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朝比奈の一般参賀を超えてきた ノット/東響のショスタコーヴィチ

サントリーホールで東京交響楽団を聴いてきた。

ラヴェル:道化師の朝の歌(管弦楽版)-鏡より
ラヴェル:歌曲集「シェエラザード」
ショスタコーヴィチ:交響曲 第4番 ハ短調 op.43

指揮:ジョナサン・ノット
ソプラノ:安川みく

開演前のアナウンスで演奏中にパンフレットや紙をめくる行為にまで言及してるのは初めて聞いた。
マナー違反と思ってない人が多いのでぜひ啓発してほしい。

そこまで攻めたプログラムとは思わないが、65%ほどの入りにとどまったのはブロムシュテット/N響やマケラ/パリ管があったせいもあるのだろう。

録音マイクがステージのあちこちに立っていた。そのせいかオケの気迫はいつも以上。
コンマスは小林壱成さん。横に水谷さんもいた。

道化師の朝の歌

ノットの振り方はゆらゆらしていて特徴的。打点だけはっきり提示したいのなら無駄な動きもありそうだが、その余白的なところにノットの音楽の魅力が潜んでいそう。

情報を伝えているのではない。雰囲気を伝えていると言えばいいのか。
情報であれば、指示と変わらない。「こうしてください」→「はい、わかりました」のやりとり。

それなりにキャリアのある女優さんが演出家に「どういうふうに演じますか?  監督のイメージに合わせます」と言ったところ、「まずはあなたが思うように演じてください」と言われて驚いたという話を聞いたことがある。

彼女は「こういう役を演じてほしい」と言われればいくらでも合わせられる柔軟さと技術は持っていたが、自分でその役について掘り下げて考える重要さを忘れていたのだ。

オーケストラの指揮でも情報ではなくあえて雰囲気を伝えることで、団員のイメージが喚起されているのかもしれない。

カルロス・クライバーのような指揮と言ったら言い過ぎだろうか? しかし私にはそう見えるのである。
クライバーはリハーサルで「子供がおもちゃ屋さんの前で親にねだるようなリタルダンドで」とか言ってたらしいが、そういうイメージって単なる指示より大切なのかもしれない。

入団33年目、首席ファゴットの福井蔵さんが安定感のある素晴らしいパフォーマンス!👏
ノットが真っ先に立たせてた。ショスタコーヴィチも福井さんが一番目でした!

シェエラザード

安川みくさんは裾の長いクリーム色のドレスで登場。
P席で聴く声楽は通常致命的なのだが、背中越しに聴いていてもニュアンス豊かな発声なのが伝わってきた。

歌曲はクラシックの中で一番難解で晦渋だと思う。
声楽でもオペラはわかりやすい。歌曲は朗読に近いから、言葉の意味がわからないと味わったことにほとんどならない。
とはいえ、ハイレベルな歌唱&演奏だったと思う。

ノットは曲の最後に音を切る動作がうまいので、彼の中で音が終わる瞬間まで味わいたいもの。
今日のお客さんは3曲ともフライングブラボーなし。指揮者と阿吽の呼吸で拍手がわっと起こる感じで素晴らしかった。

安川さんステージに出ていくときに階段を上がりづらそうにしてたので、ノットは最初のカーテンコールで舞台袖まで引っ込まずに安川さんに階段の手前で引き返させてた。
ジェントルマン!😆

ショスタコーヴィチ

Wikipediaによるとショスタコーヴィチの交響曲では最大編成の134名らしい。
ステージ上を団員が埋め尽くしていた。コントラバスは舞台下手(1stVnの奥)にズラーっと。
パンフレットの中田朱美氏の解説は「引越し公演に帯同していたショスタコーヴィチ」など、不自然な日本語が頻出(帯同ではなく同行でしょう)。
こういうのって校正入らないのかなぁ。

ショスタコーヴィチは出だしから恐怖感があった。シロフォンの響きも不気味。
勝手な想像だが「ショスタコーヴィチがまだ生きていて、ウクライナに侵攻する母国を見たらどう思うだろう?」とリハーサルで話してるノットが見えました😅

途中、大爆音の部分がしばらくあった。サントリーホールで経験した中では過去最大かも(オペラシティで体験した最大爆音はヴァントのブルックナー)。

オケがあまりに白熱したせいか、第1楽章の途中で舞台上手の2ndVnの女性が突然気を失って倒れ込んでしまった!

初めての経験で驚いた。崩れたまま立ち上がれない。2ndVnの大半の人は心配そうに彼女を見て演奏をやめてしまったが、ノットはちらちら様子を見ながらも指揮をやめない。

やがて舞台袖からスタッフの男性が2人来て彼女を抱き抱えて退場した。2ndVnの皆さんも演奏に復帰した。
一瞬オケを止めてしまった方がいいのではないかと思ったが、そうすると倒れた彼女が音楽を止めてしまったことになり、彼女の責任がより重くなってしまう。
録音もしてたし、止めない判断をしたノットは凄いなぁと思いましたね。
女性のご無事を祈っております🙏

第3楽章は「魔笛」や「カルメン」の主題のパロディがあるそうだが、まったくわからず😓
ショスタコーヴィチのような引用の多い作曲家は、その意図がわからないと曲の理解には程遠いでしょうね。
もっとも、専門家でもショスタコーヴィチの引用の解釈は難しいのかもしれないが…。
最後にチェレスタで繰り返される同型のメロディも当時の流行歌か何かなのかな?

演奏後、完全に音が消えた中に立ち尽くす指揮者がいた。
この瞬間ってかなり贅沢。食べ物の一番美味しい部分みたいな笑
凄絶な名演奏が終わった直後の2、3秒。それをみんなで味わえてよかった。
東響のお客さんはマナーいい方かもしれません。
ノットが聴衆も育ててきたからでしょう。

カーテンコール 


気迫漲る名演だったが、私は途中からやや集中力が落ち…。
第一楽章のアクシデントで少し動揺してしまったのと、第二楽章で近くのおっさんがリズム取り出したから😓

リズム取る客が最近やたら増えてきて本当に閉口。
私はノットの中のテンポ感を味わいたいのです。指揮者やオーケストラのテンポ感(それは絶妙に伸び縮みする)を味わいたいのに、一定のテンポで手動かしてるやつがいると目障りなの!

そもそも音楽に合わせてリズム取ってる人って、その単調なテンポでしか味わえてないんでしょ?
音楽の理解が浅いんだなーと思います😂

さて、団員が退場を始めても拍手の量は一向に衰えず、ノットが恒例のソロカーテンコールに応じると満場の聴衆のような大きな拍手が!

なぜかノットもいつも拍手してるのが面白い!🤣
お客も指揮者も拍手し合ってるという不思議な光景(笑)
日頃の苦労をねぎらい合ってるかのようでもあり🤣

ノットがゲラゲラ笑いながら拍手してるように見えるのもツボ。「聴衆のあなた方のおかげで素晴らしい演奏ができた。ありがとう」という感情だろうか。
舞台近くに押し寄せて手を振ってる人たちもいた。ファンクラブでもあるのかしら😅

ノットも気さくに手を振り返してくれるので、毎回双方向コミュニケーションのソロカーテンコール。

私は朝比奈隆の晩年3年間くらい追っかけをしてたが、最近のノットは朝比奈の一般参賀を超えてきてる。凄いです!😅

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