岩崎鋼

漢方を使う高齢者医療専門の医者

岩崎鋼

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最近の記事

石巻市立病院問題

石巻市立病院が今抱えている問題を具体的に列挙します。 1.地域の開業医からの搬送依頼を断る。 ①当院が休日当番で70人以上発熱患者が押し寄せてきたとき腎結石発作の患者が来た。私一人で70人以上の発熱を捌いているときに腎結石発作の患者の対応には手が回らないから転送依頼したら「当院には泌尿器科がないから仙石病院(隣町東松島市にある私立の病院ですよ)に相談してくれ」。結局その患者は仙石病院が取ってくれた。 ②平日午前中に「授業中突然胸が痛くなった」と言って高校生が連れレテ来ら

    • 石巻市立病院問題

      石巻市立病院のHPを見ました。「標語」を探したのです。 標語って、なんだか取って付けただけで意味はないと思っている人は多いと思います。しかし私が自らあゆみ野クリニックの経営を引き受けたとき、色々な先輩医師から「標語を作りなさい。標語は大事です」と言われました。 標語。英語で言えば「ミッション」です。ミッションというのは、「自分は何をめざすのか、何を担うのか」という事です。「この病院、あるいはクリニックは何をめざし、何を目標とし、何を担うのか」を明確にするのがミッション。だ

      • 日本のリストラに邁進しよう!

        振り返って考えてみると、日本を新自由主義にぐいっと曲げたのは小泉・竹中だった。それで全てはてんやわんやになったのだが、民主党政権の財政経済政策はどうだったか。無駄を省くと言っていろんな公共事業を止めたりとかした。あれって要するにケインズ経済学の全面否定だったのだから、彼らは結局小泉・竹下路線を引き継いだのだ。 ところが東日本大震災が起き、「震災復興」という錦の御旗がたって日本はふたたび大盤振る舞いのケインズ主義に戻った。震災から10年間で復興事業におおよそ32兆円が投じられ

        • 中華と楚

          周が商(殷)を倒し、周に従った諸侯を各地に任じました。これが中華の始まりです。周に従った諸侯(諸部族の長)が周王朝に命ぜられてそれぞれ支配した範囲は、今で言えば極めて狭い範囲です。概ね、黄河中流から下流の領域でした。 楚というのはそもそも周には従わなかった部族です。長江流域を支配していたのですから、黄河流域に起こった殷周革命とは無関係でした。しかし周の権威が高かった頃、周の権威を戴いた諸侯と長江流域を支配する楚の間で緊張が高まったのです。周王朝において極めて有力であった斉の

        石巻市立病院問題

          般若心経

          般若心経の色即是空、空即是色の意味について色々な人が色々なことを言いますが、サンスクリット語の原典ではこの下りは3度くり返されます。 rūpaṃ śūnyatā śūnyataiva rūpaṃ rūpānna pṛthak śūnyatā śūnyatāyā na pṛthag rūpaṃ yad rūpaṃ sā śūnyatā yā śūnyatā tad rūpaṃ. 少しずつ表現が変わります

          般若心経

          あゆみ野クリニック

          私は都会に移った方が良いという忠告はしばしば聞きます。それは事実です。JAMAに日々目を通しているとか、中医学が得意だと言っても、石巻の開業医としては一文にもならない。そういうことは、大都会でこそ評価されるのです。 しかし当院は「あゆみ野クリニック」です。あゆみ野にあるからあゆみ野クリニック。一見平凡なネーミングですが、「あゆみ野」はまるごと震災復興地区です。つまりあの大震災で家を流された人々だけが住むところです。当院はそこの唯一の医療機関なのです。 当院の大家さん、私が

          あゆみ野クリニック

          自民党と医師会

          この度、とある事で大家さんに口利きをお願いした。当院の大家さんは自民党石巻支部幹事長だ。だから口利きはサクサクと効いたが、その直後、自民党国会議員秘書が当院に来て、ポスターを貼らせてくれないかという。まあそりゃ、口効いたんだからポスターぐらいお願いね、と言うことなんだろう。 私は渋った。そうですねえ、当院はなるべく政党色を出さないようにやってるんですが・・・。しかしこの程度なら、議員秘書は引き下がらない。会長さんからのご紹介ですので、という。それで私も「こりゃ本音を言わなき

          自民党と医師会

          伝統を進歩発展させること

          小説「老中医」も終盤にさしかかった。主人公翁泉海はあることを人生の集大成として取り上げる。1つは医学書の出版、そしてもう一つが「翁家に代々伝わる秘伝の処方の改良」だった。 翁泉海は弟子にこう告げる。 「翁家秘伝の処方強腎固本湯は何かが足りない気がする。それがなんなのかをこれからも追求しなくてはならない。そして中医はこれからも発展していくのだ」。 彼は強腎固本湯の処方を敢えて他流の中医師に見せた。その中医師は強腎固本湯の欠点に気がついたが、それを翁泉海に教えるのを非常に躊

