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第3回 人がよろこぶことの方が、お互い幸せになる。

構成と文:上田浩平 イラスト:安村シン

デザイナーになる決意をする前は、
作曲家になりたかったシン
さん。
でも、就職活動をすすめていく過程で、
ご自身は音楽の道に進むよりも、
小さい頃から得意だった、
絵を描くことやデザインをする方が
向いていると気づきます。
絵を描くことが、シンさんにとって、
どういうものだったのか。
学生時代のおともだちとのエピソードを
聞いていて、いいなぁと素直に思いました
そこには、デザイナーに進むシンさんの強い動機が
含まれていました。
その話を受けて、上田も、小さい頃、
どんな動機で、ものごとに取り組んでいたか、
話しはじめていました。

やりたいけど、音楽をつくる動機がなくなってしまった。

シンさん
でもそれ(音楽づくり)は、結局、
その頃(就職時期)で終わっちゃって、
デザイナーになるってときから、
一切やめようと思って、
全然やっていない、音楽つくるっていうのは。

上田
オーケストラの演奏は、やっている?

シンさん
演奏はやっています。音楽は好きなので。

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(写真は、シンさんが、現在所属されている楽団です。担当楽器はバイオリン。ポスターデザインは、シンさん)

たぶん、
ほんとうは(音楽づくりは)やりたい……、
いつかはつくりたいんだろうなって、ある種。
でも、それはあまり(周りからは)
求められていないから、
そっちはリソースおさえて、
あまり自分は……、仕事にはならないなと思ってて。
趣味でやるにしても、誰も求めてない部分だなって
自分で思っていて……、
あまりそっちはやっていっていない、
なんだろう……。

上田
動機付けが難しい、実際に行動する動機として。

シンさん
そうなんですよ。
結局つくって、
自分が満足したところまでが最高で、
それ以降に、
ただ発表して成功体験を得たことがないので、
音楽に関しては。
やっていくゴールがまったくないんですよね。
その中で、忙しい時間を縫ってやっても、
自分の満足で終わっちゃうから。
それだったら、他のことで満足を得た方が、
今はいいかなって。
一応それでやっているんですけど。

上田
ぼくは、まだ、
ちょっとあらがっている感じですね。
完全に(誰かを)サポートする側の人間に
徹するかに対しては、
8割ぐらいじぶんの中で
納得しているんですけど……、
あ、数字はあんま関係ないですよ。

シンさん
はい、気持ちとして、それぐらいっていう。

上田
2割ぐらいは、どっかで、
まだ、あきらめていないんで。
それを、どうするのがいいのかなって
思ったときに……、なんだろうな……、
アプローチの仕方を変えようかなと思っていて。
仕事だったら、こういう企画をやりたい、
こういうスタッフさんと一緒にやりたいってのは
あるんですけど、
それがぼくの2割にあるんですけど。
そういうアプローチはやめようかなと。
まずは、クライアントさんがいたりとか、
クリエイター自身がやりたいと
思っているかどうか、
じぶんのやりたいはいったん抑えて、
その中でじぶんのできることを
実験していくスタンスですね。
アプローチの仕方を変えたっていうのは、
何かっていうと、
「別にじぶんが個人的に勝手にやる分にはいいでしょう」
って。
勝手にどんどんアウトプットして、続けていく。
そのときに、才能があるなしは置いといて、
こんだけやったぞというもの自体が残れば、
それは一つの(ぼくの)意志表示にもなるし、
そんだけやれるんだったら、
やってみますかっていう話は
ありうるかもしれないなって、
今の世の中的に。
だから、形に残しておくこと自体は、
やり続けた方がいいのかな。
芽が出るかは相手が選ぶことなので。
そこに対して、あきらめていないっていう
意味になりますね。
だから、シンさんの言っていた
労力のかけ方として、
やりたいけど、そっちに労力かけないで、
こっちに集中するってところに対して、
ぼくは、まだ、あらがって、
労力かけようかなって思っています。

シンさん
僕の場合、もう一個ちょっと複雑なのがあって。

上田
はい。

シンさん
作曲をやりたいっていうのは、
もちろんあったんですけど、
それで任天堂の曲がつくりたいっていうのが
あったんですね。
その一番が、たぶん、
任天堂という会社のイメージ、世界観、
仕事の仕方、ビジネス的に、
あんなやり方している世界っていいなぁって
思って。
そこに入るっていう目的が、
まず第一にありました。

上田
会社に。

シンさん
そう、その会社のような仕事だったら、
自分も仕事していけるって、
その世界観に入るためのツールとして、
作曲をやって、けっこう……、
そのルートだったら、
ありうるんじゃないかなって思って、
やっていたところもあります。
その半分くらい……、
割合はちょっとわからないですけど、
そういうのがあって、目指していたという……、
任天堂に入りたいっていうのと、
作曲やりたいっていう、
両方が合わさって、まぁまぁな力になっていた。

