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荒々しい冒険作『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』

★★★・。(星3ツ/4ツ星満点)

シリーズ生みの親、ジョージ・ルーカスを抜きにして再出発した『スター・ウォーズ』。前作『フォースの覚醒』のあと、2年の刻を経て製作された「エピソード8」は『BRICK ブリック』『LOOPER/ルーパー』の若手ライアン・ジョンソンが監督のみならず、脚本も担当。『帝国の逆襲』の脚本を手がけたローレンス・カスダンが提示したプロットを廃案にして、自らシナリオを仕上げたと言われている。

シリーズはこれまで、公開済みの『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』でも、2018年5月公開予定の『ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』や次作『エピソード9』でも、スタジオによる大幅なテコ入れや監督の交代劇が報じられている。ジョンソンが本作の舵取りを最後まで取り続けることができたのは、むしろ奇跡的な結果。コーポレート・シナジーとのバランスを維持しつつ、巨大なファンベースに受け入れられるフランチャイズ作品を担当する重圧は、底知れない。ディズニー側が同監督に、さらなる三部作の監督・脚本を依頼したことは、今作『最後のジェダイ』への自信もあってのことだろう。

公開初週の興行ではアメリカ国内$220Mを記録し、余裕の一位。2週目では国外も含め累計$745Mを稼いでいる。ただし各所で騒がれている通り、批評家と一般鑑賞客との間で評価は極端に乖離。何をもって成功と成すかを問う結果を示している。

[物語] 

隠者ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)のもとへたどり着いた、レイ(デイジー・リドリー)。満を持して、「最後のジェダイ」に教えを請う。一方、巨大惑星破壊兵器を破壊することに成功した反乱軍は、ファースト・オーダーの圧倒的な兵力の前に、いまだ苦戦を強いられているのだった。

[評価]

粗が目立つが、挑戦的な超大作だ。この一文の読点の前後を入れ替えると、本作を賞賛したファンと拒絶したファンの受け取り方の違いがわかる。「粗野」と「挑戦的」な印象のどちらが先行するか。それが問題だ。

最大の強みは、肝となるセットピース単体のシークエンスたちがダイナミックに、そして丁寧に描かれていることだ。アクションを中心に、見せ場という見せ場が、ブロックバスター作品らしくムードたっぷりに仕上がっている。

キャラクターにも強みがある。中でも、本作のショー・スティーラーはアダム・ドライバーにほかならない。フォースのバランスに揺れ続けるカイロ・レン役は適材適所。ポー・ダメロンの司令官としての成長にも目が離せない。そのほか、初登場のローラ・ダーン演じるアミリン・ホルド、そしていまは亡きキャリー・フィッシャーにも見せ場が目白押しだ。何名かの際立ったキャラクターが、少なからず活躍する続編となった。

しかし問題も多い。

各紙の報道をたどると、ディズニーには『フォースの覚醒』以後のストーリーに、ロードプランらしいロードプランがなかったと言う。そんな中、ライアン・ジョンソンという若手監督は、これほどのブロックバスターには不釣り合いなほどのクリエイティブ・コントロールを勝ち取っていた。この成り立ちを頭に入れておくと、本作が辿り着いた映画の形に、妙な合点がいく。

『最後のジェダイ』は与えられた要素を利用して予想を裏切ることと、これまで『スター・ウォーズ』ではなされなかったことに踏み込もうと腐心している映画だ。レイの素性しかり、ルークの行く末しかり、ワープ航法の概念やスター・ファイターの開発にまつわる裏付けしかり。のみならず、ファースト・オーダーの最高指導者スノークの扱い、そしてフォースの概念そのものにまつわる根幹の理解にも、変化球を探し出す。

問題は、野球で言えば「投球フォームの途中から球種を切り替えている」ことだ。すなわち『フォースの覚醒』で広げた風呂敷に逆らうことへ、特段の注意が向けられている。ほとんどJ・J・エイブラムスへのあてつけとさえ思えるほどに、前作へ中指を突き立てる捻りばかりだ。それでいてフォーマットは『帝国の逆襲』に倣っていることが、いくつかの歪みを生み出す原因にもなっている。

