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125 猛追と乱入班

 先頭集団が丁度、二つ目の山林のエリアのチェックポイントとなる障害物を越えた所だった。
 生徒達を遠巻きに監視している各エリアの先生達にはカレンから事前にスタート地点で見せた水晶と同じものが持たされている。
 その道具の効果で、各場所からの様子が校舎棟の者達へと届けられ空中に映し出されており、その様子を生徒達は食い入るように見つめていた。

「あーーーなんでこんな楽しそうなイベントの申し込みを忘れるかねぇ! このバカ! バカバカ、」
「えええ、僕のせい? そりゃないよ~」
「なぁ、順位とか関係なくただあいつらと同じコースを走るだけでも楽しそうじゃね? 戦闘は流石にしたら怒られそうだけど、走るだけならいいんじゃね」
「「たしかにー、それはありーーーーー!!!!! 」」
「え、いっちゃう?」
「「いっちゃえーー!!」」

 校舎棟から空中に映し出された映像にうずうずしている生徒が多い中で、参加マークを持たない三人組の人影は勢い勇んで教室の窓から颯爽と飛び出してスタートの位置から勝手に走っていった。
 学園内で少々名が知られているらしい彼らに気付いた生徒達の声援が飛ぶ。
「おい、まじか、あのシュトリカスリーが乱入してったぞ!!」
「うそだろ、でも、いいのかそれ?」
「まぁ面白そうだしいいんじゃね?」

 カレンはチラリと横目に三人の様子を眺めていたが、気付かないふりをした。
 いつものならば注意をすべきだが、今は双校祭の真っ最中。
 生徒が各々で楽しもうとしている状況に水を差すでもないと判断していた。参加しても順位を付けられないというだけで参加自体にはなんら問題はないだろうという考えだ。

 ちょこまかと走る三人組はあっという間に校舎棟のエリアから見えなくなった。
 
 
 障害物戦闘競争オブスタクルバトルレースの最初の平地のエリアでは落とし穴を避けながら前へ進むというシンプルながらも緊張感を伴う障害物が待ち受けていた。

 シルバ達は先頭を走るシスティアの出す指示により一つの落とし穴にも邪魔されずにトップ通過で山林エリアへと突入して、第二の関門である薪割りをも易々と越えていく。
 クラウスとシスティアが薪を用意して、シルバとバイソンが薪を割るという滑らかなコンビネーションでスムーズに既定の量をこなして、その先へと進んでいた。

「よし、後続の姿はほとんど見えなく位には引き離したな」
「だども油断は禁物だで」
「バイソンの言うとおりだ。シルバ。君は詰めが甘そうだからな」
「んだとクラウス! お前だって詰めが悪いから生徒会の座をエナリアに奪取されたんだろうが」
「なんだと!? あれはだね!!」
「やめなさい二人とも。今はただ前を最速で進み続けるだけでいいというのに、つまらない口喧嘩などしている暇はないでしょう?」

 システィアの正論にシルバとバイソンは口を紡ぐ、このイベントで勝つことは彼らにとっても大きな意義がある。
 それを彼らは理解していた。

 お互いにそれっきり口を閉ざして、次の河川敷のエリアへと突入していった。

 

「これが第一のチェックポイント?」

 ようやくエナリア達が最初の平地のチェックポイントに辿り着くと後方の集団であろう幾つかの班が落とし穴の前に苦戦していた。
 慎重に地面に伏せて確認しながら進む者や、予測を立ててゆっくりと一歩ずつ進む者などその対応は様々だ。
 幸いなことに最後尾になったことで既に半数以上の落とし穴の位置が判明しておりこのエリアの危険度は下がっていた。

「後方の班がこれだけ苦戦していると言うことは前半の班が落とし穴をほとんど回避して進んだという事が考えられるわね?」

 エナリアは目の前の様子に違和感を持っていた。

 通常、落とし穴のエリアを先に越えた者の足跡と同じルートを辿れば済むだけの対策で通用するくらいのなんてことはない障害物だ。

 勿論、先行をすればするほどに沢山の落とし穴が健在であるため不利となる障害物ではあるが、後から来る者達はこの障害物に関しては前述の方法で何も問題もなく越えられるはずだった。

 この後のエリアで追い付けばいい。ここはまだ最初の障害物。

 だが、その時、エルが何かに気付いた。

「なるほどね。両側から投石も飛んでくるのねぇ~、戦場で飛んでくる弓矢に見立てているということなのかしら」

 足元の地面の落とし穴ばかりに注目していたエナリアはエルの言葉に視線を上げる。

「ほう、チミは良い眼をしているんだにゃ」

 リーリエはそう言いながらエルの傍に来て顔を覗き込んでポツリと小声で呟いた。

「……ほぉぅえ? めずらすぃ。それってさ、魔眼じゃね?」
 
「!?……一体なんの事でしょうかぁ? 」

 エルはぎょっとして思わずリーリエから目を逸らした。他の生徒会の仲間には幸い聞かれてはいないようだ。
 九剣騎士シュバルトナインというのはまさか魔眼の存在を知っているというのだろうか?
 目の前のリーリエをどうするべきか思考を巡らせようとすると彼女はそっぽを向いて落とし穴のある方へと向かいながら指先で口元に×を作った。

「はは、安心したまへボキュボンちゃん。だぇれにも言わないから。人間だれしも秘密の一つや二つはあるもんだからにゃ、リーリちゃん。乙女の秘密は守りんぐ」

 値踏みするようにリーリエを睥睨するエルは相手の腹の内を探るように質問を返す。

「あら、でしたらリーリエ様はどんな秘密をお持ちなのでしょうかぁ?」

「ほっほ、よくぞ聞いて驚いてくれたもうた。リーリちゃん枕が変わると気持ちよく寝むれない体質」

 その回答を聞いた瞬間にエルは警戒を解いた。九剣騎士シュバルトナインという存在に会うのは初めてで、まさか自分の持つ力に気付けるような者が居るなどとは露ほどにも思っていなかった。

 しかし、今の彼女の様子を見る限りこのリーリエに知られた所で何も問題はなさそうだと思える。
 
 今は彼女の言葉を信じるしかない。それに彼女程度の気配しかない人物ならばいざとなれば自分の魔眼でそれこそ魅了してしまえばいい。

 本当にこの人は九剣騎士シュバルトナインなのだろうかとエルも疑問が消えない。
 存在のプレッシャーという点では生徒会の仲間達の方がよっぽど高いようにすら思える。
 そう感じた途端、少なくとも魔女オスタラの討伐を果たしたもう一人の九剣騎士シュバルトナインディアナにさえこの事実を知られなけらばどうにでもなるはずだと落ち着いて深呼吸をした。
 
 魔眼は魔女の資質を持つ者に発現する力だとエルは教えられたことがある。
 つまり、魔女に関わりがあるというだけで自分自身が国の騎士にマークされる可能性、そして与えられている作戦遂行において行動の危険性が上がってしまう。

 学園内にいる限りは知られたとしてもすぐには手を出されることはないかもしれないが、そうなってしまえば学園内で動きにくくなることは避けられない。

「エル、大丈夫?」

 エルの様子に気付いたエナリアが声を掛けてくるが、エルはただ一言。

「ええ、問題ないわ」

 とエナリアに応え、落とし穴を眺めているリーリエの背中を見つめて思案し続けていた。



つづく

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