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狸寝入りの可能性有


八月の連休が終わるというのに、彼はずっと眠ってばかりだった。

連休中だって、どこかへ出かけるわけでもなくずっと家の中にいた。

家の中で、ゲーム、テレビ、ゲーム、映画、そしてまたゲーム。

せっかく連休なんだから、どこかへ行こうと提案しても、どこかってどこ、行きたい場所とかあるのって素っ気なく返される。

その度に私は動物園とか水族館、美術館、今やっている食べ物フェスとかを挙げるのだけど、やっぱり彼の返す言葉は素っ気なかった。

例えば、動物園。

檻の中にいる動物なんか見て楽しいのかい、暑い中わざわざ大きな園内を歩き回るなんて考えただけで汗が出てくるよ。

檻の中にいてもらわないと安心して動物園行けなくない?

と思ったことは言わなかった。

次に水族館。

確かに動物園に比べると涼しいけど、泳いでる魚を見るだけならネットでもテレビでも観れるじゃない、わざわざ行く必要あるかな。

映像で観るのと自分の目の前で実際に泳いでいるのを見るのとではだいぶ違うし、水族館は展示場所によって光の度合いとかも変わるから館内を歩いているだけでも楽しいんだけどな。

というのも、もちろん言わなかった。

美術館やフェスについても同じような言葉を返された。

そんなことがあったから、連休中に彼とどこかへ行こうという気持ちはなくなり、彼は家の中に引きこもっていた。

私は近所の公園に出かけたり、食材を買いにお店に行ったりと、一応外に出ることはしていた。

でも外から帰っても彼はゲームをしているか眠っているか、テレビを観ているかのどれかで、なんだかなあと心がもやもやしてくるのだ。

そして連休最終日。

彼は昨夜早くに眠ったにもかかわらず、お昼の三時を過ぎても起きて来ない。

一向に起きる気配がない。

もしかすると起きているのかもしれないけれど、ずっと布団の中にいる。

昨夜話したこともきっと覚えていないのだろう。

連休最終日だから、昼頃に映画を観に行ってその後ご飯食べて気になっていた雑貨屋に行って、夕食の買い物して帰ろうって。

あの話はなんだったのか。

彼のわかったを信じた私が馬鹿だったのか。

カラカラとベランダに通じる窓を開ける。

柵に腕をのせようとしたが熱気を感じて止めた。

ため息とともに、空を見上げる。

目に映るのは、憎々しいくらいに雲一つない晴天だった。





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