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DX読書日記#11 『デジタル人材育成宣言』 角田仁

Koichan

はじめに

今回は、デジタル人材育成学会会長で、千葉工業大学教授の角田仁先生の「デジタル人材育成宣言」(2021年)を読んでみました。

角田先生は、数年前に30年間務めた東京海上を退職し、大学教員へ転じられた方で、東京海上時代は、IT企画部参与(部長)や東京海上日動システムズ執行役員を歴任された方です。多くのIT人材の育成にも尽力されたそうです。

本書は、日本全体としてのデジタル人材育成について論じたものです。
日本企業のDXの取り組み状況やIT業界との関係等、生々しいお話も楽しむことができますので、
DXに興味のある方には是非お読みいただきたい一冊となります。
今でしたらKindle版をKindle Unlimitedで読めるようです!

本書の概要

著者によれば、日本でDXが進まない理由は、日本企業ならではの、組織と人材育成の問題と、そこから派生するいくつもの課題にあるとのことです。
その上で、ここ数年のデジタル化の取り組みについて一度立ち止まり、どうあるべきかゆっくり考えませんか、と問い掛けます。
 
最初に、これまでの日本企業のデジタル化の取り組みについて、「ユーザー企業」からの目線で詳しく説明していますが、要約してみると、

いまユーザー企業で起きていること

・日本では一部企業で2015年から2016年に掛けてデジタル化の動きが開始
・デジタル化の取り組み開始にあたり、多くの日本企業では専門組織を設立
・これは世界的な傾向
・2018年は国内におけるデジタル化の専門組織の元年

・ここまでの動きは良かった。問題はその後

・多くの経営者は専門組織の部長に次期役員候補の「会社のエース」を配置
・しかし、「会社のエース」は生粋のゼネラリスト。デジタル化に拘りもなく、思いもない
・経営者から丸投げされた専門組織の部長は、必然的に、部下にも丸投げ
・デジタル化は上から下への丸投げされる構造

・一方で、デジタル化の進め方はボトムアップ
・POCをやるのにも部門間調整等で時間が掛かる
・発想や実行力は担当者レベルの域を出ず。組織横断施策や組織変革は困難
・デジタル化で業務効率化が実現できても、日本では人員削減は不可能
・部門を越えた人事異動すら難しい

・立ち上げた専門組織では担当者が見よう見まねでPOCを始める
・コンサルティング会社やベンチャー企業が提案する他社事例ベースのPOCは品質が低く、本番リリースに辿り着かない案件が続出

・デジタル案件はそう簡単ではない
・専門組織を設置しただけでは決してうまくいかない
・ただ、JUASの調査では、専門組織がDXを推進する企業では、DXの成果がでている割合は高い
・「専門組織の設置は正しかったが、組織設計や運営が難しいことが分かった」というのが、現時点での冷静な中間総括

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

デジタル案件を進めるにあたり、各企業でリソース不足(人材、予算、技術)も問題になり、特に人材不足が露呈したとのことです。

デジタル案件を進める上で問題となったリソース不足

人材不足の問題

・データサイエンティスト、AIの専門家等、狭義のデジタル人材が必要
・ITベンダー側でも育成してこなかった。それで日本全体で不足
・これは現在でも深刻な問題

予算の問題
・デジタル化を始めた当初、IT部門とは別に専門組織を設置
・それで予算の拠出元、予算申請のプロセスが混乱した企業もあった
・プロセスの問題であり、トップランナー企業では既に解消していると想定

技術の問題
・深刻だったのはデジタル案件を進めるためのフレームワークやスキル
・ITベンダーは支援できなかった
・デジタル案件は内製化(特に企画や設計等の上流工程)が基本だから
・内製化問題は日本企業がデジタル化を推進する上で本質的な問題の一つ

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

人材不足の問題については、さらに、

・人材不足の問題は簡単ではない
・日本企業はゼネラリスト育成に拘り続け、スペシャリストを中長期的に育成してこなかった
・日本ならではの人事的な諸問題が邪魔をしている

・人材不足は各企業の個別の努力だけでは解決できない
・教育に関する問題。国家レベルで中長期に取り組むべきもの
・諸外国は既に様々な施策を開始。日本は周回遅れの状態

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

また、この人材育成の問題に関して、昨今最も鋭く踏み込んだのは、経産省の「DXレポート」(2019年9月)としています。

DXレポートの衝撃と基幹システムの再構築

・この人材育成問題に昨今最も切れ味鋭く触れたのは経産省の「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」
・業界関係者にインパクトを与えた
・基幹システムの再構築という、最も泥臭く関係者が最も触れたくない話題を取り上げていたから

