実証研究紹介２：市町村合併(2)

このページでは自分の専門と関連する分野を中心に、最近の査読付き学術誌（英語）での社会科学の実証研究結果について紹介していこうと思います。このようなページを書こうと思った動機は、日本での政策議論等で社会科学の実証研究成果（特に国際的な査読付き学術誌での研究成果）があまり注目をされていないと思ったからです。細かい内容紹介や訳出は時間の制約上出来ませんので、論文の存在を知るきっかけ程度になればと思います。申し訳ありませんが、論文の送付等の依頼は個別に対応出来ませんので、ご自身で入手をお願いします。

前回に引き続き、市町村合併のまとめ論文を紹介します。まとめ論文とは過去の実証研究結果を整理し、研究結果として何が明らかになったかなっていないのか、研究上の課題は何か等をまとめたものです。一つのトピックについて関連する論文を掲載してくれ、読み手としてもとても便利な論文です。行政学、公共経営の分野ではsystematic reviewやmeta-analysisと呼ばれるこれまでの実証研究結果を分析する研究をいくつも目にすることがあります。政治学ではあまり見かけませんが(Annual Review of Political Science等はありますが) 、個人的にはより普及した方がよい分析方法だと思います。実証研究を行うにあたって、これまでに何が効果があって何が効果がなかった等把握することは重要ですから。

Karkin, Naci, Volkan Gocoglu, and Pinar Savas Yavuzcehre. 2019. "Municipal amalgamations in international perspective: motives addressed in scholarly research." Asia Pacific Journal of Public Administration 41 (4):187-202. doi: 10.1080/23276665.2019.1698843.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/23276665.2019.1698843

Karkin et al. (2019)はデータベース検索により1945-2019年までの間で128の合併に関する実証研究論文があることを把握。その後、要約等をチェックした上で58論文に絞り込み、市町村合併の動機、効果を分析しています。世界の様々な国で市町村合併が行われていますが、その主な動機は次のようなもの：１）公共サービスの質の向上、２）民主主義の質の向上、３）政治的・政策的動機（選挙区の拡大、都市計画上の利便性　等）、４）構造的動機、５）その他の動機。論文では各動機の内容について詳しく触れています。また、合併を行うにあたって、賛成派と反対派の意見の内容と根拠　（これについてはSuzuki (2016)でも紹介）、議論された代替手段の政策についても触れています。市町村合併の結果については、市町村合併と行政コストの削減や行政サービスの効果については効果が見られるわけではないとのこと。その他に研究で見落とされている点等についても言及しています。

日本でも平成の大合併から約20年。効果があったかどうかの検証が必要だと思います。合併の形態や地方自治制度は国のよって様々で単純比較は出来ませんが、合併という改革を経てどのような効果が見られるのか、課題は何か、実証研究研究から何が分かってきているかを押さえておくことは大切だと思います。

おまけにいくつか、市町村合併に関する実証研究論文を掲載しておきます。

Blom-Hansen, Jens, Kurt Houlberg, Søren Serritzlew, and Daniel Treisman. 2016. "Jurisdiction size and local government policy expenditure: Assessing the effect of municipal amalgamation." American Political Science Review 110 (4):812-831.

Erlingsson, G. Ó., Ödalen, J., & Wångmar, E. (2020). How Coerced Municipal Amalgamations Thwart the Values of Local Self-Government. Urban Affairs Review, 1078087420921458.

Horiuchi, Yusaku, Jun Saito, and Kyohei Yamada. 2015. "Removing boundaries, losing connections: electoral consequences of local government reform in Japan." Journal of East Asian Studies 15 (1):99-125.

Miyazaki, Takeshi. 2014. "Municipal consolidation and local government behavior: evidence from Japanese voting data on merger referenda." Economics of Governance 15 (4):387-410.

Reingewertz, Yaniv. 2012. "Do municipal amalgamations work? Evidence from municipalities in Israel." Journal of Urban Economics 72 (2):240-251.

Saarimaa, Tuukka, and Janne Tukiainen. 2014. "I don't care to belong to any club that will have me as a member: empirical analysis of municipal mergers." Political Science Research and Methods 2 (01):97-117.

Steiner, Reto, and Claire Kaiser. 2016. "Effects of amalgamations: evidence from Swiss municipalities." Public Management Review:1-21.

Suzuki, Kohei. 2016. "Politics of Municipal Consolidation." In Global Encyclopedia of Public Administration, Public Policy, and Governance, edited by Ali Farazmand, 1-7. Cham: Springer
International Publishing.

Voda, P., & Svačinová, P. (2019). To Be Central or Peripheral? What Matters for Political Representation in Amalgamated Municipalities?. Urban Affairs Review, 1078087418824671.