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雑誌『CHOKiCHOKi』創刊編集長・三浦伸司の「編集者としての根本」【かくしごとの仲間のnote⑤】

えーっと、、CHOKiCHOKiというヘア&ファッション誌の編集長をしています、三浦といいます。99年に創刊して、途中関係部署に異動もしましたが、ずーっと編集者として関わり続けています。CHOKiCHOKi歴22年!(汗)ですね、おそろしや。。。

『CHOKiCHOKi』2021 SUMMER

といっても編集者としてはその前歴もあって、かけだしのころはティーン誌の芸能音楽担当、20代は主にバイク雑誌の編集者として過ごしました。関わった雑誌が急成長する最中にいたこともあるし、逆に下り坂に入る経験もしました。創刊も休刊も当事者として体験できるとは、編集者としてはある意味運がいいのかもしれませんね。いや、休刊はキツイか。。。

CHOKiCHOKiの印象が強いせいか、ヘアスタイルやストリートファッションのオーソリティ的な見方もされるのですが、この経歴からもお分かりのとおり根本的には編集者です。今回こちらで書かせていただくのがヘア&ファッションだったら辞退していたかもしれませんが、根っこの編集の部分についてのリクエストだったので、そういえばあんまり話すことないなあと思って筆をとらせていただくことにしました(この言いかたも化石のようですねー)。

さてさて。

そこでいくつかプロットを立ててみたんですが、どんな話をしても部分的な切り取りにしか見えないんですよ。ひとつのことを徹底的にやる職人さんではなく、扱う分野が違えば掘り方が違うし、職人さんではあるけど幅も奥行きもいっぱいある仕事だと思うんですよね。だから編集者録の第何章的にしか見えないなあと思えてきて。

なので、根っこのさらに芯のところだけをひっぱりだして「編集ってどんな仕事なんだっけ」というところだけをお話しさせていただこうと思います。

雑誌が斜陽になっている時代に雑誌編集者がなにをぬかすとかありますが、それから始めると言い訳ばかりになっちゃうので、いったん置いといて。僕もまだ途上だと思っていますし、自分の編集力をこれからどう活かそうかと考えているので、足元を見つめ直すためにもふりかえりたいと思います。
ひねりがないけど、わかりやすくいうと「編集者として心がけていること」、ですかね。

1.世の中のことはたいてい面白い

CHOKiCHOki特別編集『おしゃれキングの本。』(2005)

だいたい面白く思えるんですよ。日常では気にもとめなかったことだけど、それを扱うってことになったときに。勉強すると、へぇーこんな仕組みなんだ、とか。

僕はエンターテイメントに関わることも多かったので、それは多くの人が面白くしようとして作っているものだから面白くて当然なのですが、それに限らずです。過去には警察庁のお役人や一般メーカーのお勤め人も取材対象だったこともありますが、その都度たいてい面白いなあと思えていました。

例えば穴を掘る作業があったとして。どうやったら真っ直ぐ掘れるんだろうとか、掘った土はどうやって排出するのかしらとか湧く疑問に対して、そこには実は最新テクノロジーが導入されているとか、穴掘りカリスマがいるとか、シェア争いが熾烈とか、知らないことを知る楽しさもあって、たぶん面白く思えると思います。

よく「好奇心旺盛」「野次馬根性が逞しい」人が向いているなんていわれますが、僕はちょっと違ってて。「なんでも面白いと思える人」がいいんじゃないかと思います。面白いと思うから伝え方を考えるし、工夫もするし、熱量も上がりますよね。編集者が動く素になっているのかなと思いますね。

2.どうなってほしいか

例えばなにか企画編集制作のミッションが与えられたとしましょう。どこから手をつければいいのか、一から勉強するのか。僕はそんなことしないです。ほかをパクリます(笑)。技術的なことはパクればいいんですよ。雑誌編集であろうが動画編集であろうが。

出版でいえば、紙を束ねたデバイスの歴史は長いですから、表現方法は出し尽くされた。もはや0から全く新しい表現をするなんて考えにくい。出版に限らずパクリ合戦じゃないですか、ねえ。

ただやってみるとわかりますが、パクリきれないです。別にプライドが邪魔をして的な要因ではなく。まんまコピーできたとしても絶対に、決定的に違う。僕はCHOKiCHOKiで企画をパクられる経験もしましたが、絶対に違っていました。

何が違うのか。

僕の場合は「読んでどうなってほしいのか」を念頭に入れていました。楽しい気分になるのか、悲しい気持ちになるのか、怒りが湧くのか。今で言うペルソナを決めて、さらにその人たちにどんな感情が生まれるのか。コントロールをしようと思ったわけではありません。そんな大それたことできないですし。それは「想い」という言葉に変換されがちですが、それともちょっと違うかな。冷静だし。

