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あいつは何者か


僕と彼女で世界を作って、その世界は上手く回っていたし、ちゃんと終わりを迎えようとしていた。

全ては予定通りだった。

問題なく、本に書き記したように動いていた。

あいつが現れるまでは。




あいつは突然、僕たちの作った世界に現れた。

僕と彼女は最初、あいつのことを名もなき登場人物の一人と認識していて特別に注意を払うことをしなかった。

思えば、現れた時点で対処しておけばあんな結末にならなかったのかもしれない。

しかし、僕も彼女も見過ごしてしまった。

もうこの事実は変わらない。

変えることが出来るとしたら、それは僕よりももっと高位な存在だ。

とにかく、僕と彼女はあいつのことを放置してしまった。

彼女も気にすることないんじゃないと、いつもの調子で言っていた。

だから僕は予定表を見直すことを止めて、彼女と一緒に世界を眺めていたのだ。




ことが動き出したのはあいつが現れて丁度三ヵ月後のこと。

僕と彼女の作った世界で、そろそろ起きるはずの変動が起こらなかったことで、何かがおかしいと気がついた。

僕と彼女は直ぐに予定表を見直した。

するとどうだろう。

僕と彼女の作った予定表から、例の起こるはずだった変動がすっかり消えてしまっているのだ。

神の筆で記した文字が消えてなくなるなんて、今まで一度だってなかった。

僕と彼女は顔を見合わせて、一度頷く。

そして何も起こらなかった世界を覗き込み、予定が消えてしまった原因を探す。

すると、あいつにいきついた。

僕は直ぐ、あいつを世界から排除すべきだと彼女に提案した。

しかし彼女は、面白そうだからもう少し様子を見てもいいんじゃないと言う。

僕はこの瞬間、妙な胸騒ぎを感じた。

それを言葉にするのが難しくて黙っていると、彼女は僕も了承したものだと思い込んだらしく世界を覗くのを止めて予定表に目を移した。

ぱらぱらと予定表がめくられる音が、妙に大きく聞こえたのを覚えている。






あいつが現れて、さらに数か月後。

世界の予定表から、世界の終わりが消えてしまった。

その原因ははっきりしていて、あいつが世界の内側で動いたせいだった。

僕と彼女はあいつが何者なのか、見極めることが出来なかった。

あいつは世界に現れた名もない登場人物の一人ではなく、世界の外側から送り込まれた創造主のひとりだった。

僕と彼女の世界は乗っ取られたのだ。

あいつは世界で起こる全てを知っていて、先回りしてその予定を回避していた。

僕と彼女の作った予定表の中身をあいつは知っていたのだ。

あいつはそれを利用して、終わらない世界を誕生させてしまった。

そのことで僕と彼女は口論になる。

終わらない世界なんて理に反していると僕が言えば、彼女は終わらない世界があってもいいんじゃないと言う。

終わらない世界を生み出してしまったら僕等は神々の審判にかけられて処刑されてしまうと言ったのだが、彼女はそれすら聞いてはくれなかった。

彼女の心はどうやら、どこかから送り込まれ世界の予定を書き換えたあいつに持っていかれてしまったらしい。

僕の言葉は、もう彼女に届くことはなかった。






数日後。

僕と彼女は神々の審判にかけられた。

終わらない世界は僕よりも高位の存在によって消し去られ、終わる世界しか存在しなくなった。

あいつがどこから来たのかは審判では明らかにされなかったが、あいつは影のような存在だと神々は告げた。

もっと注意すべきだったと僕が心の中で後悔していると、彼女のみが処刑されると聞こえてきて思わず顔を上げる。

彼女は大きな声で抗議をするが、誰も彼女の言葉を聞く者はいなかった。

僕が呆然と立ち尽くしている間に、彼女は処刑の間に連れて行かれ審判の間には僕だけがひとり取り残された。

突如として僕は彼女を奪われ、世界をひとりで作ることになってしまった。




全てはあいつのせいだ。



彼女が処刑されてしまったのも、僕がひとりでこんな世界を作り続けることも。



全部、あいつのせいだ。



僕は考える。



僕等を模した世界を作れば、また彼女に会うことが出来るのではないかと。



その世界の内側に入り込むことが出来れば、また彼女と一緒に世界を作ることが出来るではないかと。


頭に浮かんだ考えを実行するのに迷いはなかった。


僕は、彼女を取り戻すために『世界』を作る。


例えまた審判にかけられようと、彼女に会えるのならば何の問題もない。


神々の異分子になろうと、僕は彼女を取り戻す。








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