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レストランをやめた僕が農業にみたチャンス 4

このシリーズは今回で最後です。

これまでのエピソード

レストランをやめた当時の僕が感じていたこと 1
 
レストランをやめた僕に訪れた衝撃の転機 2レストランをやめた僕のマクロビ修行 3

タテ5m×ヨコ5mの市民農園で起業

計画なんて一切無しでわらの家を飛び出してきた僕は、バイトで生活費を確保した上で「自分で稼ごう」と考えてました。

何を始めるか考えた際に、これまでしてきた料理は認められるまですごい時間がかかるというか、日本ではどの店も美味いし、大した技術や経歴もない僕には難しいと感じていました。

その点、農業には十分チャンスがあると感じていて、「ちゃんと良いものを作って、良いものが欲しい人に届ける」ことは出来そうでした。

僕は「美味しくて健康的な野菜」と「美味しくて健康的な野菜が欲しい人」を知ってたし、そこが日本はまだ上手くハマってないのも知っていました。


僕は、すぐに家の近くで畑を探しました。そうそう上手くはいかず、見つけたのは実家から車で5分ほどの、どこにでもあるような市民農園でした。

爺さん婆さん達が家庭用にトマトとかナスを作っていて、ちょうど1区画だけ空きがありました。月1000円でタテ5m×ヨコ5m、小さな小さな畑が借りられました。
小さな方が作業が少ないし、設備費もかからないし、市民農園は道具もトラクターも水も使い放題なので、まず始めるには最高の条件でした。

僕はこの小さな畑で梶谷農園で見たベビーリーフを作ることに決めました。

母が「ベビーリーフってペラペラで味しないしすぐに黒くなるし、買わない」って言っていて

僕が知ってる梶谷農園のベビーリーフは
「肉厚なふわシャキで味と香りが強くて鮮度が長い」
ので、余裕で周りのベビーリーフより美味しく作れると思ったからです。

しかも、ベビーリーフは種を蒔いて10日後には「マイクロリーフ」といって、味も鮮度も栄養価も抜群の野菜が収穫できます。
レストラン業界では高価格で取り引きされてるのも知っていました。

「ちゃんと価値が伝われば、家庭でも食べたいに違いないし、自分が毎日でも食べたいものをつくりたい」
と思って決めました。

梶谷農園で見てきたことを思い出しながら、作業を進めました。アルバイト10時間、畑2時間みたいな時間割から始めて、徐々にアルバイトを減らして畑時間を増やしていきました。最初にかかった費用はタネ代15000円と6ヶ月分の地代6000円だけでした。

最初に蒔いた種が一斉に芽が出た時はめちゃくちゃ嬉しかったですね。1人でめちゃくちゃルンルンでした。これが自然だー!俺も農家だぜー!稼ぐぞー!みたいな。

本やわらの家、農家見学などで、10以上の〇〇農法を勉強して、オーガニックとか有機とか自然がどうこうとか、日本がどう地球がどうとか、テストで満点取れそうな、僕の頭でっかちな知識は役に立ちませんでした。

とにかく色々試してみるしかなかったです。
梶谷農園とは環境も土も水も設備も規模も違うので、自分でコツを掴むしか無かったから、それが楽しかったです。

虫食いだらけだったり、黄色くなっちゃったり、発芽しなかったり、タイミングがずれたり、雨で流されたり。
収穫したけど、ダメで全部捨てたこともある。
楽しみに毎週毎週待ってくれてる人がいたから、もっと良くしたいってずっと思ってたし、実際良くなっていきました。

最初は直売所で売り始めて、すぐに母の友達にも販売を始めました。
皆んな、僕がまだ小学生だった頃から知ってる母のママ友です。ママ友ネットワークで、毎週必ず売り切れるようになりました。

「好平くんのベビーリーフ、全然違うわ〜!これだったら毎日食べたい!」

どんどん口コミが広がりました。
本当に嬉しかったです。

5〜10人くらいの方が毎週買ってくれて、月1〜2万円くらいの売り上げでした。
このママ達、今もずーっと買い支えてくれてて、応援してくれてて。めっちゃめちゃ有難いです。

売り切れるようになってから、どうやって生産量を増やそうか悩んでいました。近くに借りられそうな畑もなくて。

鳥肌的タイミング

そんな8月ごろ、とっても久しぶりに広島のスーパースターファーマー梶谷さんから連絡がありました。「研修終了後は質問なしで研修中に全部聞く」という約束をしていたので、梶谷さんにベビーリーフを始めたことも連絡をしていませんでした。

梶谷さん「今年も冬の間だけ淡路島の長さんの畑借りてベビーリーフやりたいんだよね。その畑の農場長してくれる日本人探してて、練習がてら来ない?こっちからフィリピン人送るから、フィリピン人の指示通りにやってくれたらいいよー!」

