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色彩と叙情。フランス音楽は難しいーーブランギエ/東響のフランス&ロシアプロ

オペラシティで東京交響楽団を聴いてきました。

日本のオケでいま一番好きなのが東響とシティフィル。
どこかの定期会員になれるなら、迷わず東響ですね。
やはり音楽監督がいるオケは年間のプログラム構成がしっかりしてる!
それに客演指揮者も俊英揃い。ノットは信頼できます。
そもそも、ノットに白羽の矢を立てた事務局は先見の明があったと思います。
古典から現代音楽まで振れるし、今のポストがスイス・ロマンド管の音楽監督だけというのが不思議でなりません(ロンドン響の音楽監督か首席指揮者でもおかしくないレベルと思います)

今日は、かつてチューリヒ・トーンハレ管の音楽監督兼首席指揮者だったリオネル・ブランギエが指揮。
ピアノはリーズ・ドゥ・ラ・サール。

サロネン:ヘリックス
ラヴェル:ピアノ協奏曲
ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
ストラヴィンスキー:「火の鳥」(1919年版)

客席はガラガラでした!(T_T)
5割いるかどうか。1階席の後ろなんてほぼ空席でしたね、、
今日のコンサートはやや通好みだったかもしれません。
しかし東響の今年度のコンサートってこんなのばかりですよ?
ベートーヴェンの交響曲第2番がメインの回もありましたよね? 
ヨーロッパのオケのプログラミングに近いです。
採算取れるのか心配になりました。

ブランギエとリーズという本場でも評価の高い2人なうえ、プログラムも2人に合ってそう。
なのに、これだけスカスカとはねぇ。
エッシェンバッハ/N響は満席だったのに。。

会場はおじさん率が高かったです。
かつて美輪明宏さんは「中年男性は会社人間で無趣味。反対に奥さんはお稽古事をしたり友達と映画行ったり文化的。男性ももっと生活に文化を取り入れましょう」と言ってました。

あれから20年。クラシック好きのおじさんはわりといるのです。
だいたいチェックのシャツにチノパンです。洋服買うお金があったらチケット代に回してしまうからです(私も例外ではありません。チェックのシャツではありませんが…)
おじさんの園で、日向坂にいそうな若い女性を見かけました。
掃き溜めに鶴状態なので、「シンドラーのリスト」の赤い服の女の子なみに目立ちます。
音大生なのかクラオタなのかは不明ですが、「音楽はお好きですか?」とエンター・ザ・ミュージック風の声かけをしたい気持ちをグッと堪えます。
オペラシティを出禁になるわけにはいきませんので、、

本題です。

サロネンの「ヘリックス」は初めて聴きました。
プログラムノートは北里大准教授の安川智子さんが書かれています。「ヘリックス」の意味は「螺旋」なんだとか。
サロネンがどういう意図で作曲したかが噛み砕いて書かれてあり(それでも難解ですが)、現代音楽家がどんなことに挑戦しているのかがわかる名解説でした。
打楽器奏者がヴァイオリンの弓2本でグロッケンシュピールの縁を擦るという不思議な奏法もありました。
音の塊が形を変えて飛び回ってるような面白い曲でした。

続いて、ラヴェル。
リーズ・ドゥ・ラ・サールはリカちゃん人形みたいな巻き髪で、黒いパンツにシャツの前裾を入れた格好は「VOGUE」の表紙に載ってそうな感じでした笑

今回久しぶりに生でこの曲を聴いて、管楽器の首席奏者がヴィルトゥオーゾなみのプレイを要求される曲なんだと気付きました(今更ですが、、)

ブランギエのテンポが速かったのもありますが、東響のメンバーが付いていくのが大変そうでした。
トランペットなんて、ミュートをつけたり外したり慌ただしい。

サイドの席だったので見切れてましたが、フルートの女性はよかったです。

コーラングレとホルンは私には残念な出来でした。
第2楽章で、窓越しの長雨を眺めてるかのようなリーズのアンニュイな色気に対してコーラングレの音色が硬すぎました。
愛を語りかけるピアノに対して帰りの電車の時間を気にする朴念仁みたいで、ロマンティックなムードからは程遠いです。
もっと色っぽく絡み合ってほしかったです。愛の交歓みたいに。
ブレス音も頻繁に響いて、息継ぎが苦しそうな印象でした。

