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126 難関の障害物

 生徒会班と九剣騎士班の二班は協力の元、2つ目の障害物まで順調に通過していった。
 
 最初の平地エリアの障害物である落とし穴では衝撃的な通過方法をディアナが提案していた。
 最速で全員が落とし穴地帯を抜け切る為に一人ずつ順番に彼女の持つ特級武器、紅槍ブレイズシュトリーラの穂先に乗せディアナが上空へぶん投げて越えさせるという力技の方法だった。
 左右から飛んでくる石もないほどの高度から飛び越えれば楽に越えられるだろうというディアナの見立てである。
 
 手段としてその方法を成立させるには投擲者とうてきしゃに力があることが求められるが自分ならば問題ないと彼女は言い放った。
 ディアナに追随し大双刃斧を持つスカーレットも同じ方法が出来そうだと志願し、投擲者とうてきしゃに申し出る。

 二人でやればより早いとスカーレットはディアナへ進言し、二人で残りの班のメンバー達を向こう側へと各々の武器に乗せて投げ飛ばす事になった。

「あの、ディアナ様。俺も大丈夫なんでしょうか? なんなら俺は普通に自力で通過しますが」

 早速の作戦の開始となった時、身体の大きなガレオンがおずおずとディアナへ問うと彼女にキョトンとした顔をされる。

「あら、確かに君はとても立派な体躯だものね。けど心配はないわ。私を誰だと思っているのかしら?」

 ガレオンはこの後、九剣騎士シュバルトナインへと掛けた自分の言葉を恥じた。目の前の人物は学園の生徒である自分たちとは既に立つ領域が異なるのだ。
 国の中でも最高位の騎士の一人。そのような心配など無用とばかりにディアナは不敵な笑みを浮かべる。

 穂先へと立つガレオンは自分が乗ったまま軽々と槍を片手で持ち上げるディアナの膂力に驚愕の表情を浮かべる。

(マジかよ。俺を載せてこんなに軽々と、しかも全くブレがない。これが九剣騎士シュバルトナインってやつなのか。これが……)

 次の瞬間にはディアナは槍を両手に持って構え、そのまま上空へとガレオンをぶん投げるように槍を振り切った。
 その勢いのままに飛翔したガレオンは落とし穴エリアの向こう側へと着地し自分が飛ばされた方へと振り向いた。
 見るとこの距離を自分の身体が宙を舞ったと実感が沸かないほどの距離を飛び越えていた。

 隣からじゃりりと足音が聞こえアイギスは遠く九剣騎士シュバルトナインの姿を憧憬の眼差しで見つめる。

「すげぇ、お前みたいなデカい奴をこんな軽々とかよ……ディアナの姉御、かっけぇな。一目見ればほとんど何でも出来ると思ってたはずなんだけどナ、こりゃあいくらなんでもアタシでもすぐには真似できねぇぜ」

 先にスカーレットに投げられていたアイギスが楽しそうに目を輝かせていた。
 自分でも気が付かないうちにディアナを姉御と呼んでいた彼女は、今の自分の力があのディアナに通じるのだろうか? と震えながら手を握りこんで滾り溢れ出そうとするその興奮と興味を抑え込んでいた。
 
 生徒会の中では武闘派と呼ばれ、その力に絶大な自信を持っていたガレオンとアイギス。自分達が今のディアナと同じことが出来るとは到底思えなかった。

 しかし、ふとディアナの隣にいる生徒会の同じ仲間である一人の姿を見て、更に昂る気持ちを抑えきれなくなりそうだった。

 視線の先にはスカーレットがエナリアを斧の上に載せて全力で上空へと投げ上げるように構えた斧を振った。
 エナリアは風を切って弧を描きながら落とし穴のある場所を越えて目の前へと着地した。
 パンパンと軽くスカートの土埃をはたき、笑みを浮かべた。

 ガレオンとアイギスは揃って身震いと高揚を同時に味わった。

「見たかアイギス。スカーレットのやつも、九剣騎士シュバルトナインと同じような事をこなしている。いつの間にあんな力を」

 アイギスも先ほど自分が投げられた時の事を思い返す。確かにガレオンと比べると身体の大きくない者の投擲を担当しているスカーレットだが、ディアナと同じように何の不安もなく落とし穴を越えられた。