貯金をしたかったこと、もっとベビーリーフ栽培を勉強したいこと、淡路島が好きなことなど、さまざまなタイミングがぴったりでした。

淡路島移住が約2ヶ月後の10月に決まりました。

この頃、もう一つのミラクルが起こりました。ベビーリーフが繋げてくれた宝物のようなご縁です。

大将の太鼓判

僕の地元には連中(れんじゅう)制度というのがあって、中学を卒業したら5〜7人くらいの友達でグループを組んで、地元の親分の元に弟子入りします。
僕の親分の「兄やん」のお世話になって10年以上ですが、初めて2人っきりで姫路に飲みに誘ってもらいました。

兄やんから姫路に旨い韓国料理屋とすごい日本料理の名店があると聞いてました。
この日は韓国料理屋に連れてってくれたんですが、カウンターだけの小さなお店で、もう満員状態でした。
先に座っている男性のお客さんがわざわざ席を詰めてくれて、なんとか入ることができました。

僕はその男性の隣に座ったんですが、
なんとその方は日本料理の名店「温味 旬期」の大将・長谷川さんでした。
大将、弟さん、お母さん、奥さんで切り盛りされていて、ミシュランにも長年掲載される数少ない名店中の名店です。

兄やんが旬期さんの常連客で、すぐに大将に僕を紹介してくれました。
もうそこから、兄やんそっちのけで大将と夢中で話しちゃって。梶谷農園での研修、日本酒、蕎麦打ちなど、食べるのも飲むのも忘れるくらい楽しくて夢中で話してました。

ずっとアルバイトと畑仕事の毎日だったから、大将との話がとっても新鮮でマニアックで。
大将は沢山話してくれて、アドバイスもくれて、とっても温かい魅力的な方でした。
連絡先を交換して、その日は終わりました。

兄やんから、「大将は店に立つと別人のように厳しいけど、修行してこい」と背中を押され、後日僕は大将に連絡しました。

その約1ヶ月後、僕は見習いに行かせてもらいました。
そのタイミングに合わせて育てていたベビーリーフを朝イチに収穫して気合いと共に持っていきました。

「すごい綺麗なリーフやわ!こんなのは見たことない。綺麗やなぁ。苦味も立ってて美味しいわぁ!このリーフ今日のコースに使おうよ」
と言ってくれて。

その後、出汁の取り方、調味料の使い方、魚の下ごしらえ、肉の火入れなど、職人としての仕事を本当に1から全部持って帰れと言わんばかりに教えてくれました。
朝5時半から蕎麦を打ち、夜の営業に向けて食材の仕込みに時間と手間のかかるものすごい量の仕事をされていました。
こんなチャンス2度とないですし、僕はひたすら興奮状態でびったり大将の横について学ばせてもらいました。

ベビーリーフがくれた自信

その日の営業に合わせて、兄やんと韓国料理屋のママが食べに来てくれました。2人とも15000円のコースに酒はおまかせで。

僕は営業中も大将の横で仕事を見させてもらってました。料理の道1本で勝負してきた方ですから、営業が始まった瞬間から別人です。
取り憑かれたように物凄い集中力で料理を仕上げていきました。

先付け、お椀、造り、にぎり、焼き物、蒸し物。

そして、肉料理「シャラン産鴨の炭焼き」に僕のベビーリーフが付け合わせで提供されました。

「すご!ほんま良かったなー!」と兄やんが言ってくれて。
一流の食材を吟味してきた食のプロが認めてくれた瞬間でした。
これまでの手探りの試行錯誤の時間が、自信に変わった特別な瞬間でした。

そのあと、島入りまでの約1ヶ月間、週に1度見習いに行かせてもらいました。

毎回、僕のベビーリーフをコースに組み込んでくれて、「この子がこの野菜作ってるんですよ」と僕をお客様に紹介してくれました。
ご家族の皆さんで大歓迎してくれて、最後の日がとても寂しかったです。

「次は何をお土産に持っていこう...」とずーっと吟味していた1ヶ月でした。
ベビーリーフ、ドレッシング、パスタ&ソース、手打ちうどんなどを持参して食べてもらいました。

中でも、大将がドレッシングを1番評価してくれました。
「素晴らしい!よく考えられてるし、味のバランスも抜群やわ」と太鼓判を押してくれました。

心温かかった旬期さんでの見習いも最後になり、

2020年10月2日、

淡路島に移住しました。

現在、梶谷農園のスーパーエース・フィリピン人のマリアと2人で農園を運営し、ベビーリーフ、マイクロリーフ、ハーブ、エディブルフラワーを栽培しています。

僕個人の農園ムラムラファームから、関西を中心に直接販売を始めることができました。

梶谷さんのインタビュー記事にこんな一説がありました。

「自分が作ったものを誰が食べてどう思うのか?そこに責任を持ちたいし、そこにこそ生産者としてのヨロコビがある。」

とにもかくにも、淡路の素晴らしい海と山、美味しいご飯と熱燗、鼻歌が好きなフィリピン人、脱走癖のあるヤギ2頭に囲まれて、毎日楽しく忙しく過ごしています。


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