・「2025年の崖」とは、巨大化・複雑化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合に想定される国際競争への遅れや、我が国の経済の停滞などを指す言葉
・2025年までにIT人材の引退やサポート終了で更にリスクが高まる
・日本企業は大至急、老朽化した基幹システムの刷新と人材育成、ノウハウ継承に注力すべきと警鐘

・本レポートの最大の意義は、基幹システムの再構築がDXの一部と日本企業の経営者に認識させたこと
・基幹システムの再構築に腰が引けているのは、経営者だけでなく、ITベンダーも同様。巨大なリスクを伴うため

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

基幹システムが「巨大化・複雑化・ブラックボックス化」のままであれば、今後ますます重要になる、データ活用もままならないということになりますので、日本企業の中長期的な競争力の劣後が決定的になるということです。

ここで著者は、「日本のDX」は「真のDX」ではないとし、それが日本におけるDXの取り組みが混乱している原因とします。

世界のDX = 真のDX
・「世界のDX」は「ビジネス変革のためのDX」
・デジタル技術と新しいビジネスモデルで組織変革し、業績を改善すること
・「ビジネス変革のためのDX」が「真のDX」

日本のDX
・「日本のDX」は「商品・サービスのデジタル化」と「プロセスのデジタル化」にとどまる
・「商品・サービスのデジタル化」はIT業界が仕掛けたビジネストレンド
・「プロセスのデジタル化」は「基幹システムの刷新」と「スマート工場」

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

著者の問題意識は、「日本のDX」が「商品・サービスのデジタル化」に力点を置き過ぎていることです。
それにより、経営者も現場も疲弊しているとしています。

・経営者も現場もそろそろ疲れてきている
・早くから取り組みを始めた会社は2016年頃からスタート、もう4年以上取り組んでいる
・デジタル技術を使ったビジネスや業務プロセスのアイデアもそろそろ出尽くしている状態
・日本企業では実証実験を数年にわたり行う案件が続出、途中で打ち切る機会がないまま継続
・内製化が基本のDX案件では社内から人材を調達したいが、人材は不足

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

また、デジタル変革に基づく事業戦略や全社戦略の必要性を指摘した上で、著者は以下を提案し、今やるべきことは、デジタル人材やIT人材の育成であるとしています。

日本企業が力を入れるべきは、まずは既存システムのデジタル化であり、営業系システムといった周辺システムを皮切りに、基幹システムの刷新へと邁進することです。
それと並行して社内データの整備を進め、できればデータ基盤などを構築できれば将来に向けた投資となるでしょう。
さらに、このデジタル化とDXを好機と捉え、日本企業の長年の組織課題の解決を図る。
これこそが本書の一番の主張です。

そのために今やるべきことは、デジタル人材やIT人材の育成です。
その裏付けなくして様々な絵を描いても絵に描いた餅に終わります。

『デジタル人材育成宣言』から抜粋

ここからが具体的なデジタル人材育成のお話になります。

最初に、デジタル人材の育成主体と、デジタル人材の流れを示しています。

デジタル人材の育成主体と人材の流れ

小中高教育 → 大学教育 → ユーザー企業(企業内教育)
                    ↑
             → ITベンダー(企業内教育)

『デジタル人材育成宣言』をもとに作成

ここで、育成主体でボリュームが大きいのは、大学教育と企業(ユーザー企業およびITベンダー)であり、
人材の流れでボリュームが大きいのは、大学教育から企業(ユーザー企業およびITベンダー)への流れとします。

このボリュームの大きなところに、どういった手が打てるかが問題です。

著者は、一旦、現在の大学教育の問題点を指摘しつつ、

現在の日本の問題点は、大学教育の論議が中抜けになっていることであり、本来最も中心となるべき高等教育機関でデジタル人材の育成がなされていないことにあります。

『デジタル人材育成宣言』から抜粋

人材育成主体のそれぞれについて主張を展開していきます。

まず、ユーザー企業についてですが、

ユーザー企業におけるデジタル人材育成

ユーザー企業中心の育成へ

・デジタル化時代ではデジタル人材の育成主体はユーザー企業が中心
・デジタル化では繰り返し商品やサービスのレベルアップを図るアジャイル的な手法が一般的
・顧客インサイトの視点が必要、外部者のITベンダーのエンジニアには困難
・AIやIoTやブロックチェーンについては、ベンチャー企業と直接契約も
・スピードを重視し、クラウドなどで実現、ITベンダーの出番は少なくなる
・これらのことでユーザー企業とITベンダーの関係は劇的に変化
・デジタル人材の育成もユーザー企業自ら行う必要が出てきた

