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アメリカのオンライン授業⑥ 接続環境と同期・非同期を考える

これまでオンライン授業について、さまざまな視点から見てきました。

前回は、分かりやすい授業を届けるためのコツについてお話しました。そのなかで、学習目的に合わせて授業内容を考える大切さについてお話しました。

しかし、これまで対面で行ってきた授業内容のなかには、オンライン授業ではできないこともたくさんあります。また、オンライン授業だからこそ考慮しなければいけないこともたくさんあります。

そこで、今回は、わたしがオンライン授業について講習などを受けるなかで、なるほど!と思った、学生に易しいオンライン授業の組み方について具体的に見ていきます。

同期と非同期の違い 

オンライン移行にあたって、まず最初に知る必要があるのが、同期(synchronous)と非同期 (asynchronous)の違いです。難しそうな言葉ですが、簡単にいうと、同時に行われるか、そうでないか、の違いです。

オンライン学習でいうと、以下の違いになります。

同期型学習
・Zoomなどを使ったビデオ会議
・チャット機能を使った会話など

非同期型学習
・メールのやりとり
・学習管理システムを使った投稿
・課題の読み物をするなど

参加者が同時に参加する必要があるか、ないか、による区別です。オンライン学習では、同期と非同期を組み合わせてカリキュラムを組むことになります。

以前、別の記事でもお話しましたが、アメリカの大学では、もともと、学習管理システムやメールなど、非同期型学習を取り入れた教育をおこなってきました。

しかし、今回のオンライン移行では、ただ対面での授業をビデオ会議に置き換えればいいというわけではありませんでした。

アクセスしやすい学習環境づくり

同期と非同期の違いを知ることは、コロナ禍で、さまざまなな環境に置かれてしまった学生が、できる限り平等に参加できる学習環境を整える上でとても大切になってきます。

アメリカの大学の多くは、キャンパスのどこからでもインターネットにアクセスでき、また、図書館などにコンピューターもたくさん常備されています。しかし、コロナ禍で突然、キャンパスを追い出されてしまった学生のなかには、コンピュータがなかったり、ネット環境が整っていないところで生活していたり、経済的にオンライン授業に必要な学習環境を整えられない学生もいます。Wi-Fiのある近くのカフェや近所の図書館に行こうにも、コロナの影響でどこも開いていません。

そこで重要になってくるのが、同期と非同期の「帯域幅 (bandwidth)」の違いです。簡単に説明すると、同期型学習は、通信に必要な容量が大きく、非同期型学習は、通信に必要な容量が小さい傾向があります。通信する容量が大きいほど、広い帯域幅を必要とし、容量が小さいほど、帯域幅で済みます。この違いが、学生の学習に大きく影響してきます。

コンピュータは大学の支援でなんとか手に入れて、非同期型の課題にはなんとか参加できても、ネット環境によっては、同期型学習には参加できないという学生が出てきます。そして、そういった学生は、もともと恵まれていない環境からきていたり、これまでも不利な学習環境のなかで頑張ってきた学生たちであることが多いという状況があります。

こういった学生間の格差を広げないためにも、オンライン学習では、非同期型学習に重点をおいてカリキュラムを組む工夫が求められています。その場合、同期型学習を全くしないケースもありますが、たいていは、同期型学習を任意参加にして、参加できない学生には、代わりにおこなえる課題を用意したりして対応します。

帯域幅と即時性を意識した授業方法

それでは、具体的に、容量を使い、アクセスしにくい授業方法と、容量をあまり使わず、みんながアクセスしやすい授業方法には、どのようなものがあるのでしょうか。

Depaul大学のDaniel Stanford教授による記事をもとに見ていきます。

Stanford教授は、オンライン授業を「帯域幅」と「即時性」という2つの軸でとらえています。

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緑:ここには、ダウンロードして読める論文や本、メールでのやり取り、掲示板でのやり取りなどが含まれます。通信容量が少なく、学生がアクセスしやすい上、即時性がない分、それぞれが時差や予定に合わせて参加できます。ただ、面白味にかけるという難点があります。

青:Googleの共同編集できるドキュメントや、Slackなどグループチャットは、即時性がありながら、容量をあまり使わないので、ネット環境が悪くても、アクセスしやすい選択肢です。

黄:事前に録画されたビデオ、録音を伴ったスライドなど、学生がオンデマンドでアクセスできる教材がここに含まれます。これは、学生にとっては、いつでも好きな時に授業を受けられるという利点がありますが、先生にとっては、PanoptoやZoomなどの機能を使いこなすなど、慣れないことをする必要が出てくるかもしれません。また、容量を使うので、学生のネット環境によってはアクセスの問題が出てきます。

赤:ZoomやSkype, Google Hangoutなどを使って、より自然な形で会話やディスカッションがおこなえます。しかし、通信容量が大きく、ネット環境が悪い学生は参加できない場合があります。また、時差などがある学生にとっても参加しにくくなります。

これらのことを念頭に、できる限り多くの学生に、できるだけ面白く学習できる授業方法を考えて行くことになります。

オンラインで学習目的に合わせた授業方法

帯域幅と即時性を意識した上で、オンラインではどのような授業がおこなえるのでしょうか。これを考える上で大切になってくるのが、前回の記事でお話しした学習目的です。

ここでは、学習目的に合わせておこなえることの例を、学習目的別に、帯域幅と即時性に照らしながら、図で示していきます。

<知識・理解>画像2

まず、知識・理解を深めることを目的におこなう学習には、例えば、学生が読みものをし、事前に教授が録画したビデオをみて、そのビデオに組み込まれた小テストを受けて、理解を確認するいった方法があります。また、ビデオ会議をおこない、最初の10−15分で先生が講義を行い、その後、学生の質問に答えるといった方法もあります。ビデオ会議は、理想的には全て録画して、字幕をつけ、参加できなかった学生がオンデマンドでアクセスできるように、学習管理システムにあげておきます。

<応用・分析>画像3

応用・分析を目的としておこなう学習には、学習管理システムの掲示板でのディスカッションや、ビデオ会議でのディスカッションが有効です。ビデオでのディスカッションをおこなう場合、Zoomでは、Breakout Sessionといって、学生をいくつかのグループに分けて、少人数で議論させることができます。その際に、先生がそれぞれのグループに参加することもできますが、あらかじめ用意しておいて共同編集用のドキュメントに議論したことを記入させると、議論されたことがその場でクラス全体に共有されて便利です。このとき、グループのうち、一人を共同のドキュメントに記入する係、一人をクラス全体に発表する係にしておくと、全体のディスカッションのときにも、代表の人にまとめて発言してもらえて便利です。

<評価・創造>画像4

カリキュラムの最終段階である、評価・創造を目的としておこなわれる学習は、個人やグループでのまとめの課題、例えば、エッセイやプレゼンなどが多いと思います。文章による課題は、インターネット環境が整っていなくてもなんとかできますが、ビデオによるプレゼンだと難しいという学生もいるかもしれません。それを考慮した上で、いくつかの選択肢を学生に提示するというのもいいかもしれません。


少し難しくなってしまいましたが、オンライン授業を行っていたり、受けていたり、これからだという方にも、なにかしらヒントになるようなことが提供できていたら、うれしいです。

また、これらの方法はあくまで一例なので、他にもざまざまなやり方があると思います。みなさんのアイディアや取り組みの紹介も、楽しみにしています。

次回は、わたしがいま教えている授業のカリキュラムと工夫について、お話ししていきます。

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