N響はブロムシュテットの楽器 B定期のニールセン
はじめに
サントリーホールでN響B定期を聴いてきた。
グリーグ:ピアノ協奏曲
ニールセン:交響曲第3番「広がり」
ピアノ:オリ・ムストネン
ソプラノ:盛田麻央
バリトン:青山貴
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
噂には聞いていたが、今年転倒してしまったせいで足腰が一気に弱くなったのか、以前はピンと背筋が伸びて颯爽とした風貌で指揮していたブロムシュテットがソリストやコンマス(白井圭)に腕を引かれて入退場。
そんな状態で座りながらの指揮なので、団員がいっそうブロムシュテットの意向を汲み取ろうと積極的になっているのがわかった。
以前マタチッチとN響のベートーヴェン7番をテレビで見たらひたすら相撲の手刀の繰り返しなので笑ってしまったが、それでも音楽は堂々としていた。
動きが少ないと団員の観察力と感性が研ぎ澄まされるのかもしれない。
若手は真似できないから老巨匠にのみ許される芸といえる。
グリーグ
ムストネンのグリーグは好みではなかった。弾き振りもして鬼才として知られるピアニストだけに普通の演奏でないのはわかっていた。というか昨日FMで聴いたからアクの強い演奏なのはわかっていた😅
グールドのバッハは、演奏家の強烈な個性がそれを許してしまうバッハの音楽の懐の広さを知らしめるという構図になっていると思う。
バッハなら遊びもいいが、グリーグのこの曲はやや通俗的。
だからあまりに個性を押し出すと本来の曲のよさが台無しになってしまう。
宇野功芳風に言うなら「グリーグよりムストネンの体臭を感じさせる」「グリーグよりムストネンを聴くべき」演奏だった。
ブロムシュテットの伴奏は繊細でよかった。指のわずかな動きも見逃すまいとオケが機敏に反応する。
団員の敬愛の念がひしひしと伝わった。
ブロムシュテットの大ファンではない私も、弱々しく歩く今日の姿を見ると「95歳でこの状態でよく来日してくれた!」と感謝せずにはいられない。
それもN響との深い関係があるからこそ。彼にとってライプツィヒ・ゲヴァントハウス管と同じくらいN響との結びつきは強いのではないか。
ムストネンのアンコールは昨日と同じヘンデルの「調子のいい鍛冶屋」だったが、こちらも趣味の悪いアレンジ。
私はヘンデル好きだしこの曲もいろんな演奏家の録音を聴いたが、一番苦手な演奏かも😓
私は小曽根真の弾くクラシックが大好きだが、それは原曲に対する敬意を持ちながら、それを活かす形で自在に遊んでいるから。
今日のムストネンのヘンデルは曲に対する愛情が感じられなかった。
脚色にまかせて細かい音符は雑に処理してる感じだったし。
普通に弾くだけで感動させられる名曲なのに。
塩だけでいいのに、ごてごていろんなソース入れてまずくなった料理という印象だった。
ニールセン
後半のニールセンはよかった。オケがピタリとブロムシュテットの指に反応する。
今回の来日は「椅子に座って」「指揮棒は持たずに」「眼鏡を外して」振るという異例のモデルチェンジだったが、オケとの距離が縮まり、室内楽のような親密さも感じた。
私はブロムシュテットのよい聴き手とは言い難く、実演を聴いたのは2010年のNHKホールでのマーラー9番のみ。
そのマーラーはブーレーズのような緻密な造型で、均整の美しさを見せるといった演奏でよかった。
だが、その後に来日してよく振っていたベートーヴェンはまったく好みではなかった(好みと合わない指揮者なのにほぼ毎回FMで聴いてはいた)。
「若々しい」「颯爽としている」以外の感想がない。
年の割に元気ですね、だけなのだ。音楽の旨味がない。
淡白すぎる響きや音の流れはまったく好みではなかった。
今回の定期を取ったのは、さすがに高齢だしもう来日は厳しいのではと思ったので。
20世紀を代表する巨匠ブロムシュテットを評するにはあまりに偏った音楽経験なので、最後に生演奏を聴きたかった(それも音響のいいサントリーホールで)。
結果、素晴らしい音楽が聴けた。
力みのない悠々とした音楽の流れ。彼が音楽を聴かせている、というより、巨匠が長年親しんだ名曲と戯れている姿を陶然としながら見ていた。
この次元になると比較の対象から外れる。
まさに一期一会の芸術。代わりが利かないから比べようがない。
ただ、2回全集出してるくらいニールセンには愛着があるのだろうが、いかんせん老巨匠の至芸を味わうには曲のスケールが物足りないというか…
ドレスデン・シュターツカペレとの名盤で知られるブルックナー7番、ブラームス3番、シベリウス7番あたりの「老境の音楽」で95歳の至芸を存分に聴かせてほしかった。
今日のブロムシュテットを見て、N響が完全に彼の楽器となっている印象を受けた。
音楽監督や首席指揮者ではなかったにせよ、定期的に41年間振り続けたオーケストラである。
朝比奈隆が振る大阪フィルもこんな感じだったろうか…と昔を懐かしく思い返していた。
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