「へへ、あいつ躊躇なく俺様も斧に乗せてぶん投げやがったからな。生徒会に来るときにエナリアが言ってたことも、なまじ嘘じゃなくなってきやがったのかもな。力だけならもうアイツは九剣騎士シュバルトナイン並みかもしれねぇってことじゃねぇか」

 瞬きをする間にアイギスは自分が生徒会に入る事になった時の事が脳裏をよぎりニヤリと心底面白そうに笑う。

「今のあいつと本気でやったらまぁまぁ面白い事になりそうだよな」

 ガレオンとアイギス、二人の瞳に映るスカーレットからは学生であるというような印象は既になく、並んだディアナにも引けを取らない程にその佇まいは騎士そのものに見えた。

 ディアナとスカーレットの二人が班の全員を落とし穴エリアの障害物の向こう側まで次々と投げ飛ばしていく。

 最後にディアナがスカーレットを穂先に乗せたかと思うと、ふっと柔らかく微笑んだ。

「スカーレット、精進しているようね。以前は正規の騎士になってから会いましょうなんて手紙を書いたものだから、こうして会うのは正直少し気恥ずかしさはあったけど。心持ちも力量も今すぐに騎士となっても十分に通用する。そう感じるわ」

 スカーレットは気恥ずかしそうな顔を一瞬浮かべたもののすぐに表情を引き締め直した。

「ディアナねぇ……ディアナ様。当然です。私は、なるべき私になる事を決めましたから」

「ふふ、いい顔ね。じゃぁ、さっさと決勝にいってもう一度、勝負しましょう。貴女があれほど言う生徒会の他の子達の力とやらに私も興味があるもの」

 スカーレットはその言葉にどぎまぎしながらも仲間達に強い信頼を置いているのであろう。強い眼差しでディアナを見つめ返す。

「はい、必ず驚かせてみせます」

「さ、次は貴女の番。行くわよ! しっかり空中で姿勢制御を取りなさい!」

 そういうとディアナはスカーレットを天高くぶん投げたかと思うと、その直後、今度は紅槍ブレイズシュトリーラを全力で投げやりのように投擲し、飛翔するその槍へと自らが器用に飛び乗った。

 校舎棟のエリアに映し出されるその様子は、見ている者達の熱気をどんどん上げていく。 
 落とし穴エリアを越えていく様子を見守る者達の前、校舎棟で水晶に映し出される光景。

 そして、この最初の障害物のエリアで手こずっている班の生徒達のみならず更には教師までもが全員、九剣騎士シュバルトナイン五の剣セイバーファイブディアナ・シュテルゲンが持つ炎槍爆突の制圧者えんそうばくとつのせいあつしゃという二つ名の意味を理解し、この国の騎士の頂にいるうちの一人の力というものを目の当たりにするのだった。

「さて、と、ま、こんなモノかしらね」

 乗っていた槍から飛び降りながら柄を掴みクルクルと槍を取り回して構え直すと校舎棟では大歓声が起き地鳴りのようなその響きが拡がっていく。

 障害物戦闘競争オブスタクルバトルレースは想像以上の盛り上がりを見せつつあった。

 2つ目のエリアとなる山林エリアでは障害物となったのは薪割り。
 ここでも再び生徒会のスカーレットが活躍する。綺麗に割るには繊細な作業で思いのほか難易度が高い。
 エナリアはマイペースに割り続ける中、大雑把なガレオンやアイギスには苦手なようで薪が破壊されてしまいカウントされない為、得意なスカーレットと、エナリアに一任し二人は薪をセットするサポートに徹した。
 
 普段から大双刃斧を振るうことで体力を使う事、そして手斧の扱いに慣れているスカーレットは「懐かしい、実家では寒期が来る前にはいつも私がやっていたんだ」と呟く。

気が付けば早々に規定の量を割り切っていた。

 エルもなんとかアイギスとガレオンのサポートで既定の数を割り切っており、すぐに次のエリアへと向かうことが出来る態勢が整っていた。

「にしてもスカーレットちゃん、意外な特技よねぇ、すごいわぁ」
「ええ、素晴らしいわスカーレット」
「え、ふだりどもぉ、ぞんなほめねぇでぇくれろ、てっれちまうよぉ」

