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(35)海外在住の方とつながる 〜小学生のためのワークショップの実際3

 3日目です。最初は、ウォームアップと思い出しをかねて、昨日つくった場面をもう一度練習して見合います。なんでもそうですが、1日経ったり、直後でももう一度やり直すというのは、つくられる演劇がブラッシュアップするのでとても良いことです。
 お話(演劇)をつくっていると、どんどんアイディアが出てきて、結局「通して」練習することができないなんてこともありますが、誰かに見てもらうというのは、中途半端でも曖昧でも練習不足でも、とにかく通して(続けて)最初から最後まで演劇をやり切らなくてはなりません。その意味で、他の人に客観的に見てもらうというのは非常に大きな練習(ステップアップ)になり得るのです。

 長くなってしまったのと、写真や絵がないですが、最後までおつきあい頂ければ、と。

【24】-9 絵からオリジナルの物語を考える

 さて、いよいよ物語をつくります。物語をつくるといっても、聞いたお話の絵をどのように並べるかということを考えるだけです。同じエピソードを描いた子もいます。その場合は二つで一つと考えれば良いでしょう。

 断片の絵がグループには人数分あります。例えば

・スーパーの果物売り場
・家で、オンラインで授業を受けている様子
・公園
・学校

というような絵があります。ここから

1:家でオンラインで授業を受けている様子
2:公園
3:スーパの果物売り場
4:学校

という順番に並べ替えたとします。このこと自体は聞いた話です。ですが

1:家でオンラインで授業を受けている様子
  家にいるのがつまらなくなったので、外に行くことにする
2:公園
  おなかが空いたのでスーパーに行くことにする
3:スーパの果物売り場
  スーパーで先生に会って、明日から学校だと聞かされる
4:学校
  友だちと学校で楽しく遊ぶ

というように、途中を「フィクション」で繋いで物語をつくるのです。この時大切なのは、「聞いた話を嘘にはしない」ということです。
 今回のようにそれほど重くはない話であれば良いですが、例えば事故に遭ってしまったなど、デリケートな内容を聞いた時には特に、お話し下さった方のことを思って、つまり、つくった演劇をその方が見て不快にならないように気をつけながらつくることがとても重要だと考えます。

 前日にお話しを聞いたばかりと言うこともあるのか、自分たちのオリジナルを楽しみながら、「不快にならないようにね」なんて伝えなくても、子どもたちはお話し下さった方のことを思い出しながら物語を考えてくれました。

 また「教えてもらった言葉(ポルトガル語やスペイン語)も、どこかに入れよう!」伝えます。違う国の言葉を使うのは楽しいですし、何故だか分かりませんが、普段声が小さい子も、例えば「ブエノスディアス(スペイン語のおはよう)」なんて言葉は、とても大きく言えたりします。不思議な力があるようです。

【24】-10 中間発表 〜意見交換

 演劇をつくる時間というのは、幾らあっても足りません。1日の時間は2時間しかないので、20分位したら、一度発表してもらうことにしています。
 私は出来る限り「中間発表」という機会を設けようと思っています。いや、中間発表の機会を設ける、というよりも、発表を一回限りにしないように心がけている、と言う方が近いです。

 ワークショップで演劇をつくっている時によく見かけるのは、練習不足で発表が上手くできなかった、というものです。大人の場合でも、子どもの場合でも、どちらにも起こり得ることです。

 大人の場合は

「何も面白いアイディアが思いつかない…」
「面白いアイディアを思いついたけど、こんなこと言ったら変なヤツと思われないかな…」
「自分が言わなくても、誰かが良いアイディアを出してくれるはず」
「取りあえず様子見!」

みたいに、なかなか議論が活発化しないことが多々あります。特に知りあって間もない人たちとやる時にはよくあります。結果、何となくアイディアが出てきて、こんな流れにしようと決まったところで、実際に動いたり声にしたりする時間がないままに発表を迎えてしまう…、みたいな感じです。
 二人が出会うシーンから始まる、ということが決まっていたとしても、誰がどちらから、どんなタイミングで出てくるのかというのは、実際に動いてみないと明らかにならないことが多いのです。

 子どもの場合は、当たり前ですが、大人よりも生きている時間が短いので、引き出しが少なく、思いつかないことがあります。
 また逆に、アイディアがあふれ出続け、

「これやろうよ」
「それなら、こんなのはどう?」
「その後、お化けが出てくるのはどう?

