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144 高まる疑惑

「お前達!! 一体何をしておるか!!」

 ドスドスと地面を踏み鳴らして駆けてきたのは西部学園都市で教師をしている男マキシマム・ライトその人であった。
 顔に布を巻いている男が構える姿を見て彼は一目でそれが誰なのかを看破する。

「ん? はぁ、お前は幾つになってもまったく……んん、生徒の手前、私情はいかんな」

 何やら言い直すように咳ばらいをして、生徒達と共にいる謎の人物に声を掛け直す。

「もう少し、九剣騎士としての自覚を持って学園内では行動をしていただけませんか? ヴェルゴ・ベインハルト殿」

 男は先ほどまでの口調がまるで嘘であったかのように落ち着いた空気を瞬時に纏い直していた。

「これは、マキシマム先生。ご無沙汰しております。勿論、自覚しておりますとも。であるからこそ彼らの未来の為に一肌脱いだのですから」

 そう言って顔に巻いてあった布をするすると外した。

「なんで視察に来てはった九剣騎士がこないなことするんや? は、通りでバケモンじみた強さな訳やな、せやけど……」

「バケモンとは手厳しい。私は九剣騎士としてこの国の未来を担う若者の力を自分の前で確かめ、そして、同時に目指すべきその頂を見せて差し上げようとしただけですよ」

 先ほどとは違い荒々しさのようなものは消え去り、そこにいるのは能面のようにうすら笑いを浮かべる優し気な男の姿があった。

「この人が九剣騎士の一人だって?」

 アストリアとゼフィンは自分が目指してきた九剣騎士という肩書を持つ目の前の騎士の振る舞いに動揺を隠せないでいる。
 先ほど自分達に襲い掛かってきた男と本当に同一人物なのだろうかと男を凝視する。

 その空気を切り裂くようにドラゴはヴェルゴの眼前に立ち、睨みつける。

「そんな奴が生徒に気軽に殺気を向けていいってのか?」
「ドラゴ!?」
「俺は肩書なんぞ気にはしねぇ。そもそも誰がどうとか気にしたこともねぇからな」

 ヴェルゴは嬉しそうに微笑む。

「冷静沈着なダイナ・べリアルドとは正反対の気質だな」
「親父を知っているのか?」
「この国の騎士で知らぬものはいないでしょう。とはいえ騎士になってすぐの頃には大変お世話になりましたから他の者よりも知っているとは思いますがね」

 この学園に来て授業でもその名を聞く事もあり、ドラゴは自分の父親の偉大さを日々、身をもって実感していた。
 子供の頃の自分の父親への生意気さを思い出すほどに恥ずかしさが込み上げる。
 その名が初めて会うこの九剣騎士から出ることにも驚いていた。

「4人とも剣を引け。ヴェルゴ……殿もよいですな?」

「ええ、マキシマム先生の頼みとあらば聞き入れるしかありませんな」
(はぁあ、これからが面白くなりそうだったのによォ。つまらん)

 ヴェルゴは言葉とは裏腹な表情でマキシマムを一瞬睨みつけるようにした後、ニコリと取ってつけたように笑みを浮かべた後、その場を去っていった。

「ありがとうございます」

 マキシマムはその場で去っていくヴェルゴに一例するもその目はその一瞬を見逃してはいなかった。

「……」

 マキシマムの脳裏によぎるのは自分の部下であった男の最後。そのかつての出来事から時間が経ち、調べを進めるうちにその同時期においてサンダールとヴェルゴが取っていた二人の不可解な行動へと徐々に繋がりつつあった。
 しかし、確証がどうしても取れない。

 今の騒動もマキシマムが目の前で気付けなければ、生徒の4人があの時のガンドリューのようになっていたかも知れないとマキシマムは肝を冷やした。

 かつての出来事はヴェルゴの仕業に違いない。
 今回の生徒への襲撃でその可能性はマキシマムの中で更に高まっていた。

 元部下ガンドリュー・ラウドをあの当時、一方的に蹂躙できる可能性があった実力者候補。
 記憶に残っているのは明らかに剣で切りつけられた致命傷となったであろう傷跡。
 当時、剣を扱えっていた九剣騎士はヴェルゴとリーリエのみ。

 当初は二人を疑っていたが、リーリエ・ネムリープは早々にマキシマムの中で白となっていた。

「チッ」

 ウェルジアとアストリアは同時に舌打ちをしてこの場を離れていく。

 ウェルジアはそのままの足でリリアの元へと向かった。

 何が起きたのか恐怖で未だに呑み込めない様子のリリアの肩は小刻みに震えて瞳には涙が浮かんでいた。


つづく


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