人魚の真相
人魚の肉を食べると不老不死になるという。
僕と彼女は不老不死には興味はなかったけれど、人魚には会ってみたいという事で人魚伝説の残っている都市に来ていた。
それぞれ別行動で都市を回り、情報を収集してからまた中央広場で合流しようと話していたのは三日前のことだ。
三日後の今日。
先に広場にやって来た僕は、先程聞いて来た話を頭の中で整理しながら彼女がやってくるのを待つ。
人魚が現れた話は、最近は聞かないこと。
しかし実際に百年ほど前に人魚を目の当たりにした人がいること。
もし人魚がいるとしたら東の入江じゃないか、ということ。
それから関係ないとは思うけど、街外れの大きな湖で最近人が消えているとのことだった。
そもそも本当に人魚を見た者が過去にいたとは驚きである。
しかもわりと直近で。
百年は人一人からみたら長いだろうけれど、歴史という長く続いていくものの中でみると一瞬である。
つまり直近である。
おっまたーせ!
あ、時間ピッタリだね
いやあ~、おもしろい話ばっかりでさ~
陽気にそう話す彼女とお互い聞いて来た話を共有する。
ほ~、なんかあれだね
ほっとんど同じ内容だったね~
へへへと笑う。
でもこれほどまでに同じ内容が街にあふれているというのは、なんだか奇妙に思えた。
いや、同じことを聞いてくる人間がこれまでもたくさんいただろうし、いちいち思い出して答えるのが面倒だからと、テンプレート化してしまったのかもしれないなあと頭の隅で考える。
とりあえずさー、東の入江行ってみる?
それがいいと思う
よーし、じゃはりきって行ってみよ~!
結論から言うと、東の入江で人魚に会うことはなかった。
僕たちはまあそんなもんだよねと納得し、街に戻ろうとしたのだが……。
彼女がついでに街外れの湖に行ってみようと言うので、行くことにした。
湖ってこんなに大きいものだったかなと思いつつ、僕たちは水の近くに寄る。
透明度は高いと思うが、下が見えない。
何もないみたいだし、もう帰らないか?
んー、もうちょっと……なーんか気になるんだよねえ
彼女が水面を覗き込むようにしゃがむと、水面が揺れ五つの顔が現れた。
僕と彼女は驚いて固まってしまうが、その五つの顔……湖の縁に五人の人魚が左右に分かれて腰掛けた。
そして人間を警戒していないのか僕と彼女に近寄り、訳知り顔で話し始める。
人間は勘違いしているけれど
私たちはね
不老不死じゃないのよ
あなたたちが
不老不死なのよ
人間はもともと不老不死で
今の人間だって本当はそう
でも上手くその細胞を
使うことができていないだけ
私たちはね
あなたたちの
その細胞を取り込み
補充することで
寿命と老化を
遅らせているだけなのよ
人魚たちは怪しく笑う。
僕は背筋がゾクゾクとし、彼女の手を握って水から離れようと後ずさろうとしたが間に合わなかった。
僕と彼女は人魚たちに両足を掴まれて湖の中に引きずり込まれる。
泳いで逃げようにも人魚たちに敵うはずもなく、僕と彼女は人魚たちに食べられてしまう。
僕が最後に見たのは彼女の顔を食べた人魚の顔が、彼女の顔に変化していくものだった。
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