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151 会議室のヒボン先輩

「みんな、ありがとう! 僕の呼びかけにこうして集まってくれて」

 ヒボンが一同に会したメンバーを見回した。
 生徒へと自由に貸し出しされている会議室。
 その一室に集まっているのは、班戦闘を共にした面々であるヒボン、リリア、ネル、ドラゴ、そしてウェルジア。
 呼び出しの際にウェルジアの近くにいたプルーナ、ドラゴと共に訓練をしていたゼフィンの7名だった。
 リリアはセシリーの店からの帰り道にネルに遭遇し、そのままここへと連れて来られた。

 道中、リリアが積極的に話しかけるも反応の薄いネルとの間に沈黙しか生まれなかったのは別の話。

 また、こうして部屋に集められた面々は皆で一緒に何かをしそうな感じはまるでない集団であった。

「集まってもらったのは他でもない。リオルグ事変に関しての話と今後の相談があってね」

 ヒボンは柔和な表情で全員へと話しかける。

「リオルグ事変の? 今後の相談って? どうしてヒボン先輩が? それは国の騎士の方々が調査してくれているんじゃ?」

 リリアの頭には沢山の疑問が浮かび上がる。その質問は他の面々も気になっていたようで賛同するように頷いた。

「確かにリリアさんの言うとおり。ただ、少し、いや、とても気になっている事があってね。また、同じことが起こりそうな気がしてるんだ」

 ヒボンは少し真剣な表情で話し始める。

「それについては私も同意見」

 ネルが腕組みをしながら目を瞑ったまま一言呟いた。

「で、あの大混乱の中で、まだうやむやになっている事が幾つかあるだろう?」

 ヒボンが話を切り出す。まだ記憶に新しく誰もが怪訝な表情でヒボンに注目する。
 この中で一番会話スキルが高いであろうリリアが真剣な表情で問う。

「一部のエリアに居た生徒達が消えたことなどでしょうか?」
「それもある。でも一番気になるのは、僕たちが班戦闘で戦っていた相手のことだ」
「彼らがどうかしたんですか?」
「彼らの所在もあの後、不明なんだ」
「えっ」
「ネル君に調べてもらっていたんだけど、寮の部屋はそのままで忽然と姿を消している」
「そんな」
「結果としてあの時、誰がどの区域に居たかは関係なく、消えた生徒達は例外なく国に戦死認定されてしまっている」

 ここで初めてドラゴがぽかんとした口のままで室内の天井を仰いで口を開く。

「俺にはよくわかんねぇんだが、それがなんか問題あんのかヒボン先輩」

 コクリと頷いてすぐさま答えるヒボンの顔は真剣そのもので、ドラゴも口の端を引き締め直し姿勢を正した。

「ハッキリ先に言っておこう。僕はあの時、リオルグ事変の影で何か別の事も起きていたんじゃないかと思っているんだ」

 一同の空気の中に微かに妙な緊張感が漂い始める。

「別の事?」
「仮にそれが起きていたとしてどうだというんだ?」

 一人釈然としないままのウェルジアは疑問を口にする。

「ウェルジア、お話は最後まで聞いてから」

 プルーナがピシャリと一言叱るとウェルジアは即座に沈黙して動かなくなった。

「ヒボン先輩はそもそもどうしてそう思っているんですか?」

 これまで静かに聞いていたゼフィンが突拍子もないヒボンの予想は何に起因しているのかが気になっていた。

「似てるんだ」
「似ている?」

 ヒボンは昔を思い出すように全員へと語り掛ける。
 話を始めるとその話に主にリリアが相槌を打って進んでいく。

「そう、昔、僕の村に起きた出来事と、ね」
「ヒボン先輩の村?」
「ああ、僕の村は正直言って何にもない村だった。だけど」
「だけど?」
「神話に出てくるダンジョンと呼ばれていた場所の跡地が村の中には存在すると言われていたんだ」
「ダンジョン?? なんですかそれ??」
「何て言えばいいのかな? 分かりやすくいえばゴジェヌスが物語の中で居るとされていた場所っていうのかな?」
「ゴジェヌスが居た場所?」
「そう、まぁそんなものは迷信だとは村の皆も、僕も当然そう思っていたんだ」
「思っていた?」