          伝統を進歩発展させること

          競争することについて

          ある20代女性が当院心療内科に受診されました。出勤しようとすると動悸、眩暈、突然涙が出る・・・典型的な「心因反応」です。その方が抱える問題の本質は仕事のストレスだったのですが、あることをきっかけにして一気に体調を崩してしまったといいます。 その方は、ピアノを習っているのです。ほんの趣味、というのではなく、小さい頃から本気でやっているそうです。それで、とある有名な全国大会に今年で3年連続出場した。ところが今年、同じピアノ教室から初めて全国大会出場した2人が入賞したのに、その方

          競争することについて

          歴史に残るもの

          いつぞや私がFacebookの鍼灸師のグループで、「鍼灸、学たるべし!」「伝統医学、学たるべし!」と大声を上げ、そのグループの管理者も含め多くの「著明な」「有名な」鍼灸師たちから憎しみ、怒り、蔑視、軽蔑の罵声を浴びたことがあった。高名な権威者を攻撃するな、鍼灸は経験が一番だ、研究なんか意味がない、市井の鍼灸師に研究なんか出来ない、研究しても無駄だ、etc, etc... しかし一部の若手や中堅の鍼灸師が私の叫びを受け止め、市井の開業鍼灸師達が集まって自分たちの日常診療の中

          歴史に残るもの

          未病ということ。「高血圧は病気じゃない」

          あゆみ野クリニックの患者数がなかなか増えません。「どうやって患者を増やしたらいいか」毎日悩んでいました。ところがそれをFace bookでつぶやいたら「あなたは医者でしょう。医者が患者、つまり病人を増やす方法を考えるって、変ですよ」。と言われたのです。「医者は人々を健康にするのが仕事ではないのですか」というわけ。 それで私はハッと気がつきました。「医者は人々を健康にするのが仕事」、まさに正論です。 医者の仕事は二つあるのです。人々の健康を保つことと、病気になった人を治すこ

          未病ということ。「高血圧は病気じゃない」

          犀の角の例え

          友人が数人突然自分から離れてしまった。それで学校に行くと吐き気がするという中学生があゆみのクリニックに来た。 これは非常に古い仏典だ。仏教はインドで生まれたものだが、インドの犀は角が一つなんだ。それをイメージしているんだがね。 あらゆる生きものに対して暴力を加えることなく、あらゆる生きもののいずれをも悩ますことなく、また子を欲するなかれ。況(いわん)や朋友(ほうゆう)をや。犀(さい)の角のようにただ独り歩め。 交わりをしたならば愛情が生じる。愛情にしたがってこの苦しみが

          犀の角の例え

          製薬メーカーが金儲け出来なくなりました

          先日ある患者さんに「あなたの咳は煎じ薬漢方治療しか効きません」と言いました。当院の煎じ薬治療は保険診療ですがお値段は通常の保険診療より薬局の支払いが月に5,6千円高くなります、と説明したのですが、実際には薬局の支払いが15000近くになってしまい、患者さんから「キャンセルしたい」とお申し出がありましたが規則を調べたところ御本人が同意して薬局がその薬を本人に発送してしまったあとではキャンセルは出来ないことが分かりました。 当院では煎じ薬の治療を保険でやっていますが、保険を使っ

          製薬メーカーが金儲け出来なくなりました

          診断は数値で決まるか

          ある患者さんが100の言葉より数字ですよね、というから、そうとは限りませんよと説明しました。その方は理系のお仕事をされてるからそう思っていらしたのかもしれませんが。 高血圧かどうかは血圧という数字を見ることが必要です。糖尿病かどうかも血糖値やHbA1cという数値で見ていきます。肝機能が悪い、腎機能が悪い。これも数字が決め手になります。 しかしある時、夜よく眠れない、何度も目が覚めてそれっきり熟眠できない、だから日中は眠気が酷く仕事に差し支えが出ているという方がきました。い

          診断は数値で決まるか

          慣行だの慣習だの

          私が何処でも嫌われるのは、その社会、その業界など「閉じた世界」の問題を指摘するからです。 こんな問題がある。それはこれまで慣習とか慣行と言って誰も手を付けなかった。そのことで安閑として暮らしている人間は多いが、一方でそういう不合理が是正されないため塗炭の苦しみを受けている人もいる。だから私は「それは問題です」と公言する。更に、そういうことはほとんどの場合、違法なんです。 日本国というのは、法律上はかなりまともな国です(在日米軍を除けば、ですが)。ところがその法律が実社会で

          慣行だの慣習だの

          トリカブトを生薬として使う話

          トリカブトを生薬として使う話 トリカブトという猛毒の植物があるのはご存じの方が多いと思います。トリカブトは全草に、つまり根から茎から葉から花まで全て、アコニンサンという猛毒を含んでいます。トリカブトにとっては身を守る目的なのでしょう。トリカブトを食ったら最後、その生物は助かりません。だからトリカブトは虫に食われることもなく、動物に食べられることもないのです。 ところがこのトリカブト、中医学では伝統的に重要な生薬です。無論政敵を暗殺するためにも有効なのですが、医学的には鎮痛

          トリカブトを生薬として使う話