見出し画像

防波堤 光る白波 夏休み

湿度は高いし、気温も高い。
ムシムシ、アツアツ。

早く梅雨明けしないかな、と思いながら汗ばむ服で通勤した今週。
仕事の疲れとクーラー冷えのせいか駅まで歩く体がとても重い。先週末に次男と行ったプールの遊び疲れも残ってるのかもしれない。

水曜日の朝

満員電車がホームに滑り込んでくると
はぁぁぁ~、と体中の空気が全部ため息に変わって出てきてしまった。いつもより電車が混んでいる。
波打ち際みたいに人の波がホームに溢れ、また電車の中に吸い込まれていく。

乗るしかない このビッグウェーブに

アップルストアに並ぶわけではないけれど、乗らないと遅刻するから乗るしかない。


僕が乗る駅は、ラッシュ時にホームが人で溢れかえる。一回でホーム上の乗客全員が乗れないこともしばしば。最高で3回乗れずに満員電車を見送ったことがある。
だから、座席前のつり革ゾーンという一等地には絶対たどり着けない。手前と向こうのドアの間、乗車率300%ゾーンで少しでも楽な場所をみつけなきゃいけない。途中、新幹線が止まる大きな駅で半分くらいの人が降りるけど、その駅までの十数分が一日で一番疲れる。

電車に乗ると、反対側のドア際にぽっかりと空く大人一人が悠々立てる隙間を見つけた。珍しいなと思いつつ、すぐさま体をくねらせて進む。あともう少し、という所まで来て隙間の理由が分かった。

自分の体ほど大きなリュックをしょった女の子がドアに背を向けて立っていた。年長さんか1年生くらいの、真っ白い帽子をかぶった小さな女の子。
きっと夏休みを利用してどこか遠くに出かけるのだろう。目の前の男性は、その子のお父さんのようだ。娘さんをラッシュの人波から守るため、お父さんは、つり革につかまり一生懸命に人波を押し返すテトラポッドだ。

よく見れば、女の子の両隣の男性達もテトラポットになっている。一人は窓の外を見ながら、一人はスマホを見ながら、ドアに手を押し当て自分の体を固定して、女の子のスペースを確保している。お父さんのすぐ後ろにいた僕も、少しでもお父さんに負担をかけまいと両足をふんばる。もしかしたら僕の両隣もそうだったかもしれない。白い帽子の女の子を中心に見えない防波堤が出来上がっていた。

女の子は、なにやら楽しげにお父さんに話しかけている。つり革につかまるお父さんの手は、プルプル震えて血管が浮き出てきた。

おい、てめえらっ
ここが踏ん張りどころだぞ
男みせろやっ!

一生に一度は大声で言ってみたいセリフ。
僕が勝手に仲間にしたテトラポッター達に向けて、心の中で呟きながら、僕は両足にさらに力を込めて人波を押し返した。

十数分後
やっと電車が駅に着いて、大きな人波が駅のフォームに流れ出す。お父さんに左手を引かれ、右手で白い帽子を押さえながら女の子が降りていく。もしかしたら、これから新幹線の楽しい旅が始まるのかもしれない。人波の中で白い帽子がキラキラ輝いていた。

車内が空いて、やっと体を自由に動かせるようになる。その日はラッキーなことに座ることができた。座った瞬間、どっと疲れが出る。会社に行く前に一日分のエネルギーを使ってしまったようだ。

向かいのサラリーマン達を見ると、潮が引いて波打ち際に残った木片や海藻のように、クタっと疲れた顔をしている。さっきの女の子とは正反対だ。僕も疲れきった顔をしていたに違いない。

夏休みは、子供たちが一番輝くとき
大人は一番疲れるとき


夏休みバテには気をつけたいですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?