上田
モチベーションとして。

シンさん
その前半の部分、任天堂のようなものは、
意外と世の中に他にも、実践できなくもないって、
なんとなく見えてきて、
モチベーションがどんどん、そっちだけでは、
動かなくなってきて……、
若干解消されつつあって、
それこそ、岩田さんとか、ほぼ日とかもそうだし、
そういうのを、世の中でできるんだなって。
それこそ、前田デザイン室の前田さんが
やっているやり方とかも、
けっこう任天堂イズムに近いものが入っている。

上田
そこに入ること自体に価値を見出していると、
話は変わってきますよね。
ぼく、アニメ会社に就職するとき、
入りたい会社があったんですよ、
第一希望で。
そこに絶対入れる、という
当時のわけのわからない自信が
あったんですけど……ダメだったんですね。
結局、なんとなく相性がよかったA社に
拾ってもらって、
「相性もあるんだろうな」というのを知って。
拾ってもらってよかったなぁと。

シンさん
A社だと「うわぁ、羨ましい」って
言われるんじゃないですか?

上田
言われるし、ネームバリューはあるんで。
ほんとうは、B社に(一番)入りたかったんですね。

一回A社に入ったときに、
(数年後)B社に入り直そうと
思ったときもあったんですね。
でも、仕事が忙しくすぎて、
そこまでの余裕がなかったっていう
言い訳をしてしまえば、
その程度だったんだっていうのが、
わかったんですね。
行きたかったら、
ほんとに準備していくだろうって、
そこまでいかなかったんだなって。
動機がなくなっちゃうんですね。

ともだちに笑ってもらいたくて、絵を描いていた。

上田
音楽(をはじめた)っていうのは、
小学校高学年でしたっけ?、任天堂の(曲)。

シンさん
小学校6年ぐらいですね。

上田
結局は、それは就職活動時期まで、
ずっとやっていたんですか?

シンさん
ずっとやってましたね。
ホームページ(スマブラのファンサイト)は、
高校生ぐらいで閉じちゃったんですけど。

上田
やっているときって、
一日の大半そればっかり考えていた?

シンさん
考えているっていうか……、うーん。

上田
日常行為、習慣行為レベルなのか、それとも、
めっちゃずっと没頭していた?

シンさん
習慣ぐらいかな……。

上田
習慣。

シンさん
絵を描くことっていうのもやっていたんで……。
うーん、絵を描く時間の方が長かったですね。

上田
それは、たのしんでやっていたんですか?

シンさん
どっちもたのしんでやっていましたね。
昔の話ですけど、
そんな感じでやっていましたね。

上田
そのときは、自分って絵って得意だなって
思っていました?
人から褒められるまで。

シンさん
えっとね……、最初は、棒人間しか描けなくて、
小3ぐらいまで。
棒人間でしたね、周りと比べて、下手だった。
でも、あるときから、
影のつけ方を姉から教えてもらって、
それから絵を描くようになって。
小5、6から、Macが家にきて、
インターネットで絵を描けるようになって。
それから、
はじめていっぱい絵を描くようになりました。
だんだんうまくなってきて、
でも、インターネットで、
うまい人が異常にいっぱいいる世界の中で、
自分の絵がポンって並んで。
自分がうまくなったとは……、
うまくなってきているとは思うんですけど、
相対的にみたら、うまい方じゃないなって、
うまいなって思ったことは、そんなにない。

衝撃だったのが、
その頃の絵を描くモチベーションて、
隣の席にいるともだちを笑わすためなんですよ。
めちゃめちゃむきむきなマリオとかドラえもんとか
描いて、
すごい爆笑してくれて、
そのためにずっと描いていて。

上田
ああ。

シンさん
中3のあるときに、すごい気合い入れて描いたら、
「うますぎて、笑えない」って言われて(笑)。

上田
(笑)。
めっちゃリアルな(奴?)。

シンさん
そう、めちゃくちゃリアルで、
めちゃくちゃ強そうで、
デッサン的にもいい感じで、
それもメモ帳に描くような感じの
絵じゃなくなっていたらしくて。

上田
ガチで。

シンさん
ガチで描いてたんですね。

上田
ちょっと隙があって、なんか足りないんだけど、
でも、なんかいいよね、
みたいのがあったんでしょうね。
そのガチに描く前は、遊びの部分で。

シンさん
そうそう、ちょっとクオリティが変わっちゃって、
全然笑う隙がなくなってしまったというか。
それから、一気に、
絵を描くモチベーションがなくなっちゃった。
ぼくの動機は、笑わすためなんで

上田
リアクション。

シンさん
そう、リアクションだけを求めて生きている感じがある。

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(当時のイラストではないですが、後日、今回記事用に描いていただきました、いやぁ、マリオ強そう、頭身高いですね)


人がよろこぶことの方が、お互い幸せになる。

上田
なるほどね。

笑わすっていうのは、
絵を描いて、
笑ってくれたことで、
「ああ、自分こういう形で笑わしたい」って感じ
だったのか、
それとも、テレビのお笑いとか観ていて、
「お笑いっていいなぁ」って感じで、
別の側面で笑わすのが好きみたいな?

