肺炎は夜作られる

あゆみ野クリニックには老年内科があります。

さて、水とプリンを用意してください。

まず、水を口に含みます。そしてゴクンと飲み込んでください。次にプリンを一口。まあ50代,60代ぐらいで脳卒中をしたことがない人なら、どちらも当たり前に、自然に飲み込めます。

では、布団かベッドに横になってください。横になったまま、最初は水を一口飲み込み、次にプリンを一口飲み込んでみてください。

そうしたら「水はプリンより飲み込みにくい」という事が実感出来ます。

高齢者の誤嚥性肺炎において、これは極めて重要な知識です。水やお茶のようなさらさらとした液体は、実は飲み込みにくいのです。プリンとかゼリーとかヨーグルトのような、とろっとしたものが一番飲み込みやすい。ご自身が高齢者だ、あるいは高齢の親御さんがいるという人はこのことを必ず知ってください。

とろっとしたものが、一番飲み込みやすく、従って誤嚥しにくく、つまり誤嚥性肺炎が起こりにくい。だから高齢者に薬を飲ませるときは、水では無くそういうとろみがあるものと一緒に飲ませなければいけません。

もう一つ大事なことは、高齢者で起こる誤嚥性肺炎のほとんどは、食直後に起きるのではありません。夜、寝ている間に口の中の食事の残りかすや雑菌がチョロチョロっと入っていって肺炎を起こすのです。何故なら、寝ると人間の嚥下反射機能は低下するからです。

私の恩師、東北大学医学部老年医学講座の、現在は退官されたから名誉教授であられる佐々木英忠先生の名文句の一つが「肺炎は夜作られる」。

そうなんです。誤嚥性肺炎は、食事中にごぼっと誤嚥して生じるのではありません。それは、誤嚥性肺炎ではなく、「誤嚥性肺臓炎」と言って区別されます。一般的に高齢者に起きる肺炎のほとんどは「誤嚥性肺炎」。つまり寝ている間にちょろちょろちょろちょろと口の中の食物残渣や、口に中にいればなんでも無い細菌が肺に入り込んで起こす肺炎なのです。

佐々木先生の指導の下、全国の歯科医が協力してある研究をしました。寝る前に口腔内洗浄、ぶっちゃけ歯磨きですが、これをしたかしないかで高齢者の肺炎の発生率を比べたのです。なんと、きちんと歯科医の指導の下に寝る前に口腔内洗浄をした要介護高齢者では、そういうことをしなかった同じような要介護高齢者に比べて、肺炎の発生率が半分に減りました。

高齢者、特に要介護高齢者では、食べた後と寝る前にきちんと歯磨きをする、これ大事。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?