そこに向かって企画、取材、構成、執筆、撮影、デザインなどいわゆる編集作業を進めていました。

3.ヒントはどんなところにも

21歳の時。売れてないティーン誌の編集部に大学生アルバイトとして潜り込んで、僕の編集者人生がはじまりました。前任の先輩が退社したことで、流れで僕が芸能音楽の担当になりました。

芸能界に興味があるわけでもなく、タレントやら俳優やら知らない人の方が多い。それになんかイメージ的に芸能界怖かったし。売れてる人がブイブイいわせてて。ただ高校生以来、邦ロックは好きでした。そこにタイミングよくバンドブームという一大ムーブメントが来ました。これ、面白いんじゃないかしら、と思ってちょっとずつページをとってもらって広げていきました。

ところが、売れてないティーン誌の音楽担当なんて、業界的には鼻クソ扱いなわけですよ。人気者の取材なんてできないし、ハブられるし。怒られるし。そこで僕がとった行動は「どの媒体の人よりもライブを観よう」ということでした。経験を積んで、顔も覚えてもらってパイプも作ろう、と。結果辞めるまでの3年間で、年間120本、180本、150本って観まくりました。

ここで僕の浮上人生をいいたいわけじゃなくて、そのころライブを観まくったことが、今でも編集作業に生きているってことです。さすがにそれだけ観ればステージ構成、セットリストの組み方、MCの語り口調の変化、どう盛り上げてどうクールダウンさせるかがみえてきます。

映画も人並みに観てたし、雑誌もまあ読んでたし、小説はあまり読まなかったですが、インプットしよう!と思わなくても脳に刻まれていった感じです。雑誌もエンターテイメントだ、と思っていた僕にとっては非常にヒントになっています。

僕の場合はライブが突出して多かったので、参考までにあげましたが、時間、場所を問わず、覚えてようとせずとも覚えていることが、ふっと閃いたり降りてきたりするから不思議です。ただの趣味や観光で脳内0で体験したことはダメかもしれませんが、そんなに力まなくても面白いな〜って思った体験ていどでいいと思います。

4.なんだかんだいって現場感

今のライブがまさにそうですが、やっぱり現場って大切ですよねー。いろんなことが便利になって出かけなくてもいい状態にもなれますが、なんだかんだいってやっぱりねー。

インタビューひとつとっても、相手の呼吸、熱っぽさ、姿勢、間、表情を汲み取れると違いますもんね。その現場の空気で構成やテーマが変わることなんてしょっちゅうだし。で、いいほうに転ぶことの方が多い気がするし。Zoomもいいけど現場もね。

なにを材料に、受け取る人にどうなってほしくて、どう伝えるのかが編集だとすると、材料知らなきゃゴールできないんじゃね? とは今でも思うことです。

今日も朝から24歳の美容師のリアルクローズ撮影でした。21歳の頃から知っています。ビンテージ感が加速して、さらに洗練されてよくなっていました。これから毎日のようにYouth世代に会います。そこで感じたことが材料になります。誰にもおしえてあげないです(笑)。

5.売り物になる編集力

このことについては雑誌が売れなくなってきたころからずっと考えていて、実は今も答えが出ていません。雑誌編集者を辞めて転職される方、多いですよね。A級で能力の高い編集者は別ですが、僕も含めた凡人編集者は、不安な夜を過ごしていることでしょう。

編集者はこれが得意という能力が人それぞれ違うと思います。ジャンルの話ではなくて。人たらしであるとか、営業力であるとか、時代を読む目が的確とか、単純に肝が据わっているとか。僕の場合、唯一自信があるのが「構成力」なんです。この話をするともう一章必要なので割愛しますが、20代の頃に徹底的に鍛え上げてきた、それが土台になっていることは間違いないです。

今年かくしごとさんと一緒にトムス社のカタログ編集のお手伝いをさせていただきましたが、その土台にもなりました。時代やトレンドに合わせてアレンジ、アップデートしていけばなんとかなるかな、という基礎の部分。

THE PRINTABLE WEAR COLLECTION 2022 AUTUMN & WINTER』(トムス社)

ただ、この能力が紙を束ねたもの以外に使えるのかどうか。

表現する場所がスクエアの画面や9:16の画面になったりしたときに、どう応用できるのか。今もアプリに追いつこうとしてもがいているけど、利用する考え方やノウハウがないのか。もっというと一歩先ゆくことができないのかな、とか。。小説や漫画をスマホで見れるということじゃなくて。

うーん。。。ごちゃごちゃいわないで「売れる物を作れる」ことが真実な気もするし。不安な夜は続きそうですねー。誰かなにか思いつかないかなー。

以上、最後がしょっぱくなっちゃいましたが、編集の仕事の枝でもなく幹でもなく、僕を支えている根底のお話でした。おそまつさまでした。

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