冒頭のクロールは、その典型だ。『フォースの覚醒』の直後からはじまるレイとルークのシーンとは対照的に、スター・キラー基地を破壊して大勝利を掴んだはずの反乱軍はいたく劣勢だ。過去作の構成を脳に刻みつけるファンならばテンプレートとして受け入れられる出発点も、前作の続編単体として見れば「元の木阿弥」感に過ぎる。ほかにも作中繰り出されるサプライズには効果的なものも多々あるが、小手先の処置と受け取れるものも少なくない。いずれも、驚きを演出するためのカーブが急だ。

撮影の美しさとは裏腹に、シーン構成がぞんざいなことも見過ごせない。各スレッドには必要なだけのスクリーンタイムが割かれているにも関わらず、特定のアークへの注意が散漫だ。しわ寄せは、主要キャラクターたちの全員に少なからず影響を及ぼしている。いずれもプロット上の役割と、前作までに築き上げられたキャラクター・イメージとのギャップが違和感を生んでいる。

一番の被害者は、旧三部作のキャラクターたちだ。キャンピーなルークの精神はマーク・ハミルのパフォーマンスで見事に活かされているだけに、隠遁生活を続ける賢者ルークへの変貌の軌跡が見えてこない。結果、メンターのキャラクターが描ききれておらず、弟子であるレイの成長にも及第点以上の説得力が生じない。

それゆえに、平時のドラマ構築への欠点が見え隠れする。ローズのキャラクターとしての座りの悪さや、イウォークの再来と言われるポーグたちの取ってつけた感、中盤の特定のプロットが徒労に終わるのも、細やかな演出で事実関係を並べられていないことが粗を目立たせている。それらの欠陥を見過ごせない者がいても、不思議はない。

結果としてみれば、大きなセットピースのスペクタクルが勝ち取った興奮を、行間を埋める重要なドラマ部分が目減りさせていく作りをしている映画だと言える。

それでも、挑戦的であることもまた賞賛すべきだ。『スター・ウォーズ』フランチャイズの維持に奔走するディズニー上層部が、いかに苦渋を味わってきたか。これまでのすべての監督交代劇も、ビークルの大きさゆえにハンズ・オフでは居続けられなかったスタジオ側の誤算が見え隠れしている。しかしJ・J・エイブラムスの手堅いローンチ作で地盤を固めたあと、明らかに若手の尖ったクリエイティブを押し出そうと腐心していたキャスリーン・ケネディは、荒々しい本作の構成にグリーンライトを灯した。青さをもってして古参ブランドを一新しようという努力の跡が象徴的であることに、間違いはない。

そもそも『スター・ウォーズ』というフランチャイズ自体、いままでも穴だらけでキャンピーだったではないか。ファンがいまさら新作で思い出を補正するのは勝手だが、美化しなければならないルールもないだろう。

楽しめる。本作の特徴をどのように受け取るかは、映画館の大スクリーンで確かめるべきだ。

[クレジット]

監督: ライアン・ジョンソン
プロデュース:キャスリーン・ケネディ、ラム・バーグマン
脚本:ライアン・ジョンソン
原作:ジョージ・ルーカス『スター・ウォーズ』
撮影:スティーヴ・イェドリン
編集:ボブ・ダクセイ
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー、アダム・ドライバー、デイジー・リドリー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック、ドーナル・グリーソン、ケリー・マリー・トラン、ローラ・ダーン、ベニシオ・デル・トロ、フランク・オズ
製作: ルーカスフィルム
配給(米):ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
配給(日):ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
配給(他):N/A
:152分
ウェブサイト:http://starwars.disney.co.jp/movie/lastjedi.html

北米公開:2017年12月15日
日本公開:2017年12月15日

鑑賞日:2017年12月15日08:30〜
劇場:AMC Burbank 16 w/Y

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