シンさん
もう、前者の方ですね。

上田
隣の人が笑って、
リアクションしてくれるのが嬉しかった。

シンさん
そうですね。
それには、
きっかけがあると思っているんですけど、
ぼく3兄弟、末っ子で、
基本的には、あまり目立たない。
兄と姉がいて、
3人目だから適当でいいでしょって。
目を引くために、変な行動とか、
ちっちゃい頃していたんですけど。
かまってもらいたくて、いろんなことやってて、
それの延長で、
たぶん絵を描いてたっていうのはあるなぁと。

上田
欲しかったんですね。

シンさん
そう、今でも同じだなと思っていて。
根源的には、わぁって言われたい
変に、だから、いろいろやるというか。

上田
なるほど。

シンさん
でも、昔は、その反応は
なんでもよかったんですけど、
どうやら、
人が喜ぶことの方が、お互い幸せになるなって、
だんだん思って、
そっちの方にシフトしてきている。


褒められたかった。

上田
ぼくは、シンさんほど、
そんな素直に喜んでもらいたいって
いうのに行き着くまでに、
けっこう、いろいろあって。
ぼくは、最初「褒められたい」だったんですよ。
見栄をはりたいって。
そんなに昔から褒められることがなくて。

小学校5年生でクラス替えがあって、
周りは知らない人で、先生も違う人で。
出席番号が、最初だったんですよ。
5年1組1番上田浩平って。
で、出席番号1番って、
けっこう嫌だったんですよ。
最終的に、2年間同じクラスなんで、そうすると、
卒業式に、最初に……。

シンさん
ああ。

上田
賞状を受け取って、挨拶したり、
いろいろ儀式をやるんで、
4年生のときに、先輩の6年生の
卒業式の練習をみていたときに、
何回もやらされていて、
あんな恥ずかしいこと何回もやらされるのは、
出席番号1番は嫌だなぁと、
すごい目立つの嫌だったんですね。
失敗したら嫌だなぁって。
でも、みんな、一番いいよねって……、
いいよねとは言ってないか、
一番大変そうだなぁぐらいな。

シンさん
はいはい。

上田
そういうプレッシャーを感じながら、
5年1組の新学期を迎えるわけですよ。
そっから、
「あ、俺がんばんなきゃいけないかも」って、
授業の身の入り方も変わってきて。

シンさん
おお、すげぇ(笑)。

上田
今まで、授業中、
手もろくに挙げてこなかった人間が、
急に手を挙げはじめるわけですよ(笑)。
挙げて、
さされて、
答える、
先生に褒められる、
それで、周りのともだちも、
「上田くん、最近手挙げているよね、すごいよね」
みたいなこと言って。
チヤホヤされて目立って、
気持ちよくなっちゃって。

シンさん
こんなことあるんだって。

上田
そう、アピールした方がいいんだなっていうのが、
その頃からあって。
とにかく、褒められたいだけのために、
勉強頑張っていたんですね。
で、今思うと、アホらしいなって思うんですけど、
国語の授業のときに、教科書で新しいページ、
新しい物語とかあるじゃないですか、
読解するじゃないですか。

シンさん
はい。

上田
新しいお話とか、新しい論述文とか、
最初は音読したりとか、
「このとき主人公の気持ちは?」とか、
ページごとに前から順番ずつ
やっていくんですけど。
最初にやらされるのが、
「わからない言葉を辞書で調べてきましょう」
っていう宿題が出されるんですね。

シンさん
なるほど。

上田
ぼく、真面目にやっていたから、
わかんないなって思った言葉を調べたら、
それなりの数になったんですね。
先生が、
「みんな何個調べてきた?」って、
個数を訊いてきたんですね。
「俺、20個ぐらいある」って。
みんな、一桁ぐらいなんですよ。
まぁ、ちゃんとやっていないか、
ほんとうにわからない言葉だけなのかも
知れなかったんですけど、
ぼくだけ20個ぐらいあって。
で、「みんな手を挙げて」ってなって、
「まだ、手挙げてない人いるって?」って
なったとき、
「はい、20個」って言ったら、
「20個も調べてきたの!えらいねぇ」
みたいなこと言われて(笑)。

シンさん
なるほど(笑)。

上田
今思うと、アホらしいんですけど(笑)。

シンさん
でも、それはどっちに転ぶかわからないですし、
緊迫感もありますよね。

上田
それに味しめちゃって、たくさん調べたら、
褒めてもらえるってなったとき、
そっからよくわかんないのが、
調べなくてもいいような言葉まで調べはじめて。
例えば、
「なんとかです」の「です」はどういう意味か?
みたいなことを調べはじめたときに、
「俺は何を調べているんだろう」って(笑)。
数を稼ぐようになって、
こざかしいことやってて(笑)。

シンさん
とんだ不正行為ですね(笑)。

<つづきます>

次回こちらです。


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