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42 西部食堂戦?

「むっ!?」


 マキシマムは自分の手の甲で剣の軌道を逸らしながら瞠目する。先ほどのドラゴと比べて移動の速度は大して差はないがその剣筋、斬撃速度と無駄のない体捌きには目を見張るものがあった。

 かつて国の英雄、グラノ・テラフォールとの交流もあったマキシマム。昔、訓練を重ねていた自分の記憶の中にいる国の正規の剣使いの騎士達の平均的な動きの記憶。その者達と遜色のない剣速の早さ、鋭さに感心した。

「ほぅ、やるな」

 マキシマムは思わずニッと笑みを浮かべる。個の力でまさかこれほどの若者が入学しているとは思っていなかった。せいぜい先ほどのドラゴの強さがこの中で上位だろうと考えていたが、どうやら他にも力のある者が紛れ込んでいるらしいことを知った。しかし、それでもマキシマムの余裕は揺るがない。

 対して今の一撃によって相手の力量を見極めた長髪の少年は、僅かに「チッ」と舌打ちをする。目の前の男はまだまだ本気ではない事が分かり、今の自分ではその底を見る事が叶わぬと瞬時に悟り、静かに剣を引く。

「ん? もうよいのか?」

 マキシマムは笑みを浮かべながら声をかけるが彼は表情一つ崩さなかった。

「十分だ。お前の教えならばもっと俺は強くなれる確信が持てた。…先生。これからよろしく頼む」
「そうか。で、お前、名前は?」
「……ウェルジア」
「そうか、覚えておこう。ウェルジア」

 剣を鞘に納めてウェルジアは離れていく。その様子を周りで見ている者達もそれに続こうとするものはおらず、新入生歓迎の会として開かれたマキシマムの新入生たちへのもてなし(?)はこの後すぐに幕を閉じた。


「はぁ、よ、よかったぁ、あのものすごい先生と戦う事にならなくて、、、私、こんなところで本当にやっていけるのかなぁ…」

 ピンクのお団子を一つ頭に乗せたような髪型の生徒は一人ため息をつき空を仰いで半目になって硬直していた。



 ――――照りつける日差しが真上から降り注ぐ時間帯となり、学園内に大きなチャイムが鳴り響いて昼食の時間が訪れたことを知らせていく。

 西部学園の食堂は非常に広大で東部学園側とは違い非常に落ち着いた状況での昼食時間が訪れる。西部には東部よりも強固な個人ごとの序列のルールが存在する事もあり、このような場で新入生たちの力試しなどを行うような風習はなかった。

 その代わり学園内では常に序列の入れ替わりが起こるような決闘が日常茶飯事に起こっており、目まぐるしく日々、その序列は変化していく。

 そのような学園内において、ほぼ序列の動かない上位の実力者達も昼食に訪れていた。食堂の奥の一画のテーブルではその序列に位置する数名の生徒が食事をしていた。およそ学生の昼食とは思えないようなメニューがテーブルに並んでおり、どこかの高級なレストランかと見紛うほどである。

 骨付きのビビフ肉に絡みつく香り、湯気を立てる琥珀色のスープ、ふっくらとしたパンがテーブルの真ん中に積み上げられている。

「はぐはぐはぐ、もぐもぐもぐ、じゅるるるるるる」

 皿の上に山のように積み上げられたビビフ肉がすさまじい勢いで骨だけになっていく。食べるというより吸い込むような速度で器用に食べられる部分だけが剥ぎ取られていく。

「サブリナ。少し落ち着いてお食べなさい? 誰もあなたの分を取る事はないわ」

 銀髪の生徒が優しく微笑みながら声をかける。

「いや、はむあむ。…もぐもぐ、美味しいものは、はぐはぐ。その時に全力でむしゃむしゃ、、食べておかないとズズーッ…後悔、ゴクン、するかもしれないだわよ! ぷはー! うんままー!!!!! おかわりだわよーーーーーーー」

 そうした会話の間にも次々と骨の山は積みあがっていく。

「いえ、食べるのは自由で別に構わないのだけど、ゆっくり味わったらどうかしら? 時間はまだたっぷりあるのですから」

 気が付けば、一つの皿の上に既に置けなくなった骨の置き場は別の皿の上に移り変わっていた。

「…はぁ、ティルス様、食に関してコイツには何を言っても無駄ですよ。食欲が制服着て歩いているようなやつですから」

 ため息をつきながらズレた眼鏡を直し、呆れ顔の少年は銀髪の生徒をティルス様と呼ぶ。
 様という敬称を生徒間で使う事から鑑みて、生徒会のメンバーであることが察せられた。

「はぁ!? もぐもぐ、ちょっとリヴォニア? それ、はぐはぐ、聞き捨てジュルルル、、、ならないんだけどー、ムチャムチャ、ゴクン……んー!!!! あ!!!! わかったーーーーーーー」
「ちょっ、おま、喋りながら食べ、うわ、骨を投げるな」
「どうしたのサブリナ?」
「ようやくわかった!! 今日の食堂管理者は間違いなくマウロだわよ!!!! このスープの深みの中にある感動の世界!! 絶対間違いない!!」

 サブリナがテーブルをドンっと強く叩きながら立ち上がり咆哮を上げる。

「マウロ~~~~~~~~~~!!!!! ウマウロ~~~~~~~~~!!!!!!」

 その直後、隣のテーブルで食事をしていた少女が同じようにテーブルをドンっと強く叩いて立ち上がった。

「申し訳ございません。私達の友人がうるさくしてしまって」

 ティルスはその少女に向かって謝罪をした。が、彼女の身体はわなわなと震えていた。後ろ姿だけだが怒りに震えているであろう様子が後頭部に付いている異常に大きなリボンの揺れからも伝わってくる。

「今日の食堂担当はマウロじゃないわ!!!! このにわか食堂通!!!」

 その少女は大きなリボンと共にくるりと勢いよく振り向いて、サブリナに向かって啖呵を切った。

「へ?」

 ティルスはその大声と台詞に思わず普段は絶対にしないであろう表情で目を真ん丸にし、口をあんぐりと開けてその生徒を凝視した。

 その視線の先にはサブリナに劣らない、いや、上回るような骨の量が皿の上に積み上げられていた。


続く


作 新野創
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