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感情タイタン 〜とある休職中のオタクの想いごと〜

 いつも15分くらいでメイクも髪のセットもできていたのに、倍以上の時間がかかってしまった。何も特別なことはしておらず、むしろマスカラは省いた上に、髪も巻かずにまとめただけで手抜きなくらいなのに、何事にも時間を要してしまう。気がつけば家を出る時間がすぐそこまで迫っていて、とても焦った。

 服や必要書類、持ち物類を事前に準備していてよかった。乗換案内であらかじめチェックしていた時刻の電車に乗り込み、予定通りの時間にクリニックへ到着。約一か月ぶりの診察だった。

 主治医に近況と体調について聞かれるだろうから、自分なりに言いたいことはまとめておいた。iPhoneのメモやこのnoteに綴っていたことが、私の心や体に起こっていることを言語化する上でも、おぼろげな記憶をたどる上でも、とても役に立った。ありがとう、メモ魔で何かしら書いて残したがる私。

 私は先週、同僚から復職についてのLINEが来てから体調を崩してしまったこと、そして今週、上司からの連絡でもまた同じように体調に影響をきたしてしまったことを話した。

 空が白んでからやっと眠りにつき、二、三時間で目覚めてしまうこと、気分の落ち込みが激しく消えたくなってしまうことなども伝えた。

 主治医は頷きながら聞いてくれた。私は話している内に、「早く楽になりたいです」と訴え泣いていた。それはもうボロボロに。さぞかし先生は困ったことだろう。(メンタルクリニックだからこういう患者には慣れてるかもしれないけど……)

 本来なら休職期間中は月に一度の受診を予定していたところが、症状が悪化しているので二週間に一度になってしまった。職場からの連絡がきっかけで体調を崩しているのが明白なこともあり、退職をしない限り回復に時間がかかるだろうとのことだった。先月も同じことを言われたなぁとぼんやり思う。

 薬には頼りたくなかったけれど、メンタルがあまりにもガタガタで感情の落差がジェットコースター並みに激しいので、相談の上、必要と思われるものを処方してもらうことになった。

 診察が終わり、薬局で処方された薬を受け取った。クリニックの後は、有名なパン屋に寄り、そこのイチオシを買った。駅前の書店にも寄ってみたけれど、いつもならあれこれチェックして楽しむはずが、心が鈍ってしまっていて何に対しても興味が湧かず、欲しかったライフスタイル雑誌のバックナンバーを見つけたにも関わらず、ちらっと横目に映しただけで手に取ることなく店を出た。

 帰る途中、上司から連絡があった。病院での診察結果を訊ねるものだった。私は正直に悪化していることを伝え、退職の意志と、ここまで尽力してくれたことについて期待に添えず申し訳ないと詫びた。

 するとすぐに返信があった。そこには、「あと一か月あるので大丈夫です」と書かれていた。

 何言ってるの、この人。と、正直思った。確かに休職期間はあと一か月残っている。でも、症状が悪化していて、先日から復職について難しいと感じていることを伝えているのに、どうしてあなたが大丈夫って言うの? なんでそう思えるの? 大丈夫かどうかを決めるのは私と主治医であって、あなたではない。

 腹立たしいやら、虚しいやら、気付けば視界が滲んで涙が溢れ出た。この人は私の話をちゃんと聴く気があるのだろうか。それと同時に、私のことを考えてくれている人に対してこんな風に思う自分は心が汚れているのではないかとも思った。ただでさえ今メンタルが正常ではないし、被害妄想が入ってきている可能性がある。でも。違和感があるのも事実。

 ああ、もういいや、と思った。上司に対しては、宗教に勧誘されたことはひとまず置いといて、私のことを考えてくれているから大事にしないといけない人、という思いがあった。私のことを気にかけてくれているのはありがたいことだと、そう思っていた。でも、先日電話で話した時にも思ったけれど、私の話に耳を傾ける素振りはしつつ、自分の思うように話を進め、どこかイエスと言わせようとする節があった。話をいつの間にかすり替えられていることにも、後になって気がついた。

 そうしてふっと思ったのだ。自分を擦り減らしてまで相手の望む自分でいること。感謝をしないといけないという思い込み。それらから解き放たれたい、と。

 恥ずかしい話だが、帰り道はほとんど泣いていた。平日の昼過ぎ、しかも酷暑ということもあり、道ゆく人や、電車で乗り合わせた人がそう多くなかったことが救いだった。外ではずっと日傘を差していたし、マスクで顔の半分以上が隠れていたのも助かった。涙でべちゃべちゃになったひどい顔を晒さずに済んだ。

 帰宅してからも泣いた。泣きながらパンを食べた。さすが有名店のパンだけあって、めちゃくちゃ美味しかった。そして、美味しいと思える自分に安堵した。

 ここまで書いて、今回はオタクネタを一文も書いてないことに気がついた。

 実は今朝、枕元にいるぬいちゃん(※推しのぬいぐるみ。とてもかわいい)にこんなことを話しかけた。

 一緒に転職活動がんばってくれたのにごめんね。

 どういうことかと言うと、私はしんどかった転職活動をぬいちゃんと共に乗り切ってきた。面接や会社見学についてきてもらったし、内定をもらった時はすぐさま報告した。心の支えにしていた。この気持ち、わかってくれる人はわかってくれると思う。

 本当はいい報告をしたかったのに、こんな状態になってしまって情けない。情けないなりに、もがいて、足掻いて、このしんどい状態からどうにか抜け出したいと思う。

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