ユーザーシフトの急伸
・現在、ユーザー企業とITベンダーでのIT人材の比率は3:7
・IT人材をITベンダーからユーザー企業側へシフトすることが期待される
・DXレポートでは、これを欧州並みの5:5にシフトすべきと論じている
・ユーザーシフトは2018年頃からの顕著なトレンド
・特に、デジタル化推進に必要となるAIやIoTやデータサイエンスの技術者
・ユーザー企業のITベンダーへの「過度な依存」は日本の根深い課題の一つ
・ユーザーシフトはユーザー企業が「過度な依存」から脱局するチャンス

新卒採用はすべて理系の学生に
・日本企業のIT部門は理系ばかりではない、以前は大半が文系、たまたまIT部門に配属された人たち
・海外企業のIT部門は大学でエンジニアリングを学び、企業でも学びを継続
・日本企業のIT部門が勝てるはずがない
・この部分を改めない限り、日本企業のIT部門の競争力強化はありえない
・日本企業ではゼネラリスト志向が根強く存在する
・IT部門では真のエンジニアとスペシャリストを育成すべき
・そのためにまずはIT部門での新卒採用を全て理系学生とすべき
・いったんは日本全体で技術者志向に舵を切りたい

中途採用はスキル偏重にならずに
・喫緊の課題解決のためには中途採用にも注力が必要
・ただ、スキルを偏重しすぎると近視眼的になる
・スキルだけを求めるのであれば、アウトソースした方が適切
・中途採用とはいえ、あくまでも社員の採用

人事異動やスキルチェンジは慎重に
・デジタル人材については、IT部門内でのスキルチェンジも慎重にすべき
・彼らはスペシャリスト、スペシャリティを発揮するために働いている
・彼らがスペシャリストであることを念頭に置かないと様々な施策を見誤る
・さらに、IT部門の人材を「レガシー人材」と決めつけて、新しい分野へのスキルチェンジを諦めないでほしい
・意識改革すべきは、本人もさることながら、むしろ上司
・デジタル部門の担当役員や部長、情報システム会社社長たちは、強い意志を持ってレガシー人材の再教育に立ち向かってほしい

人材の配置と育成──ビジネス部門かIT部門かデジタル系子会社か
・昨今のデジタル人材は主にビジネス部門や専門組織に配置されている
・ただ、そこで育成するかは別の問題、デジタル人材はIT部門で育成すべき
・一般的なユーザー企業では、ビジネス部門で技術者を育成する風土はない
・一方、IT部門には長年にわたる技術者育成の組織風土とノウハウがある

・大企業でデジタル系子会社を持つ場合には、同企業がグループ全体のデジタル教育を担うことを薦める
・同社が担う施策としては、まずはIT部門向けの人材育成が急務
・周辺システム向けの人材供給から始め、最終的には基幹システム再構築のための人材供給が必要
・IT部門全体をデジタル人材にするための活動が必要かもしれない
・次に、ビジネス部門や専門組織への人材供給
・さらにその延長線上として、企業グループ全体の教育を担うことを薦める
・これまでデジタル系子会社はエンドユーザーやビジネスとの接触が少ないことが弱み、デジタル教育を通じて社内人脈が広がる効果もある
・企業グループ内での取り組み事例を教育内容に織り交ぜることも大切

IT部門のデジタル化──自分たちのためにコストと工数を確保する
・IT部門は自分たちのデジタル化には無頓着
・IT部門のデジタル化を実施するために、維持管理費の一部として、IT部門自らが予算を確保する

ユーザー企業のまとめ──デジタル人材は極力自前で育成する
・デジタル人材はITベンダーに頼らず、極力自前で育成する、それが本書の方針、私の強い信念
・デジタル人材として活躍する人たちは非常に優秀、ただ、容易な仕事ではない、胆力も要る、不断の勉強も要る、難しい仕事
・デジタル人材を社内の花形にすることを提案、さもないと優秀な人材は集まらない

