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日本におけるフードデザイン|フードデザインをよりよく知るための本

はじめに

前回の記事に引き続き、「デザイン文脈におけるフードデザイン」について、よりよく知ることに役立つ書籍を紹介したいと思います。
 これまでは主に欧州で展開されていたフードデザインに注目してきましたが、今回は日本におけるフードデザインに焦点を当ててみます。


選書〈日本におけるフードデザイン〉

日本においては、家庭科の一科目としてフードデザインという言葉が使われています。
 この言葉が家庭科の内容に組み込まれたのは、平成10年(1998年)に告示され、平成15年(2003年)に施行された高等学校学習指導要領が初めてのようです。当時の学習目標は「栄養,食品,献立,調理,テーブルコーディネートなどに関する知識と技術を習得させ,食事を総合的にデザインする能力と態度を育てる」こととされました。
 それから幾度かの改正や追加などを経て、平成30年(2018年)発表の高等学校学習指導要領においては、「家庭の生活に関わる産業の見方・考え方を働かせ,栄養,食品,献立,調理,テーブルコーディネートなどについて実験・実習を通して,食生活を総合的にデザインするとともに食育を推進し,食生活の充実向上を担う職業人として必要な資質・能力を育成することを目指す」ことが目標とされました。産業や食育などの視点が加わり、より広い範囲の学習内容が求められるようになったことがわかります。
 より詳しく内容を見てみると、「食に関する価値観及びライフスタイルの多様化,食生活の環境への負荷など,多面的に食生活の現状を捉え思考を深め,食生活の充実向上を目指して自ら課題を発見すること」「食生活を総合的にデザインする力を活用し,家庭や地域の実情に合わせてより豊かな食生活を創造すること」などと説明されています。
 このことから、家庭科で目指されているフードデザインは、現状の食生活全般を問い直し、創造的解決策を探索するという、まさにデザインの応用的な教科だと言えるでしょう。
 家庭科はフードデザインのほかに、「食文化」や「調理」、「消費生活」、「ファッションデザイン」、などの科目で構成されているため、家庭科=フードデザインではありませんが、たしかに家庭科の一科目としてフードデザインが位置付けられていることが分かります。

他方、食文化研究を牽引してきた石毛直道氏は、1980年代以前は食に関する研究の多くは農学や調理学、生理学、栄養学、あるいは経済学に話題が集中しており、民俗学や心理学などの分野が語られてこなかったとして、食の文化の視点の重要性に光を当て、当時から食文化を切り口に学際的な研究をされています。その中で、食における芸術性にも言及し、芸術性の高い食事と生存のための食事を対比したり、料亭の料理を芸食とするならば家庭の日常食を民食とする考えを紹介しています。
 これらの文脈が日本におけるフードデザインです。断片的な作例やプロジェクトはありつつも、真っ直ぐにデザインの領域からフードデザインが展開されたという系譜はありません。だからこそ2024年4月から芸術大学でフードデザインに関するコースが開設されることは歴史的な意味を持ちます。
 フードデザインに関連する研究や実践がすでに数多く取り組まれてきた日本において、その豊富な知識や技術と、デザインのスキルや表現、思想が組み合わされることで、新たな道が開かれること期待しています。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、これから書籍の紹介をしていきます。

フードデザイン21

荒井綜一ほか
2002/05/22
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フードデザイン21

・論文集
・2000年前後の日本におけるフードデザインの位置だけが分かる
・フードビジネス、高齢者の食、感性工学、加工技術、廃棄物など多岐に渡る専門家による当時最先端の研究成果を掲載

「食」は、生理的意義を持つ縦糸と精神的意義を持つ横糸との織りなす「人間学」の原点である。

p.693

わが国における家庭での食の問題をどのように解決したらよいか、すなわち、これからのフードデザインの課題は、日本型ミールソリューションそのものである。

p.695

石下直道 食の文化を語る

石下直道
2009/04/02
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石下直道 食の文化を語る

・専門書
・日本の食文化/食事文化研究の第一人者
・学際的な学問として食文化を位置付けた

文化を理解しなくては、飢えている世界の現実に対処することも、またむつかしい

p.31

好奇心にもとづく悪食をあえておこなうことによって、人類は他の動物とはくらべものにならないほど多様な食料資源を開発してきた歴史をもつ

p.394

「闘争」としてのサービス 顧客インタラクションの研究

山内裕
2015/03/24
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「闘争」としてのサービス 顧客インタラクションの研究

・専門書
・緊張感のある鮨屋や、メニューの読めない高級料理店のサービスを「闘争」を切り口に分析
・サービスの複雑さを読み解く

ファストフードは、鮨屋や料亭のような高級サービスから、付加価値を差し引いたものではない。ファストフード自体は、ファストフードとして構築されなければならない。

p.74

鮨屋や料理屋の緊張感は作り上げられたものであり、それが伝統的で正当であるという理由はなく、そのように見えるように作り上げられている

p.146

フードデザイン 新訂版

江原絢子ほか
2018/01/25
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フードデザイン 新訂版

・高校家庭科の教科書

1章 食生活と健康、2章 栄養素のはたらきと食事計画、3章 食品の特徴・表示・安全、4章 調理の基本、5章 料理様式とテーブルコーディネート、6章 フードデザイン実習、7章 食育

pp.2-3

食育とは、「『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる」ことである。

p.234

フードデザイン cooking&arrangem

石井克枝ほか
2018/02/05
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フードデザイン cooking&arrangem

・高校家庭科の教科書

第1章 健康と食生活、第2章 栄養素・食品の特徴、第3章 調理と献立、第4章 調理実習、第5章 豊かな食生活をつくる

pp.2-3

人生を健康に過ごすためには、自分の好きなものだけを飲食するのではなく自分に必要な適正な栄養素量を知り、現状の食生活を見直す必要がある。

p.20

フードデザイン 未来の食を探るデザインリサーチ

緒方胤浩/水野大二郎
2022/07/21
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フードデザイン 未来の食を探るデザインリサーチ

・専門書、事例集
・デザインの文脈で発展してきたフードデザインを、サービスデザインやヒューマンフードインタラクションの分野と絡めて説明
・食の未来シナリオ作成やプロトタイピングの手法を解説
・オートエスノグラフィ調査を援用したデザインリサーチを事例として紹介

食をどのように変化させるか、あるいは変えずに保存するか、それともこの時代においていくのか—

p.9

デザインした食べ物を口にしてもらえなければ、未来の食をともに考えるに至らない。

p.185

以上、簡単ではありましたが、日本におけるフードデザインに関する書籍を紹介しました。もう少し関連性を広げるともっと多くの書籍が該当すると思いますが、今回はテーマに対して中心的なものと、個人的に重要だと思うものを取り上げてみました。
 次回は少し視点を変えて、研究分野でどのようなことが行われているかを知れる書籍を紹介してみたいと思います。

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(上でも紹介しましたが、)こうした内容を『フードデザイン:未来の食を探るデザインリサーチ』(BNN、2022)の中でも取り扱っています。この分野の変遷や周辺領域との関連性などを時間軸に沿ってまとめましたので、よろしければそちらもご覧ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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本記事中で引用した文献はDeepLを用いて翻訳し、ChatGPTを用いて修正したものとなります。致命的な誤訳等ございましたら、ご指摘いただけると幸いです。また、記事は執筆時点での情報をもとに書いたため、最新情報であるとは限らないことをご承知ください。さらに、本記事の内容は私見によるものであり、必ずしも所属企業の立場や戦略、意見を代表するものではありません。

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