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(49)子どもたちのプライド

 新規感染者数が現象傾向で、少しずつですが、対面のワークショップも始まっています。
 そのような状況でこのところ増えてきてるのは、「子どもだけのワークショップ」というよりも「親子で参加するワークショップ」です。子50歳・親80歳など、どんな年齢の親子でも良いのですが、ここでは小学生まで位の親子ということで話を進めます。

ワークショップに親子で参加する

 コロナ以前だと、親の気持ちで考えると「子どもが楽しんでたり、子どもたちがつくる劇を見たい気持ちはあるけれど、ワークショップに子どもだけ預けて、自分の時間を少しつくりたいかも…」ということが多かったように思います。
 もちろんそうじゃない人も多かったと思いますが。

 しかし最近は子どもだけではなく、親子参加を基本とするというワークショップも少なくありません。
 感染者数がもっと多かった時に、初対面の人と触れ合うのはもちろん、距離が近くなるのもちょっと…、という感じがありましたが、親子であれば手をつないだり、おんぶしたりするということも可能です。
 私が進行する演劇を基本としたワークショップであれば、距離が近くなったり手をつないだりすると表現の幅が広がるので、初対面の人とでは物理的に出来ない表現も親子であれば出来るということがありました。
 そんなことから、子どもだけというよりも親子で参加というようにシフトしていきました。

 また親にしてみても、これまでは子どもをワークショップに預けておいて、家事をしたり買い物をしたり、もっと小さい兄弟の面倒を見られる、みたいなこともあったのですが(全員じゃないですよ。そういう面があった人もいるかもしれないという話です)、自分自身がStay Homeの名のもとに外出をあまりしていなくて、何か楽しいことをやりたいという気持ちが芽生えてきたということもあります。

 子どもが演じているのを見るのは楽しいけれど、自分がやるとは思えないし、また、自分が演じているところを子どもに見られるのも照れてしまう…、みたいなこともあったと思います。

 しかし良くも悪くもコロナの状況は、人々の行動や気持ちを変化させました。これまでも「子どもだけ」と限定していたわけではないので、親子参加は可能だったわけですが、「親子参加して良いですよ」と表記すると心理的に気安いということもあるかもしれませんが、実際親子参加が増えています。

グループ分け、どうする?

 で、まあ、楽しいワークショップが行われるわけです。私のワークショップは演劇をつくって最後に発表するということが多いのですが、その演劇をどうやってつくろうかを参加者に聞くようにしています。

1:なんの制限もなくランダムでグループ分けをする
2:子どもグループと大人グループに分かれる

という二つです。ランダムで分けた場合でも親子が同じグループになる可能性はあります。また、子どもによっては自分の親と一緒が良い、というように思う子どももいます。その場合は、仮に2に決まったとしてもその子どもは親と一緒にやるようにグループ分けを工夫します。

 これを決めるのは、ワークショップの中盤から後半にさしかかるようなタイミングです。ここまで、参加者同士は仲良くなっています。最初の頃は親の横に座っていたりヒザに載っていたりすることも少なくありませんが、大人通しが仲良くなっていることも手伝って、子どもは子どもで遊び始めます。

 そんな時にグループ分けについて提案をすると、ほとんどの場合「子どもグループと大人グループに分かれる」と言います。そしてそのほとんどは子どもの方から言うことが多いのです。

 自分も親なので、自分の気持ちを言うと、一緒に楽しい演劇をつくりたいという気持ちもあるけれど、子どもが表現しているところをみたい気持ちの方が少し上回っているように思います。そんな気持ちの人が多いかもしれません。

 一方子どもにしてみると「最初は不安だったから親の横にくっついていたけれど、今は不安はなくなっている。親と一緒に何かやるより、自分たちだけで何かやりたい。むしろ大人のつくる演劇より面白いものをつくってみたい!」という気持ちがとても多いように思います。

 子どもグループにも、100%子どもでやることは少なく、中高生がいたり(その中高生も、自分から子どもグループに入ると言った人だけです)、私やスタッフの一人が入ったりするということが多いですが、基本的には子どもたちの発想を活かしながらつくっていきます。

 実際のところは、子どもたちだけでつくると時間はかかるし、つじつまが合わなかったり、練習に飽きてしまって遊び始めてグループのメンバーに「ちゃんとやろうよ」と言われたり、アイディアがどんどん出てきて収拾がつかなくなったり、前に練習したことを忘れたり、前に決めたことと違うことがやりたくなったり……、と、まあ、大変なことが多いのですが、それでも発表をすると、どの子どもも「やった!」という達成感と満足感に溢れた顔でワークショップから帰っていきます。

土井義春さんの言葉

 先日、Eテレの「グレーテルのかまど」という番組で、料理研究家の土井義春さんがおっしゃっていたのを聞いて、「ああ、これはワークショップにも通ずるものだな」と思ったので紹介します。

 土井さんは、フランスや日本料理店で修業をした後、父である故・土井勝さんの後を引き継ぎ、Eテレの「きょうの料理」などで活躍されています。
 土井さんはそれまで料理人として修業をしていたのですが、家庭料理を教えることになり、葛藤があったそうです。しかし家庭料理を突き詰めていく時にあることに気づいたそうです。

 料理人のつくる料理は、例えるなら高い山のとても上の部分です。雪が被っているような部分で、それはもう素晴らしいものです。
 でも、家庭料理というのは、もっと裾野の方にあって、でも、高いところに咲かない花がたくさん咲きます。その花はとても美しいものです。そのことに気づいたんです。
 それから家庭料理の素晴らしさを多くの人に広めていくことになったんです。

土井義春さんの言葉ですが、正確に書き起こしたものではなく、私がとらえたニュアンスです

とおっしゃっていました。

 これを聞いた時に、ああ、僕のやっているワークショップというのも同じだなぁと思いました。
 高い山の頂上にある演劇は、それは本当に素晴らしくて、でも、裾野にある表現も、頂上にはない花を咲かせることが出来て、それはとても豊かなものなんだ、と改めて思いました。

 子どもたちは、もしかしたら直感的にそのことを知っていて、もちろん大人に対する対抗意識というものはあるかと思いますが、自分たちの楽しいと思うことを自分たちだけで表現したいという、子どもたちのプライドがそこにはあって、私はこれからも、そのことを大切にしていきたいと思っています。

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