というようにいつまでも物語をつくり続けてしまうことがあります。物語だけではなく、例えば、歩く、という一つの動作にしても、ただ歩くのではなく、スキップしながら大回りしたり、途中でバナナの皮に滑ったりと、アイディアはとどまることをしりません。
 途中まで練習していても、新しいアイディアが出るたびに中断してしまい、最初から最後まで通して練習できないということも少なくありません。

 大人と子どものよく見かける場面を紹介しましたが、逆のこともあります。大人だってアイディアが止まらないことはあります。

 とにかく、演劇は「グループの全員が、何が起こっているか承知して、最初から最後まで続けてやり、ブラッシュアップをするにしても、基本的には同じことをくり返しやれるようにする」ものです。そうでないと「見ている人に伝えることが曖昧になってしまう」ので、練習で一度は最初から最後まで通してやってみるというのがとても重要になります。

 しかし、なかなかそう上手くはいかないのです。分かってたらとっくにやっているはずですから…。とするならば、強引にでも「発表の場」をつくることで、最初から最後まで、上手くいかないなりにも、通すことをできる機会を得られます。一度通して演劇をするからこそ、「今、何がダメだったのか」「どうして失敗したのか」「もっと伝わるようにするにはどうしたら良いのか」を考えられるのです。

 その機会が中間発表です。でも、最初に書いたように、中間発表をすることが主たる目標というよりも、「やり直せる機会を増やす」ことを目標と、私はとらえています。

 1回だめでもそれで全てが終わりじゃない、人間は失敗するものだ、みたいな感覚が、子どものみならず大人にも生まれると良いなぁと思います。
 オンラインでのワークショップは、実は、曖昧な部分が少なくなっているように感じていて、ダメだった場合「ダメだ」と思って、画面をオフにしてしまうのも簡単です。
 もちろん、自分でオフに出来るというのはメリットでもあります。でも、失敗したことを、仲間やその場にいる人が助けてあげたり、その場にい続けることでやり直せる機会を得られるというチャンスが失われてしまうのは勿体ないです。

 オンラインでのワークショップは、デジタルに依存することが多いのですが、1か0だけでなく、0.5とか0.1とか、0と1には間がある感覚を、対面でやっているワークショップの時には特に意識できると、オンラインでのワークショップにも結局還っていくような気がします。

【24】-11 子どもたちの作った劇の内容

 話がそれました。では実際に子どもたちがつくった劇のあらすじをご紹介します。動画で紹介したいところですが、なかなか難しい時代です…。

ブラジル1 「ブラジル大冒険」
・子どもたちがブラジルにバスで行くことを企画(バスの映像を見たので)
・ブラジルに着いたら夜だった(時差があることを知ったため)
・スーパーに行く(スーパーの写真を見たので)
・バナナを買う(買う人以外はバナナやレジになる)
・「チャオ、チャオ!(さようなら)」(覚えた言葉)
・全員がバナナになって踊る
・人間に戻って、公園に行くことにする(公園の映像を見た)
・楽しかったので、疲れて寝る

ブラジル2 「ご褒美のバナナ」
・子どもたちが学校で遊んでいる
・先生が着て授業が始まる
・「ボンジーア(おはよう)」(覚えた言葉)
・五十音を勉強する場面(日本語を勉強している映像を見た)
・勉強したご褒美に(笑)バナナとデコポンを勝手欲しいと言う
 (バナナとデコポンの写真を見た)
・先生が買いに行くが、途中で水槽のある公園を通る(写真で見た)
 (先生の役以外の子どもは、魚になったり水槽になったりする)
・先生がバナナとデコポンを買う(他の人は物を表現)
・「買ってきたよ」と先生が言うと、全員が生徒に戻る
・喜ぶ子どもたちを「走っちゃダメです!」と戒める

ブラジル3 「学校へ行こう!」
・「ボンジーア!」といってスクールバスに乗る(バスの映像を見た)
・日本語を勉強する場面(机役の子もいる)
・お昼ご飯の場面(給食の写真を見た。給食を描いた絵を使う)
・食べた後、「チャオチャオ!」(覚えた言葉)と帰る

