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微生物の多様性ってなに? #01

こんにちは、日本科学未来館の常設展示『ビジョナリーラボ「セカイは微生物に満ちている」』ビジョナリー兼監修の伊藤光平です。

これから、展示に関わってくださった日本科学未来館のスタッフたちとともに本展示がどのように生まれたのか、裏話をnoteマガジンにて紹介していきます。

生物多様性に占める微生物の存在感

今回のテーマは「微生物の多様性」とはなんなのかということについてお話していきます。展示空間に大きく看板がある通り、本展示では微生物の多様性について多面的に説明しています。

本展示の冒頭では、そもそも微生物とは何かについて説明しています。ここでは「細菌・真菌・ウイルス・原生生物などの目に見えないくらい小さな生き物たち」という表現で微生物を説明していますが、実はここには想像を絶するものすごい多様性があるのです。

画像提供:日本科学未来館

よく生物多様性というと、目に見える生き物(動物や植物など)の種類にフォーカスされがちですが、微生物はその種類を遥かに凌ぐ多様性をもつ存在です。ヒトの腸内から家の床、トイレ、土の中、海の奥底まであらゆる場所に微生物は存在しています。

そう考えると、地球は微生物の惑星なのではないかともいえるのではないでしょうか。(ヒトマイクロバイオームの展示で協力いただいた慶應義塾大学の福田 真嗣特任准教授がそのようにおっしゃっていました!笑)

技術の進歩により未知が増える

これまで培養に依存していた微生物研究ですが、次世代シーケンサという生き物のDNAを解読する技術が出てきたことによって、私たちが想像していた以上に多様な微生物が地球上に存在していることが明らかになりました。

また、微生物の研究はこれまでに多くなされてきましたが、地球上に存在している微生物のうちまだ数%程度しか発見できていないのではないかということも言われております(諸説あり)。

僕自身、微生物の研究をしていてその多様性の高さにめまいがするような日々を送っています。調べれば調べるほどわからないことは増えていくばかりです。

また、あらゆる環境(ヒトも家も土も)では数千種にわたる多様な微生物のコミュニティ(マイクロバイオーム)が形成されており、単一の微生物の機能や役割だけではなく、微生物同士の相互関係やヒトなどの宿主・環境との相互作用についてもまだまだわからないことだらけです。

そんなわからないことだらけの微生物多様性ですが、ただ一つ言えることは「たしかにそこに存在している」ということです。家の床をこすってそこに存在する微生物を調べたときに実際に名前がついている微生物が10%ほどしか見つからなかったとしても、残りの90%の未だに未知の微生物と私たちは暮らしています。それは事実です。

微生物の多様性と私たちの健康

わからない生き物と暮らしているという感覚は少し怖い気持ちになるかもしれませんが、そんな中でもヒトはなんだかんだ健康に7-80年くらい生きているわけです。ヒトの身体にも38兆個もの微生物が共生していると言われています。(ヒト細胞が40兆個くらいなので、半分が微生物ですね笑)

微生物の多様性が高い環境は競争性が高く相互に拮抗作用が働くため、特定の微生物が増殖する一人勝ち状態を防ぐことができます。そのため、特定の微生物によって引き起こされる問題を防ぐことができます。土壌や腸内、皮膚など様々な環境で微生物の多様性が健康度の指標にされています。

もちろん室内にはヒトや植物などを由来とする様々な微生物が持ち込まれることがわかっていますが、微生物の多様性が低い室内は病原性細菌が相対的に多く存在することがわかっています。 (以下参照)

またもう1つ、多様な微生物との触れ合いは利益をもたらします。幼少期に多様な微生物と触れ合ったヒトは、様々な自己免疫疾患の悪化リスクが低いことが複数のコホート研究でわかっています。展示空間では、生物多様性仮説、衛生仮説、オールドフレンズ仮説など複数の仮説でこの利益を説明しています。(以下参照)

微生物を認知して受け入れる

そんな私たちと切っても切り離せない存在である微生物を認知して受け入れてほしい、そういう意味を込めて「セカイは微生物に満ちている」というタイトルにしています。これは映画「Love Actually」から派生したタイトルで、映画の冒頭の音楽では「Love Actually is all around」という歌詞が出てきます。

本当に大切なモノ(愛も微生物も)は全部、目には見えないものだと思います。だからといって怖がらず、見えないながらも存在を認知して受け入れてほしいという思いを込めて作った展示です。

If you look for it,
I've got a sneaky feeling you'll find that 
love actually is all around.

「Love Actually」映画冒頭のナレーション


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