にふと手のひらのぬくもりが 午後の日差しにひそむかみさま
砂浜でビーサンが片方灼けてゐる水平線が傾いてゐる
はつなつの西日が背なをなでてゆく拾得物にサインするとき
雨上がりの匂ひが好きと言つてごらん幸せはきつとそんなもんさ
陸橋の向かうに今日の茜雲そのとき僕はシルエツトになる
僕たちはこの星の上に立つてゐる例えば一本の杉の木もともに
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