 エル、そして更には心底敬愛するエナリアの言葉に気を良くしたスカーレットは思わず地元言葉が出てしまうほど、にやけてくねくねしてしまっていたがディアナの姿が視界に入りすぐに表情を引き締め直していた。

 そして、この障害物において九剣騎士班は生徒会班よりも更に早くに終了していた。

 リーリエは寝ころんで鼻をほじくりながら、いつの間にか薪の山が出来ており、ディアナもスカーレットと同じく手慣れた様子で薪を次々と割っている。
 更にはシュレイドも山での暮らしが長かったことで、こうした作業は朝飯前とばかりに手斧を使い、次々と割っていく。

 物が相手であれば刃のあるものを扱う事自体はもうほとんど問題がないように見えた。

 こうして順調に先頭を目指す生徒会班と九剣騎士班。
 更に進んでいくと徐々にひんやりした風が頬を撫でてくる。 
 次の河川敷エリアへとたどり着くとそのエリアが難所である事が一目ですぐに分かった。

 同時に徐々に意識的に耳に入ってくるのは水の流れる音。 
 ザァ~っと飛沫を上げる音と共に、じゃぶじゃぶと石に当たって泡立つ音も聞こえてくる。

「徐々に前に追いついたと思いきや、多くの生徒達がここに残っておりますわね」

 エナリアの言葉に辺りを見回すと、かなりの班がここで躓いていしまっている。一体このエリアの障害物とは何なのだろうかとチェックポイントの立札を覗き見てその理由をエナリアは理解した。

「なるほど、な。こりゃ全員で越えるのはそろそろきついかもな」

 ガレオンの見立ては正しい。場合によってはこれまでで一番命の危険があり得る障害物、目の前の川の流れだ。
 決して急ではないものの、これはおそらく川下から川上へと行軍する時を想定しているようなシチュエーションを想定した障害なのだろう。

 登り切った先にある山道から先が次のエリア。

 泳ぐには浅く、歩くには深い。そして、監視の教師の数がこれまでよりも多い事も視線を周囲へ流すと見受けられる。
 ということはここで多くの班を脱落させるつもりがあるということだろう。

 事実、川下にあたるこの付近では息を切らして休んでいる者、何度もアタックしたのか地面を殴りつけて悔しがっている者や大の字になって寝転がっている者も多くいた。
 
 そんな中で既にこの難所を越えた班も幾つかあるらしく、このエリアから進めない者達にはその焦りも漂っている。

「ディアナくぅん、これは落とし穴の時のようにリーリちゃん達をぶん投げるのは難しいのかにゃ?」

 問われたディアナは視線を足元に向け、自身の脚を踏み鳴らした。ジャリッとした音と踏み込んだ足の感覚を確認すると川上を見つめた後、リーリエの答えた。
 
「そうですね。足元が砂利で踏ん張りにくい上に距離だけでなく高低差があるので。途中までは投げられてもあの流れでは着水後にそれぞれが先へ進めるのかどうかも分からないわ」

「ということは、この障害物だけは各自で地道に越えるしかないという事ですのね。ならば体力があるうちに全員で一気に……」

 エナリアが覚悟を決めようとしているとシュレイドが立札と川の様子を見つめ呟く。

「なるほど」

「どうしましたのシュレイド?」

「ああ、この急流を登り切れと書いてあるだけで方法に指定がないなと」

「?」

「水の中に入らなくてもいいなら割と簡単です。これ」

「シュレぴっぴ、どういうことかにゃ?」

「えーと、川の中を見てください」

 全員が見つめると川の中には流されたものが掴まる用だろう杭が幾つも打ち込まれている。川上に行けば行くほど本数が多くなっている。

「……あ、にゃーるほろ」

「そういうことね」

 リーリエとディアナが納得したように頷く。

「ええと、シュレイド君? 説明してもらえる?」

 促すディアナの言葉にコクリと頷いたシュレイドは生徒会班の注目を集める。

「おそらく生徒会の皆さんの身体能力なら問題ないかと、見ててください」

 シュレイドはそう言って流れる川へと視線を向け楽しそうに口元に笑みを浮かべた。




つづく

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