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#152 フルサイクルエンジニア⑥ 〜境界を埋める非同期コミュニケーションの活用〜

こんにちは。ITベンチャーエンジニアのこへいです。

前々回、成長に伴いフルサイクルに対応するチームに境界が生まれることについて述べました。

今回は、境界が生まれたことに伴う問題への向き合い方について述べます。


◯ジョブ型組織にはすぐにはなれない

1つのチーム内で異なる目標を追うことになると、境界が生まれ、問題に発展します。1つのチーム内で依頼する側と依頼される側に別れるようになると協力して成果を出すことが難しくなります。

そこで、境界で分かれたチームごとの責務を明確にすることで、問題を回避するというアプローチがあります。ザ・モデルのようなジョブ型の組織を志向するということです。

しかし、このアプローチを私のチームに導入することは非現実的です。
明確にジョブを定義していくことはフルサイクルの対極にあるようなやり方であり現状の方針との乖離が大きく、経営層レベルの意思決定が必要なアプローチであるため、現場から改善を進める際には提言はしつつ、他の方法を模索する必要があります。

◯『同期』コミュニケーションの量を増やして境界を埋めるのは愚策

この方法はフルサイクルチームでコラボレーションすることで価値を生みだしていた状況でのコミュニケーションに戻すということで、営業とエンジニアが一緒に顧客と対峙したり、営業とエンジニア間の密なコミュニケーションを取り、すり合わせを行い境界を埋めようということです。

プロジェクト数の増加に伴い、すべてのプロジェクトに対してフルサイクルな関わり方が出来なくなったために役割を分離したので、元に戻すことは実質不可能です。
人の3倍働くことを強要するようなものです。

明らかに悪手に見えますが、過去うまくいっていた方法であること新しい方法を模索する必要がないことから、この方法が推し進められやすいです。。。

◯『非同期』コミュニケーションの質向上で境界を埋める

いずれの方法も現実的でも実行的でもありません。
そのため、非同期コミュニケーションの質を向上させることを模索したいです。

同期的なコミュニケーションが好まれる理由

同期的なコミュニケーションは『合意形成がしやすい』『文脈の共有が手軽』という点に良さがあります。

客観的事実だけでなくニュアンスなどを伝えやすいため、互いの意見のすり合わせがしやすく合意形成には適しています。

また、ちょっとした相談や確認のコストが低いです。テキストでの質問の場合は背景や文脈まで整理するのに手間がかかりますが、隣の席の人にちょっと声をかけたら解決するようなシーンは良くあります。

同期的なコミュニケーションの落とし穴

『合意形成』に適した同期的なコミュニケーションですが、客観的な事実が出そろった上でニュアンスを伝えることで『合意』しやすくなります。

しかし、同期的なコミュニケーションの場を作れば良いという誤認されると、準備もせずにとりあえず集まって、何も決まらないということが起き得ます。『対面の場』を作ることが目的になってしまったり、『対面で伝えた』という事実を『合意した』という事実にすり替わってしまうことには注意が必要です。

また、同期的なコミュニケーションでは『言いっぱなし』になることにも注意が必要です。その場で合意できたつもりになっていても、前提条件が曖昧なためにやっぱり違ったというケースも良くあります。
その場で合意できたとしても具体的な内容がその場にいない人にはわからないという点も、落とし穴です。

あとからでも参照できるようにテキストや図で残し、非同期でもその内容にアクセスできるようにしておかないと、組織のスケールを実現することは難しいです。

非同期のコミュニケーションのインターフェースを整える

プロジェクトの意思決定のシーンで必要な情報はある程度体系化できます。
顧客の課題に対する解決方法の検討でも、顧客の誰が、いつ、どんな業務で、何に、なぜ困っているのか、現状はどのように対応しているのか、を収集することが始まりです。

1つのチームでフルサイクルに対応している時は、営業・エンジニアで一緒にこれらの情報を探ります。しかし、営業だけで顧客にヒアリングをする際には、これらを探るのでなく、顧客が『この機能が欲しいか』というのを聞き、エンジニアに『この機能はどれくらいでつくれますか?』と依頼してしまいます。

5W1Hの深堀をしてきて欲しいとお願いしても、意外と出来ないものです。

そのため、顧客からの課題をヒアリングする際には、具体的にヒアリングして欲しい項目をテンプレート化して埋めてもらうようにしています。

顧客との商談に毎回エンジニアが同行するのでなく、テンプレートを利用したヒアリングの訓練を一緒に行うのも良いです。
エンジニアも、営業の顧客とのやり取りの技が学べるのも良いです。

ドキュメントは作らないけど、情報の参照性を向上させる

こちらの記事で、フルサイクルエンジニアチームのあえてドキュメント整備しない開発体制について紹介しました。

非同期コミュニケーションを推し進める場合、すべてをドキュメントに残すというアプローチが考えられます。
しかし、ドキュメントの整備にはコストがかかります。ドキュメント作成も、1つのチームでフルサイクルに対応するのが難しくなったための効率化の文脈に反してしまいます。

そのため、ドキュメントの整備をするのでなく、作業や検討経緯をたどれるようにすることに注力します。

slackやタスク管理ツール、ソースコードのコメント、バージョン管理ツールのissueなど、エントリーポイントを用意しそこからすべての情報をただれるようにしておきます。

ドキュメントとして整備されていないと情報を探すコストはかかりますが、情報が辿れるようになってさえいれば『あのタスクどうなっている?』と同期的なコミュニケーションで聞く必要がなくなります。

ドキュメントの整備はスキップしても、参照性だけ担保しておけば情報は活用できます。

非同期コミュニケーションをベースに、本当に必要な時だけ同期的なコミュニケーションの場を作るというアプローチが境界を埋めるためには現実的かと思います。


ということで、境界を埋めるための手法について考えました。
非同期コミュニケーションを活用をベースとし、要所では同期的なコミュニケーションの良さを活かせるような、コミュニケーションを設計することが境界を埋め、協力して高いパフォーマンスを発揮するには重要でしょう。

これを実現していくのは簡単なことではありませんが、私のチームではこの手法を落とし込めるようにチャレンジ中です。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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