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23 生徒会長の頼み

「さて、今日ここに来てもらったのは、折り入って貴方にお願いがございまして」
「へ? お願い?」

 シュレイドは怪訝な顔をして首を傾げる。
 エナリアが小さく息を吸って、ゆっくりと瞬きをした。瞼が上がった彼女の瞳が真っすぐにシュレイドを見据えた。

「単刀直入に言いますわシュレイド、貴方、生徒会に入って下さらない?」
「え、俺が? 生徒会に?」

 目を見開いて驚くシュレイドにエナリアは言葉を続ける。

「そう、次の東西戦に向けて東部の戦力は現在、大きく不足していますの。新入生の中で有力な生徒には早めに東部学園都市コスモシュトリカの主力となってもらわなければならない。その筆頭に、貴方に立ってもらいたいの」

 エナリアは正面からシュレイドを射抜くような真っすぐな視線を向け続ける。彼女の槍の軌道のようなその真っすぐな視線を今のシュレイドは受け止められないでいた。

「……それは、俺に英雄の孫として、東西戦ってやつの先頭に立って、西部の生徒を多く切ってころ…っ、、倒していけって、そういう事を求められているってことで間違いないか?」
「……そうね、端的に言うならばですが、そういう事になると思いますわ」
「なら悪いんだけど、断る」

 シュレイドは考える時間も取らずに即答する。エナリアの隣にいたガレオンが思わずシュレイドに詰め寄ろうとした。

 エナリアは落ち着いた様子で彼を目で制止し、言葉を返す。

「よろしければ、理由を聞いても?」
「俺は人を切る為にここに来たわけじゃないからだ」
「そう。ならもう一つ質問を。貴方は何のためにこの学園へいらしたの?」
「それは……」

 シュレイドは言い淀む、それを話すにはここに来るまでのいきさつを話さなくてはならないし、自分の心の内をも話すことにもなる。どう返答するべきか悩んでいると更にガレオンからも声が飛ぶ。

「お前はここにきて騎士を目指しているんじゃないのか? 祖父のような偉大な騎士になる為に」
「……わかりません。目指すものなんか、何も」
「……やはり、そうだったのか。合点がいったぜ」

 ガレオンは呟くと一人納得した様子で目を瞑った。エナリアが少し思案した様子を見せた後に再び口を開いた。

「実は現在の東部学園都市コスモシュトリカは、国で言う所の内乱のような抗争状況が生まれているの」
「内乱?」
「ええ、色々な派閥がこの今のわたくしのいる生徒会長の座を狙っている。そういう状況ですわ」
「派閥?」
「そう、本来であればこんなことは起こらないのですけれど、わたくしが貴ぞ、、」
「エナリア会長」

 ガレオンが止めに入る。おそらく今の生徒会の内情を話すことにもなるからだろう。

「構わないわ。将来的な話はさておき、現在最重要なのは目下、東部の生徒達を一致団結させることですもの」
「確かに、そうですね。口を挟み失礼しました。出過ぎた真似を」
「貴方が考えているような点も十分に理解しておりますわ。気にしないで」

 エナリアは大きく一つ息を吐き、改めてシュレイドへ向けて話し始めた。

「私が生徒会長になってまだ実は月日が浅く、前回の東西戦で生まれた私の噂もあって今の東部はバラバラになってしまっておりますわ。このままでは次も西部に負けてしまうかもしれない。それだけはどうしても避けたいの。」

 何か事情があるのだろう。エナリアは机の上に出して組んでいる手を強く握りこんでいた。

「そんな時に貴方が入学するという話を聞いて、その力を見極めに私が先日、食堂で貴方を試したという訳よ」
「なんで、俺が生徒会に誘われるような状況になったんだ?」
「力が申し分ないほどに強かったからよ。そして貴方自身はよくは思わないでしょうけどあの救国の英雄グラノ・テラフォールの孫という肩書もある。これは今のバラバラの東部をまとめ上げる為に必要不可欠な要素だと思っているわ。貴方が生徒会に居ればみんな必ず、この生徒会についてきてくれる。一致団結できる」
「なるほど、必要なのは俺ではなく、その肩書、と」

 シュレイドは僅かに眉間にしわを寄せた。

「貴方には取り繕っても仕方ないでしょうから正直に言うと、そういうことよ。貴方自身がどう思おうが構わないわ。私がミルキーノ家という貴族として今の東部の不協和音を生んでしまっている事を払しょくするには同等かそれ以上の肩書が必要なのよ。東部の生徒達の団結のために力を貸してくれないかしら? シュレイド」
「俺は……」

 その時、背後にあるドアが開いて二人の人影が倒れ込んでくる。

「わっわわっ」
「きゃっ」

 扉が開いていたようで体重をかけて開いてしまったのだろう。見慣れた二人が室内になだれ込む。

「お、お前ら何やってんだ?」
「あああ、いやね~。たまたまとおりかかってぇ」
「そうなの~決して覗いていたわけじゃぁ」
「ふふふふっ」

 エナリアが小さく笑って二人を見た。

「先ほどからいるのは分かっていましたわ……ミレディア・エタニス。…とメルティナ・フローリア。貴方も居たのね」
「……フッ」

 おそらく隣に立つガレオンも気づいていたのだろう。微かに笑みを浮かべている。

「ええ、完全に気配を消してたつもりなのに――――」
 ミレディアが驚いた様子で頭を抱える。

「確かに一人の気配しかしなかったからな。二人いるとは驚いた」
ガレオンが感心したように二人を見つめて目を細めた。

「ミレディ、ごめんね。きっと私のせいだよね、気づかれたの」
「いや、しょうがないよ!!! どのみち室内に転がり込んじゃった訳だし!! しょうがない!!」
「ふふ、随分とおモテになりますのね。シュレイド」
「ええ? こいつらは別に、昔から腐れ縁なだけで」
「そういう事にしておきましょうか。ね、二人とも」
「「ちょぉおおおっ、会長さん!!」」

 二人がなぜか少し顔を赤らめている。

「いじわるしてごめんなさい」
「「あ、あははは」」

 エナリアは苦笑いを浮かべる2人にも声をかける。
「今は少しでも協力者が必要ですの。丁度いいわ。ミレディア・エタニス」
「え、あ、あ、はい」
「貴女にも声をかけるつもりでいましたから」
「えーと!!!! ごめんなさい!!!」
「へっ!??」

 ミレディアはいきなり大きな声で上半身を綺麗に曲げて頭を下げた。思わずエナリアは普段出さないような声と顔で驚いてしまう。

「盗み聞きしてたのはほんとごめんなさい!!」
「色々と手間が省けた、そう思っておくわ。で、理由を聞いてもよろしいかしら?」
「あーーそれは、その、ですね。あたし、昔からどうしても貴族ってのが好きになれなくて、ですね。まぁその、会長さんが悪いってわけじゃないんですけど、ごめんなさい」
「そう」

 エナリアは何かを察したのか、それ以上追及はしようとしなかった。

 目線だけ次にメルティナに向ける。彼女もそれを見て真っすぐにエナリアを見つめ、こう聞いた。


続く

作 新野創
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