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

次に、ITベンダーについては、

ITベンダーにおけるデジタル人材育成

ITベンダーは共創型人材の育成が急務
・今はまだIT業界はITベンダーが主導、そこでの人材育成が日本全体の成否を決める
・日本の大手ベンダーの6社(富士通、日立、NEC、NTTデータ、日本IBM、野村総研)が全発注額の半分を占める
・彼らの動静が、そのまま日本のIT業界のそれと言っても過言ではない
・日本の大手ITベンダーは、当初、デジタル人材の育成に大きく舵を切ることができなかった
・デジタル化やDXの案件を外資系コンサルティング会社やベンチャー企業に奪われる日々が続いた
・日本の大手ITベンダーも、遅ればせながら、昨今キャッチアップしてきた
・デジタル技術の習得だけでなく、戦略立案、業務プロセス設計、プロトタイプ実装等の総合力を身に着け、ユーザー企業と共に課題解決を図っていく「共創型人材」の育成に向けて走り始めている

ITベンダーにいる百万人のスキルチェンジ
・今後エンジニアの再教育が社会のトレンドになる、ならなければならない
・ITベンダーには現在約百万人のエンジニアが在籍、まさに国家を挙げてのスキルチェンジとなる
・百万人のうち半数近くは大手数社の企業グループ内に所属
・大手数社が本気で取り組めば、日本の多くのエンジニアのスキルチェンジは進展する

・スキルチェンジが厳しいのは、30万人を抱えるユーザー企業のIT部門
・基幹システム再構築を進め、それを機に新しいスキルを学ぶことが得策

・IT業界におけるスキルチェンジだけでは、日本全体でのデジタル人材やIT人材の総数が増えるわけではない
・雇用流動性の低い日本では、学生からの流入を増員することが王道
・スキルチェンジとともに総数も増やす、今の日本では、その両方に取り組む必要がある

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

とのことです。

大学教育については、

大学教育におけるデジタル人材育成

大学で基礎的なエンジニア教育を行う
・昨今、大学教育界で注目されているのはデータサイエンス教育
・しかし、データサイエンティストの不足数は数万人程度、デジタル人材・IT人材の不足数とは桁が違う
・まずは汎用的なIT教育を広く実施し、日本全体で総数増加をめざすべき
・一案として、大学で基礎的なSE教育を担うのがよい
・どこのITベンダーやIT部門でも、ほぼ同じ内容で実施、日本全体でみればとても非効率
・高度なスペシャリスト育成のためのカリキュラムはIPAの高度IT人材の内容をそのまま適用でよい
・ITベンダーやIT部門の中での教育を、そのまま大学に移植すればよい
・今後、大学と企業による緊密な連駅が必要な分野の一つ
・ここで問題になるのは、日本で理系の人材が少ないこと、大学生に占める理系人材は2-3割
・技術立国やものづくり大国等と語られる国にあって、この状況は二枚舌、大学の改革から取り組むべき

大学での教員不足と地方の活性化
・大学での基礎的なSE教育で、まず課題となるのは、教員不足の問題
・これに対しては産業界から大量に教員を派遣することを提案する
・政府からの補助金や非常勤講師の枠を増やすなどの多少の規制緩和は必要
・この取り組みは、これまで停滞していた産学連携のきっかけ作りにも最適
・IT企業は地方には少ないのが現状、大都市にあるIT企業が地方へ進出する機会も生み出す
・地方の優秀な若者の新卒採用にも役立つ、好循環が生まれれば、地方経済の活性化にも役立つ

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

とのことです。

最後、著者が代表発起人となり2021年に設立した、デジタル人材育成学会について説明しています。
 
学会設立の趣旨や背景ですが、

・デジタル人材やIT人材を質量ともに豊富に育成するためには、現場の経験や知見を表出し、抽象化し、他の現場へ横展開する必要がある
・この一連のシステムを力強く、効率的に回すには、企業間の連携と企業と大学の連携が必要
・現場の経験や知見を表出する部分と他の現場への横展開には、産業界の協力が必要
・現場の知見を抽象化する部分には大学関係者によるアカデミックな支援が役立つ
・この取り組みの肝となるのが中立的な場の提供、企業と大学の双方が安心して参加できるプラットフォームの構築
・この「中立的な」という部分に少しこだわった

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

また、今後の抱負を以下のように語っています。

・企業-企業間、企業-大学間の連携については、出会いの場を設定するだけに止まらない
・さらに一歩踏み込み、個別にコンサルティングに近い活動を行いたい
・学会として、自ら調査・研究を実施し、情報発信も行っていきたい
・さらに、海外の機関とも連携したい、など、やりたいことは盛りだくさん

『デジタル人材育成宣言』から抜粋、編集

おわりに

角田先生の学会の活動がうまくいくといいですね!
陰ながら応援させていただきます!

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