タイの兄貴と思い出したこと、思い出せないこと。
Hey, bro. Konnijiwa!
この時間にLINEが鳴った。
そうかそうか、ぼくは外国にブラザーがいたのか。
はて、お母さんどこで何を間違ったんだい?
そして、こんにちわ!の時間でもないし、こんにじわ!でもない。
なにが正しいのか、よくわからなくなる、秋の夜長。
メッセージと一緒に写真も送られてきていた。
黄色ベースのブツに独特な黒の水玉模様。
一目見ただけで、誰が作ったものか、そしてそれがどこにあるのかがわかる。
あれはかぼちゃでもなんでもない、草間彌生本人だと思う。
彼は興奮した文調でぼくに連絡をくれた。
彼の名前はエカチャイ、年は40歳前くらいのタイ人だ(30歳と言われれば30歳な雰囲気)。
ひと回り以上違う、タイのお兄ちゃんになる。そして、いわゆる実業家というやつだ、金持ちくそぅ。
仕事で出会って以来、なぜか可愛がってくれる。
きっと結婚祝いに夫婦茶碗ならぬ夫婦箸をプレゼントしたからかな。
残念なことにまだ彼とはビジネスになっていないが、時たま何かのタイミングで連絡を取り合っている。
この前の台風の時も心配して、LINEをくれた。
もはや、タイのお母さんと言っても過言ではない。
瀬戸内。
日本の中でかなり好きな場所だ。
たまたまぼくも昨年ひとりで訪れていた。
なぜ行ったのか、思い出せない、秋の夜長。
瀬戸内の中でお兄ちゃんは直島を訪れたようだ。
I love Ando’s work.
お兄ちゃんはどうやら安藤忠雄が好きらしい。そうか、じゃあ地中美術館に行ったんだね。
あんまり安藤忠雄に馴染みがあるわけじゃないけど、たしかに地中美術館は良かった。
けっこう良かったから、ショップに売られていた地中美術館マグネットを買ってきたことを思い出した。ただのコンクリートが写っているだけのマグネット。
今は会社の先輩が買ってきてくれた、イギリスのヘンリー王子とメーガン妃がキスをしているマグネットの隣に貼っていることも思い出した。
ぼくは地方を訪れ、気に入ったマグネットを買っては冷蔵庫に貼り付けるという癖も思い出した、秋の夜長。
さぁ、これからどうやって話を展開しようとしていたのか、思い出せなくなってしまった。
よし、今までの全ての途中の話を断捨離して、話を続けます。
お兄ちゃんから連絡がきて、すぐさま脳裏に浮かんできた風景がひとつだけある。
滑らかな白いドームの中、天井にぽっかり空いた穴から曇り空が顔を伺わせていた。
東京ではまだ暑さが残る9月だったが、その中は風がすーっと通ってひんやりとしていた。裸足も気持ちがいい。
地面にポツポツと開いた穴、そこから水滴が染み出てくる。水たまりが点在し、水たまりが地面を這ってはまた別の水たまりと一つになる。一つとしてその流れは同じでない。
水の行方を見てるだけでも、ずっと見ていられる。きっと我が子の寝顔をずっと見ていられるのと同じ感覚だと思う。
風、水、空、音、匂、
人工的な建物の中のはずが、どこよりも自然を感じた。
とてつもなく、幸せな時間だった。
何故かは、よく思い出せない。
ただただ、それをぼくが求めていたことはわかった。
行ったことのある人もたくさんいるとは思いますが、是非死ぬまでに一度は行ってほしい。全人類に。
きっと、みんながそこへ行ったら、戦争は無くなるんじゃないかと。
割と、そのくらい信じている、秋の夜長に。
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