ブラジル4 「ブラジル旅行」
・家族でご飯を食べている時に、子どもが「ブラジルに行きたい」と言う
・お母さんは「行けない」というが、子どもたちだけで行くことにする
・スーツケース(スーツケース役の子もいる)を持って、空港へ
・空港のカウンターでスーツケースを預ける
・飛行機でブラジルに行く(全員で飛行機を身体でつくる)
・スーツケースを受取る
・自分たちが書いたひな人形の絵を見て「ブラジルにもひな祭りが
 あるんだね」と言う(日本文化を教えるためのひな壇の写真を見た)
※メキシコ編は、タイトルを付ける時間がありませんでした

メキシコ1
・子どもたちが散歩の途中で古い教会を見つける(教会の写真を見た)
・夜、教会に行く(教会のドアの役の子が開く)
・中に入ると、教会のお化けが出てきた(教会にはお化けが出るという
 話を聞いた)

・子どもたちは驚いて逃げようとするが、「友だちが欲しかった」と言う
・お化けは、悪い魔法使いに捕らわれていた
・教会に化けていた魔法使いが、子どもたちも捕らえようとする
・そこに、教会の十字架に変身していた勇者が現る
・勇者は魔法使いにやられてしまうが、子どもたちが、お化けに弱点を
 教わって、魔法使いをやっつける
・お化けが「グラシアス(ありがとう)」と言う(覚えた言葉)
・気を失っている魔法使いが可哀想になる。勇者が「ブエノスディアス
 (おはよう)」(覚えた言葉)を3回言うと起きる
・魔法使いは起きて「ロシエント(ごめんなさい)」(覚えた言葉)
 言う
・魔法使いが改心したので、みんなでパーティーをすることにする
・魔法使い以外がピニャータ(くす玉)になり、割る(動画で見た)
・トルティーヤ(トウモロコシ粉のクレープ、写真を見た)を食べる
・全員で「ビバ・メヒコ(メキシコばんざい)」(覚えた言葉)と言って
 おしまい

メキシコ2

・東方の賢者が、寝ている子どものところにプレゼントを持ってくる
 (サンタではなく賢者が持ってくるという話を聞いた)(プレゼント役の
 子どももいる)
・と思わせておいて、幽霊からのプレゼントだった(話を聞いた)
・手紙があり「赤い教会で遊びましょう、幽霊より」と書いてあった
 (赤い教会の写真を見た)
・子どもたちは、幽霊の待っている赤い教会に行くことにする
・子どもたちは、幽霊が急に出てきたので驚くが仲良くなる
・「ポサーダ(クリスマス前に行うパーティー)」(写真を見た)
 幽霊と一緒にやることにする(踊ったりする)
・別の子どもが現れ「一緒にピニャータしよう!」(動画を見た)と誘う
・ピニャータを割る(動画で見た)(割る人以外はピニャータになる)
・「ビバ・メヒコ」(覚えた言葉)と言って、幽霊とこれからも仲良しに

メキシコ3
・パソコンで授業を受ける風景(ずっとオンラインだという話を聞いた)
・「ブエノスディアス」(覚えた言葉)
・授業で、教会を調べることになり、夕方、集まって教会に行く
 (教会の話を聞いた)
・雨が降っている(見た写真が、雨が降っていた写真だった)
・調べる子ども以外は、教会を身体でつくる
・幽霊が泣いているので、子どもたちは驚いて逃げる(聞いたお話)
・教会を出て、「先生に知らせよう!」と言って終わる

 読んで頂けると分かりますが、ブラジル編もメキシコ編も、聞いたお話や見た動画・写真のことを取り入れながら演劇をつくっています。ブラジル編は1・2年生、メキシコ編は3・4年生だったので、メキシコ編の方が物語が長く、聞いたお話以外の想像の場面が多く含まれています。

 このビデオをお話し下さった方にお送りしましたが、とても喜んで下さいました。

 世田谷区の広報の方が取材に着てくれて、世田谷区内ですが、学校や図書館、区の掲示板などに貼られるポスター式の広報に取り上げて頂きました。

画像1

画像2

 機会があれば、見て頂ければと思います。

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 遠く離れていても、遠く離れているからこそ、知らないことに出会えたり、自分たちの中でも新しい発見があったりするように思います。
 コロナ禍では、実際に会ったり、出かけたりすることは難しいですが、だからこそ広がった可能性もあると私は思います。

 これからのワークショップは、「対面じゃないと!」「オンラインで完結する」というような、どちらかということではなく、両方の良いところを捕らえながら、子どもたちや大人の参加者であっても、大切なことを見失わずに進めていけたらと思います。

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