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コロナについての疑問(2)

これは(2)です。まだの方は(1)から読むのをおすすめします。

スーパーコンピュータでのシミュレーション [会食]

 
 日本一のスーパーコンピュータ富岳による、コロナウイルスの飛散シミュレーション結果がテレビなどで時々紹介される。

 それについて、「そんなこと、スーパーコンピュータで計算しなくてもわかるだろ」などというツッコミが時々あるが、まあ、人間が適当に考えても、実際にどの程度の量がどの程度の距離まで届くのかなどは正確にはわからないから、そういうツッコミはそんなに鋭いものとは言えないだろう。


 で、今回は、4人テーブルで食事をするシミュレーションについて取り上げる。

 この結果によれば、話している人の正面の席の人にはウイルスが届くが、隣の席の人には、ウイルスがほとんど届かないという結果だった。そして、テレビのナレーションなどでもそういうふうに説明する場合が多いようだ。
しかし、現実はそんなに単純ではない。4人でご飯を食べるとき、ずっと前だけしか向かずに食べたり話したりする人がいるだろうか?普通は隣の席の人とも顔を見合わせて話すだろう。しかし、一般に、隣の席の人の方が、テーブルをはさんだ正面の人よりはるかに距離が近い。だから、隣の席の人に向かって話す方がウイルスを相当多く浴びせるだろう。

 だが、シミュレーションではそういうことは示していないし、テレビでも補足のコメントはないことが一般的である。


 この結果をテレビなどで見た普通の人は、「ああ、正面は危険なんだな」と考えて、正面でなく、隣の席に座ろうとするかもしれない。そうなると至近距離だ。しかし、隣の席に座る方が実際には危険だとしたら、テレビで報道されたシミュレーション結果は、結果的にかなり誤ったメッセージを視聴者に届け、むしろ感染を増やしている可能性すらあるかもしれない。

 本来は、シミュレーションは、顔が前に向いた場合だけではなく、隣の人の方を向いた場合も計算し、前を向いている場合と隣を向いている場合の時間の長さを考慮して危険性を総合的に評価する必要があるだろう。隣の席の方が距離が近い分、話している間の危険性は高いが、顔を隣に向ける時間は前を向いている時間に比べてどの程度短いからリスクはどのくらい、といった、かなり複雑な問題になるだろうが、現実は複雑なのだから、仕方ないだろう。


 一般に科学者は、状況をかなり単純化してシミュレーションを行い、その理解の基礎データとする。それは意味があり重要なことだ。だが、そうしたシミュレーション結果をさも得意げにそのままメディアに提供する場合もある。しかし、シミュレーション結果を報道する場合には、単純化された理想的な場合のシミュレーションをそのまま出すことが、視聴者を誤解させることも大いにある。科学者たちには、そういう映像の与える実際の影響や視聴者に送られることになるメッセージを十分に勘案し、きちんとした説明や注意とともに出してほしいものである。(ちなみに、京都大学の西浦教授のシミュレーションも、かなり単純化したモデルの結果である。それ自体には意味があるのだが、やはり大いに誤解を生んでいた。)当然メディアもその点の誤解が生じないように報道すべきことは言うまでもない。


追記:2020年10月14日

 ついに、理化学研究所の坪倉誠氏らのグループが、富岳を使って、会食において隣の人に話しかける場合をシミュレーションした結果を10月13日に発表したようだ。それによれば、向かいの席にいる人に話しかけるより、隣の人に話しかける方が5倍ものウイルスを浴びせることになるとのことである。まあ、当たり前だろう。もっと早くシミュレーションしてほしかったが、人々にとって必要な情報が公開されてたいへんよかったと思う。


(3)に続く!


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