 要領を得ないヒボンの話はなおも続いていく。

「村に急に山賊が現れた日があって」
「山賊?」

 益々、話の筋が分からなくなっていく中で各自が思考を巡らせる。

「だけど最初に言った通り、僕の村には何も目ぼしいものなんかないはずなんだ。山賊が狙うようなものは何もね。で、その日、僕はたまたま祖母と山に山菜取りに出ていて村に戻った時に、何人かの村人が消えていたんだ」

 ここでこれまでの話の共通点である人が消えたという話が出てくるが、それでもまだ話の先は見えない。

 リリアは青ざめた様子で呟く言葉にネルがサラリと被せる。
「山賊にその……」
「殺されたんじゃなくて?」
「ひぇ、ネルさん、、、」
「どう考えてもその流れでしょ?」
「その人たちは気が付いたらいなかったんだ。でも、ネルさんの言うとおり混乱の中でその居なくなった人たちは山賊達にやられてしまったんだろうと、うやむやにされた」

 この中で一番頭を使う事が苦手なドラゴが微かに苛立ちを滲ませる。

「その話と、今回のリオルグ事変とどんな関係があんだ?」

「僕が山に居た時、神話に出てくるそのダンジョンと呼ばれていたとされる場所の近くにたまたまいたんだ。そして見た」
「……見た?」
「お、おばけ??」
 リリアは更に青ざめるが思わずウェルジアまでもが指摘する。
「いや、そこは山賊の仲間じゃないか?」

「……村の仲間達」
「村が襲われている時に、居なくなったと言われていた人たち。村に戻る前に実は僕は彼らを見ているんだ」

 途端に空気が変わる。
 ようやく少しずつヒボンが言いたい事だけは見えてきていた。

「それで?」
「遠目だから良くは見えなかったんだけど、ダンジョンの中へと入っていった」
「ダンジョンの中に?」

 そこでネルがハッと思い出し口を挟む。

「ヒボン先輩。ダンジョンというのは洞窟の入り口のように自然にできている穴の事かしら?」
「そうだね。神話に出てくるゴジェヌスの巣の大半はそうであったはずだね」
「そのダンジョンというものなら、私の村にもあった気がするわ」
「ネルさんの村にも?」

 ネルがその直後からジッと何かを考えるように黙り込んでしまう。

(そういえば儀式の中で死んでいった子達はどうなっていた? お姉ちゃんの亡骸もあの後、そういえばどこかに。記憶が曖昧だわ)

「ネル」

 ウェルジアがその表情を見て思わず声を掛けた。

「大丈夫か? 顔が白いぞ」
「元々から白いわ」
「そうか」
「大丈夫よ。ありがとう」
「ああ」

 ネルは思い出した記憶をこの場の全員に共有するように話す。

「詳しくは話せないけど、私の村では、亡くなった人はどこかにいつも消えていた」
「消えていた?」
「ええ、そして、村の奥地にはおそらくヒボン先輩の言うそのダンジョンと呼ばれるような場所があった。私達の村では、祠と呼ばれていたけれど、おそらく同じもので間違いない」

 ヒボンもまた話を聞きながら思考を巡らせるが情報が足りなさすぎる。

「……で、その事象そのものに関して話をしたところではあるけど、今は考えてもどうにもならない事ではある。で、それが引っかかっていた僕はリオルグ事変の後にマルベイル渓谷の調査に行くことになった生徒会に同行をしたのだけど」

「あれ? その渓谷って確か……セシリーさんの話にも出てた気が」

 リリアがおぼろげながらその話を思い出す。

「……その調査でそのマルベイル渓谷にも洞窟の入り口が見つかった。僕の見立てではそれも、きっとダンジョンと神話で呼ばれていた場所に何か関係があると思うんだ」

 ヒボンは自身の見解の元で更に話を進めていくのだった。


 つづく

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