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EPISODE 01 プロローグ




八の物語、散らばる星たちを繋ぐ者。



 彼女を含め、今、六人はみんなで円になって手を繋ぐ。

 彼女の右隣にはソフィ、そして左側にはヤチヨ。

 サロスやヒナタ、フィリアとも彼女は視線を交わした。

 みんなで決めた事だと言うのに、彼女、コニスは少し不安な気持ちが募る。
 それはコニスにとって、昔のようにイヤイヤなものではなく……少しばかり、モヤモヤしたものであった。
 こういうときは一人で考えるより、誰かに話した方が良いことを以前ヤチヨに教えてもらっていた。
 コニスは勇気を持ってソフィに自分の今の気持ちを打ち明けることを決める。

「本当に良いのですか? ソフィ」




六の物語、小さな覚悟を決める者。




 コニスがそう確認すると、ソフィは大きく首を縦に振った。
 それは何よりコニスが望んだ後押しとなる答えだった。

「うん、良いんだ。コニス」

 そう言って、ソフィはコニスの手をギュッと握った。
 自分だけではない、自分と同じくコニスの鼓動も大きくなっているのをソフィは繋いだ手のひらから感じていた。
 何が起きようとこの手を離さないと誓い、繋いだ手に力を込めた。
 
 




五の物語、全てを守ろうとした者。




「ヒナタ……」
 ふとフィリアが顔を上げると、ヒナタがいつもの笑顔をフィリアに向けて浮かべた。
 固く握った手からヒナタの温もりがフィリアに伝わってくる。

 その笑顔と温もりによって、フィリアの憂いは一気に吹き飛んだような、そんな気がした。
 長く苦しんだ時間は全てこの時の為だったのかもしれない。

 最後にはやっぱり、皆が自分には必要だった。

 ずっと守ろうとした。

 でも、守られていたのは自分だった事に気付いた男にもう一切の迷いはなかった。




一の物語、大切な約束を忘れなかった者。




「大丈夫。私、信じているからあなたを、みんなを」

 自分が言ったことではあるが、正直、不安がないかと言えば嘘になる。
 でも今のヒナタにはフィリアがいる。それだけではない。

 ここにはヤチヨもサロスもいる。

 今はまた皆が一緒に居る。そのことがヒナタに力を与えていた。

 大丈夫。きっと上手くいく。ヒナタはそう確かに確信していた。

 あの頃のひとりぼっちはもういない。

 そして、自分以外の何者かになろうとした自分ももういない。
 みんなと共に過ごすなかで自分でい続けられる強さを得ることができた。他の誰でもない自分にしかできない役割。

 こうしてみんなの輪の中に居られることが何よりも嬉しかった。





 
二の物語、運命を世界に捧げた者。





「サロス……」

 ヤチヨがふとサロスの表情を見ると、サロスはいつものようにヤチヨに向けてニカっと笑っていた。

 サロスがいる、ヒナタもフィリアもソフィもコニスだってここにいる。
 その事実はこの上なくヤチヨにとって心強いものだった。

 目の前に拡がる明るい未来をヤチヨは心から信じることが出来る。

 きっと大丈夫。

 多くの選人達の想いの果てに辿り着いた結末。

 ここに辿り着くまでの事が瞳を閉じると脳裏をよぎっていく。

 自分一人ではここまで強くなれることはなかった。

 目標となる人がいたからこそここまで来ることができたのだと……。

 ヤチヨは強い意思で目を見開き、サロスへと笑顔を向けた。





三の物語、全てを救おうとした者。





「ヤチヨ。 俺たちなら大丈夫だ。きっとなんとかなる!!」

 いつも前向きなはずだった彼、そんな男は自分自身、もうダメだと……お終いだと……そう思ってしまった時もあった。

 誰も知らない真実が彼には隠されていた。

 そんなサロスをヤチヨが……フィリアが……ヒナタが……絶望に染まってしまった彼の心を再び助けてくれた。

 彼は改めて二度とくじけないと強く心に誓った。二度と絶望しないと。

 自身が誰であれ、どんな存在であれ、今ここにいるみんながいれば本当の自分を受け止めることが出来る。

 そして……今、目の前にはソフィとコニスの姿も映り込む。

 新たに加わったこの二人の存在も今や彼の心にとって最強を通り越して最強の最強と思えるような仲間になっていたのだ。

 なんとかなる。それは大きな壁を乗り越えたサロスだからこそ言えた心からの言葉であった。





空白の物語、それは今も静かに幕が上がるのを待っている。





「うんっ! そうだよね!! 準備はいい? コニスちゃん?」
「…え?」

 ヤチヨの問いかけにコニスは思わず小さく驚いた。思っている以上に緊張している自分に気が付いた。
 そんなコニスの気持ちを察したのか、さきほどまでは元気よく訪ねたヤチヨが今度はゆっくりと落ちついた優しい声でコニスに語りかけた。

