執着が過ぎると苦しみになる実例part 1

お金があっても不幸せな人っているんだよとよく言いますが、私これまでそんなの嘘だと思っていました。お金があることは、少なくともお金がないより良いはずだ。分かったような口利くんじゃねえよ。



ところが先日、私は初めて「お金があるために苦しんでいる」人に出会いました。



ある高齢女性です。夫が亡くなったとき、夫の財産は全て自分が継承した。共稼ぎで御本人も正規職員として一生働いてきたので、合わせるとかなりの貯金がある。ところがその人は法律に多少の知識があったから、夫が亡くなったときの税務処理は全て自分でやった。



ところが今になって、「次に死ぬのは自分だ。しかしこのままだと子供達が大変な相続税を払わなくてはならなくなる。どうしよう」というのです。それが心配で心配で、毎晩夜も眠れない・・・。



思わず耳を疑いました。正直、妄想を抱いているのではないかとすら思いました。しかし付き添ってきたお子さんに話を聞くと、まんざら嘘ではなさそうです。とは言え、そのお子さんは御本人がそうさめざめと訴えるのを後ろで聞きながら苦笑いしてるんですけど。



だいたいその人は、その日の翌日、税理士に相談に行くんだそうです。無論お子さんと一緒に。だったらその人の悩みを解決してくれるのは税理士であって、医者じゃありません。しかしその人は「毎晩そのことばかり心配で眠れない。どうにかしてください」というわけ。



私、マジでそれまで、「物事に執着しすぎればそれは苦しみの元になる」という仏教の教えは、半信半疑でした。たしかに執着しすぎて苦しんでいる人は一杯いますが、少なくとも金があるということは金が無いよりは良いはずだ。そう思っていました。



その方には「あなたがお悩みの税金って言うのは、お子さん方が払う税金です。だからそれについて考えるのはお子さん方であって、お子さん方が税理士さんとどう税金を払うか、節税出来る方法はあるかを考えたらいいです。あなたがやるべき事は要するに財産を洗いざらい隠さずお子さんと税理士にさらけ出すことだけです。そもそも、あなたはお子さんに借金じゃなくて資産を残すんだから、それであなたは人間がやるべき事をきちんとやってます。だから後のことまであなたが心配する必要はありません」と言いました。「せめて睡眠薬が欲しい」と言われましたが、「いや、あなたの不眠は明日税理士事務所に行けば治るんだから、睡眠薬は必要ありません」と言って帰したんです。後ろに座っていたお子さんは終始苦笑い。



旦那さんが亡くなったとき、民法ではそれぞれ妻に半額、残りの半額は実子に遺留分があります。数人子供がいれば父親の遺産の半分を子供達が均等に分けると言うのが民法の規定です。しかしこの人は、全部自分でがめちゃったわけだ。子供達の遺留分まで自分が相続した。その手続きは多少法律の知識があったから自分がやり、その頃この人はまだシャキシャキだったからお子さん方は何も言えなかった。御本人はその時は「上手くやった」と思ったんだろうが、いざ自分がますます老い、次は我が身となったとき、夫の遺産を強引に全て我が物にしたことが急に心に突き刺さってしまった。あの時子供達と相談してやれば良かったのに、と後の祭りを悔やみだした。後ろに座っていたお子さんの苦笑いの半分は「それ見たことか」だろうし、半分は「この期に及んでまだ自分が全部やろうっての?」という事だろうと思いました。



まあ、あまりにもしがみつけば財産だって苦しみの種になるわけだ。それって本当だったんだねえ・・・。



もちろんこの人はそれきり来ていません。おそらくその人の悩みも不眠も、その翌日税理士さんと話して解決したはずです。医者の出番じゃありません。


Part1って事は、次はpart2です。

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