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ドライブ・マイ・カーとワーニャ伯父さん

村上春樹氏原作の『女のいない男たち』に収められた短編『ドライブ・マイ・カー』が映画化された。
カンヌ国際映画祭では日本映画では初となる脚本賞を受賞したという。

およそ3時間にわたるその脚本は、短編原作にはない描写、原作とは設定が違う部分が多い。それでも、村上春樹氏の『ドライブ・マイ・カー』とはこんなにも切なく、喪失感にとらわれてしまっても人は生きていかねばならないというメッセージが込められた作品だったのかと鑑賞後は茫然とさせられた。

あらすじをざっくりと紹介すると、

『俳優であり演出家の家福(西島秀俊)は愛する妻と満ち足りた日々を送っていた。しかし、家福は妻に夫以外の親密な関係を持つ男がいることを知ってしまう。愛するがゆえにその事実を胸にしまい普段どおりの生活を送るうちに、妻は急死してしまうのだ。その秘密を抱えたまま...』

という内容である。

なされなかった質問と、与えられなかった回答。

この作品のベースとして見逃せないのは、アントン・チェーホフの『ワーニャ伯父さん』の要素だ。

特に映画では、その舞台練習を通して、妻が最後に親密な関係を持った若い俳優、高槻(岡田将生)と家福の複雑な思いが描かれている。
映画を観る前に『ワーニャ伯父さん』を読んでおくと、練習場面のシーンが何を示唆しているのかわかりやすく、興味深いと思う。

もう一人、原作でも映画でも家福にとって重要な人物となるのが、彼の車SAABの運転手に雇われるみさきという若い女性。彼女もまた、その母親の死に複雑な思いを抱えて生きている。彼女は『ワーニャ伯父さん』でいうところのソーニャのような存在である。

この映画のラスト20分にまさに心が震えるのは、『ワーニャ伯父さん』のラストの名言が、『ドライブ・マイ・カー』の真髄に重ねられているからだろうと思う。ということで、ワーニャ伯父さんのラストシーンの一部を。

ワーニャ『あぁ、ソーニャ、みじめだよ、おれは。どんなにみじめかわかってくれたらなぁ』

ソーニャ『でも仕方ないでしょう?私たち、生きていかなければ。長々とどこまでも果てしなく続く日々を、生きていきましょう。運命に与えられた試練にじっと耐えていきましょう。〜続く〜』

(ソーニャの言葉はここからが良いところなので、興味がわきましたらぜひ続きを読んでみてくださいね)

なお、家福が最後に慟哭するセリフに、観ているかたは多かれ少なかれ自分自身のこれまでの人生を振り返り、思いを巡らすかもしれない。このセリフは『女のいない男たち』に収録されている『木野』という作品のラスト部分が使われているものと思われる。

原作未読のかたも充分に楽しめる映画ですが、原作は短編のため映画を観て原作を読むと物足りなさを感じるかもしれないので、先に読まれることをお勧め。

最後にチェーホフのこの名言を。
 「結婚生活で一番大切なものは忍耐である。」

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