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2024年3月まで「夢における空間論」延長戦のお知らせ

4月はあまりに多くのことがゆきすぎて、異様に長かった。身体の代謝が高いと時間がゆったり流れるという話を小耳に挟む。4月の時間が流れ始めるにつれて、この3月までの時間は止まっていたのではないかと思う。

5月の時間は、再び速く流れている。気がつくとひとつきが終わりに近づいている。

この2ヶ月ほどずっと悩んでいた。博士3年間の振り返りをしてみようと思ったのだが、どうにもうまくいかなかった。

今振り返ると、特に忙しくはなかった気がする。16平米ほどの狭い部屋で3年を過ごした。ひたすらそこに籠って思索を深めた気がするけれど、特になんてことはなかったのかもしれない。時間は霧のように薄くとけて消える感じがする。

前にも進まず、後ろにも戻らず。色んな人に会ったし色んな人と対話した。そう思っていたのに、その3年の総量は4月の1ヶ月でもう超えたような気がした。世界は正しいフレームレートできちんと動いていたけれど、時間だけが止まっていたのかもしれなかった。

2023年4月からは東大の先生になった。キャンパスマネジメント研究センターの特任助教。いわゆる研究室の所属ではないので、授業の負担や学生指導、研究室運営の負担はない。研究だけしていればいい、という職。アカデミアの人にとっては夢のような場所だろうが、どこか退屈にも思える。自分一人で考えることはこの3年間嫌というほどした気がする。自分の思考の凡庸さと脆弱さに、飽きた。

時間が妙に長く感じられるのは、「何をするか?」という目標が姿を消したからかもしれない。この3年間は博士論文を書き上げる、という目標があった。それがなくなると次は何をしようかと考える。その時間を、長く感じているのかもしれない。

博士論文の執筆の最後に、不思議な感覚になった。それは論文の中にある論理の広がりが、本当に空間のように感じられる、というもの。例えば窓のそばに本棚をおくと光が当たって本が焼けてしまうし、でも差し込む光をベッドに当てると朝の目覚めがいいかもしれないというような、モノとモノの関係性が立体的に(つまり空間的に)感じられるように、待像(Waiting Realities)という概念空間がまるで一つの大きな部屋のように感じられ、その中にある色んな議論や観点が極めて立体的に体感された。だから別に時間をかけて考えなくとも、窓辺に何か置いておいたら結露で濡れるかもしれないと理解するような感覚で、論理の入れ違いやズレやそれぞれの関係性や順序や構造を感じ取ることができた。

目を瞑るとその“部屋”が次第に映し出され、その中にさえ入り込めば、自分が書いたことやその論理の全体像が見える。1週間も離れていればその“部屋”のイメージは薄れてしまい、そこに戻るには時間がかかるが、時間をかけてゆったりと当時の思考や思索に身体を沈めていけば、またその“部屋”に戻っていくことができる。そういう感覚だった。それでかけた論文が大したこともないとどうなのかしらという気にはなる。

とはいえ「歴史の中のVRの発見と今のVRの捉え直し」を主題とするような突拍子もない論文でよく博士号をとれたものだとは思う。今読むと、どこか神経症的というか、気詰まりの苦しさも論文の中に感じられて面白かった。

色んなことが終わったのよ、と思うけれど、まだあんまり、これから何を考えればいいのかよくわからない。考えたいことはたくさんあるけれど、どういう順番で考えていくのかしら。夢のことは考えたい。学会とDAOのことも考えたい。香りのことも考えたい。発酵と空間も考えたい。伊勢神宮とディープラーニングも考えたい。どのように?いつ?どこに向けて?となるといささか茫洋とはする。

そういうことをずっと考えて悩んでいて、まず「夢における空間論」をしっかりとやり直そう、ということに決めた。博士論文では論文としてのルールや作法を守って仕上げたけれど、次は、読んでいて面白い“作品”としての文章として、「夢における空間論」を仕上げ、まとめたい。

そこでこのマガジンは「2023年3月に博士論文を書き上げるまで」ということで続けてきたのだけど、「2024年3月に夢についての原稿を書き上げるまで」ということで、延長戦をしたいと思う。

「2024年3月に夢についての原稿を書き上げるまで」マガジンの概要としては、これまでと同様に月に1本の研究報告書を提出しながら、月に1本なんらかの原稿を書き上げ、アップすることとしたい。月に1本の原稿は、研究会での発表ドラフトのようなもの、と考えてもらえればと思う。

よろしくお願いします。

(『薫習日記』の開始はすこし先とします。)

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918字

旧「2023年3月に博士論文を書き上げるまで」。博士論文を書き上げるまでの日々を綴っていました。今は延長戦中です。月に1回フランクな研究報…

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