「不安……だよね」
「はい……」
「正直、怖いよね」
「……はい」
「うん……でもね、信じて欲しい。きっと上手くいくって」
「……ヤチヨさん……」
「大丈夫。きっと上手くいく。あたしたちはずっと一緒にいられる。そう、コニスちゃんも信じて。未来は怖いものじゃない、って!!」
「……はい。ヤチヨさん。ワタシ信じます! もう大丈夫ですっ!!」

 隣のコニスとヤチヨもニッコリと目を合わせ微笑む。

「うんっ! じゃあ、みんな行くよ!!」

 ヤチヨのひと声でみんなの手から緊張した空気が一気に伝わり。
 二人の少女の心には言葉とは裏腹に迷いが生じた。

 コニスの胸は大きくトクトクと音を刻んでいた。コニスはゆっくりともう一度横にいるソフィの顔を確認する。
 そんなコニスに向けてソフィはコニスに微笑みを向け続けてくれている。
 その笑顔でコニスは最後の迷いを消すことが出来た。

「……」
 
 ヤチヨは自分を責めていた。
 自分が決め、コニスにも励ましの言葉をかけたはずなのに、まだどこかで迷ってしまっている自分に対してダメだと思っていた。
 自分が考えていることが、本当にサロスとコニスにとって良いことなのか?……と
 
「ヤチヨ大丈夫。私たちはここにいるわ」
「……ヒナタ……」

 そんなヤチヨの迷いを察してか、ヒナタがいつものように目の前から明るく声をかける。
 直接繋いでいないその手、ヒナタのその温もりはしっかりとヤチヨの心を包むように届いている。

「何があっても、僕達はもう二度とバラバラになることなんてない」
「フィリア……」
「ボクたちならきっと必ず上手くいきますっ!」
「ソフィ……」
「ワタシ……信じます。ヤチヨさんを……皆さんを」
「コニスちゃん……」
「さぁ、ヤチヨ!! 頼んだぜ」

 サロスのその一言をきっかけに、ヤチヨは大きく息を吸い込んでそのままを大声で叫ぶ。

「せーのーーーーー!!!」
 
 その声をきっかけにみんなは一斉に天高く手を大きく上げた。

 この瞬間がおとずれるまでの時間。

 永遠にも感じられるその時間。

 天蓋の終わりは着実に近づいていく。




 

 七の物語。自分以外の者達の幸せを願った者。





 
 悲しい結末を世界は……神は……決して認めることはなかった。

 いや、神などと呼ぶにはあまりも小さく、そして優しすぎた。

 悪魔と自分を呼ぶものは皆、等しく愛に満ち溢れていた。

 その愛を彼女らにヤチヨは教えてもらい、そして同時に教えてもいた。

 彼女がたどり着いた愛し方の形。

 形のない異なるその想いと願いの力はこれから愛するものたちをも護り続けるだろう。





四の物語。最後まで諦めなかった者。





 それは決して語られることのない存在。
 でも、そこには彼女の足跡も確かに存在していた。
 
 消えたはずの存在は、似た想いを持つものたちの意思とどこかで巡り合い、文字通りの奇跡を呼び起こす。

 それはあったかも知れない可能性。観測することはもう出来ない。未来の形。

 それもまた誰かが誰かを強く想ったからこそ起こった事象。
 
 天に向けて手を高く上にあげた六人が同じ願いを持ったその時、大きな音を立て、今まで微動だにしなかった目の前の巨大な天秤がギギギと動き出す。

 どこからか彼らを祝福するような鐘の音がその場に響き渡っていく。

 その音と共に後ろから抱きしめられるような暖かさを感じる。

『ありがとう、みんな』

 そんな誰かの声が、聞こえてきたような気がした。

 その瞬間、長きに渡って続いていた時代が終わりを迎える。

 二つの世界が手を取り合うことで起こった本当の奇跡のような出来事。

 これから語られるのは、正に未来永劫語り継がれる新たな伝承……。

 かつて天蓋と呼ばれる場所がそこにはあった。
 
 語られる物語シナリオは、そんな天蓋に抗う運命を与えらえた
 
 彼ら、彼女たちが辿り着いた最後の物語メモリー




九の物語。




久遠の果てへと挑む者達。




つづく



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2024年1月17日 天蓋完結編遂にスタート!!
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(内容は同じですが若干記載形式が異なる場合があります)

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