なので、ブランギエとリーズであればもっと出来るはず、、という感想です。
改めて難しい曲なんだなと思いました。

ちなみに、第2楽章冒頭のピアノソロを聴いていたら「恋は雨上がりのように」という映画を思い出しました。
小松菜奈さんがファミレスで雨宿りしてるシーンがあるんです。
高校生が年の離れたファミレスの店長に想いを寄せる話で、とても好きな映画です。

リーズさん、アンコールがありました。
「アリガトウ」と言ったあと何と言ったか聞き取れませんでしたが、シューベルトの小品です(曲もうっかり確認し忘れました)。

今日のプログラムとは水と油のようなドイツ本流の古典でしたが、リーズさんに合ってましたね。
見た目はお人形みたいにかわいらしい方ですが、シュナーベルやギーゼキングみたいな老成した音楽でした。暖炉のそばでおじいちゃんが語りかけてるような。
次回はベートーヴェンの4番やブラームスの2番みたいに内省的な深みのある曲を聴いてみたいと思いました。

さて、後半の「高雅で感傷的なワルツ」。
冒頭から原色の油絵具を大胆にキャンバスに塗りつけるような色彩感です。
家でめったに聴かない曲ですが、マルティノン/パリ管のCDを持ってます。
フランスのオーケストラを評するときに「色彩感が豊か」とよく言われますが(紋切り型でもありますが)、今日の東響はフランス的な響きがよく出ていたと思います。

デュトワ時代のN響は「デュトワがN響にフランス的な色彩やセンスをもたらした」と言われてましたが、私にはそこまでフランス的に感じられませんでした。

今日の東響は相当フランス的でした。日本のオーケストラからそういう響きを引き出せるブランギエは凄いなぁと感心しました。
もっとも先日の沼尻竜典さんとのラヴェルも評判よかったので、日本人が振ってもそれほど大差ないのかもしれませんが、、

最後は「火の鳥」。
私はストラヴィンスキーそんなに得意ではないんです。ヴァイオリン協奏曲やプルチネルラ組曲は好きですけど。
あまり得意ではない曲は家だとほとんど聴かないので、実力派アーティストによる生演奏でこそ聴きたいという思いがあります。

有名な最後の盛り上がり以外はやはり馴染めないなぁという感想でしたが、久しぶりに「火の鳥」を聴けてよかったです。
というか、この曲を生で聴いたのは1997年のスヴェトラーノフ/N響以来かも笑
あのときはソリスト時代の樫本大進さんがグラズノフの協奏曲を弾くので、それ目当てで行ったんですよね。。
普段聴いてる曲がいかに偏ってるかわかります笑

最近コンサート通いしてて気になるのは、演奏の出来不出来に関わらず、指揮者が全ての奏者を立たせることです。
ルイージがN響とチャイコフスキーの5番をやったときは、明らかに不調だったホルンを真っ先に立たせていて、隣で一緒に聴いてた人が文句言ってました。
本来は野球でいう「今日のMVP」みたいな行事なわけです。
スーパープレイに対してみんなで拍手するのではなく、形式的な習慣になると白けます。
ヨーロッパでもこんな感じなんでしょうか? 日本独特な気がします(不出来な人を立たせない指揮者は次から呼ばなそうなので、、笑)

終わった後はTwitterのフォロワーさんと茶飲み話をしました。楽しいひとときでした。

昔mixiをやってたころはいろんな方とコンサートでお会いしたものです。
話し合って一緒に行くのではなく、たまたま行きたいコンサートが一緒だったから会場で会ってました。その方が気楽です。

それにしても今日の客入りはびっくりでしたね。東響の事務局も青ざめたのではないでしょうか。
ノットの趣向的な年間プログラミングでお客が呼べないとなると、またベタな名曲コンサートに逆戻りです。

反田さんや清塚さんが出るコンサートは完売必至みたいなので、クラシックの裾野が広がってくれることを祈るばかりです。

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