見出し画像

山口県で「みらいのしごと」について考えました—共創ワークショップ「みらいのしごと after 50」(1)

こんにちは、KOEL 田中友美子です。

コロナが落ち着いていた11月、地域のイノベーションで実績がある株式会社 リ・パブリックさんと、新しい表現や学びを探究し続けている山口情報芸術センター [YCAM]さんと一緒に、2日間のワークショップを共催しました。

デザインリサーチの案件も多いKOELとしては、「独自の視点を持っていたい」「外部の方、学生の方と一緒に探索をすることで視野を広げたい」などの想いがありました。そのことを、いつも新しい視点で驚かせてくれるリ・パブリックさんにご相談させていただく中で、共通の興味に「高齢化・人口減少」の文脈があり、その減少の先駆けと言われる山口県には尖った視点と市民と接点のある場を持っているYCAMさんがいる。そんな流れで、この楽しいコラボレーションが始まりました。

ワークショップのテーマは、「みらいのしごとAfter 50 〜50代以降の働き方、生き方を、地域で創造的に暮らす高齢者に学び、構想する〜」。日本の平均寿命は年々伸びており、今後100歳を超えていくと予想されています。この長寿化は人々の働き方にも変化をもたらすはずです。そんな未来の変化を探求することで、新たな提案を行っていきたい。そんな思いでこのテーマを設定しました。

ワークショップは、山口県山口市にある山口情報芸術センター[YCAM]にて開催されました。
1日目はフィールドワークを行い、地域で創造的に働いている3名の方にお話を伺いにいきました。
2日目は初日に集めた情報をもとに、みらいのしごとのあり方について発想を膨らませ、最終的に「みらいのしごと道具」をつくりました。未来では、誰が、どんなしごと道具を使っているのか考えることを通して、具体的なみらいのしごとのストーリーをつくっていきました。各チームで作ったユニークなしごと道具たちは、後ほど紹介するのでご期待ください。

またワークショップには、九州大学と山口大学から10名の学生と教員の方にご参加いただき、凝縮したスケジュールの中、みんなでわいわいと知恵を絞った2日間となりました。

KOEL公式noteではそのワークショップの準備や内容とその結果、またワークショップを実施する上での心構えなどを5回にわたってお届けします。今回の記事ではまずワークショップの2日間の様子をお届けします。

ワークショップ1日目:地域で創造的に働いている方に学ぶフィールドワーク

ワークショップの1日目は、フィールドワークを実施しました。

山口県山口市には、既に高齢化率:58.5%を記録し、先駆けて超高齢化社会に突入し、過疎の進む阿東地区というところがあります。今回は、阿東地区で創造的に暮らしていらっしゃる3名の方々を訪問し、それぞれが特徴的なしごとのあり方を実践している現場でお話を伺ってきました。

最初に訪問したのは、廃校になった地域の小学校を活用した図書館「阿東文庫」の代表をされている明日香さん。地域に開かれた自由な場「阿東文庫」では、廃棄される書籍や資料・民具等の収集保存を10年以上も続けていて、今では13万冊の蔵本をもつ「場」のもつチカラが感じられるところです。そして、明日香さんご自身も、本業のIT会社、家業の和菓子屋さん、複業の薪ストーブ屋さんと農業、事業として阿東文庫の運営に加え、Spedagiという竹製の自転車を通じて地域ごとに特徴的な資源を活かした文化を育成する活動をされている、パワフルな複業家です。複業をすることによって生まれる、セーフティーネットについて考えさせられました。

次に訪問したのは、地域で唯一のスーパーが撤退した後、その跡地に交流拠点として日用品店「ほほえみの郷トイトイ」を開き、地域の将来構想を提案している高田さん。移動販売車による地域内を巡回した買い物支援と見守り、様々な世代が交流する地域食堂、空き家のリノベーションなど様々な取り組みを通して、笑顔で安心して暮らせる地域づくりを目指しているお話を伺いました。高田さんの地域の人々を巻き込む力、土地にあった規模感の本当に必要とされているサービスの構築など、持続可能な地域運営についての示唆が得られました。

最後に訪問したのは、まるで「村の鍛冶屋さんのような」小商いのスタイルで製作を続けるレザークラフトの作業場「前小路ワークス」の清水さん。長年東京で広告業に携わった後、親の介護のため55歳で東京からUターンとして山口に移住し、"商圏も経費も利益もできるだけ少なく" というコンセプトで、独自のライフスタイルとビジネスを両立させている方です。スキルの二次活用について考えを巡らすきっかけになりました。

三者三様な生き方を見て、お話を聞いてみると、「after 50のしごと」に繋がる共通点や気づきがありました。何に価値を置き、どう生きていくかを自らの力で設計しているところ、以前の仕事で身につけた知識・人脈や趣味で身につけたスキルを、今の環境で生かし強みとして現在の生活・活動を下支えしているところなど、組織に属して仕事をする一般的な働き方とは違う面白みがあります。阿東では、社会との関わり方も独特で、そこに「これからの社会」の兆しを感じることもあり、発見の多いフィールドワークとなりました。

ワークショップ2日目:みらいのしごと道具プロトタイプ

濃厚なフィールドワークでの気づきを持って挑んだ2日目は、ギャップ分析をして、今の社会・経済と10年後の社会・経済を比較し、必要な能力・スキルがどう変わるのかをグループで話し合うことから始めました。3つのチームに分かれ、「コミュニティと場」「新しいチャレンジと人的ネットワーク」「役割とやりがい」「投資と回収モデルからの離脱」などのトピックで熱いディスカッションが行われました。

そこから、チームで話し合って「しごと道具」を作るために、未来のどんな人たちが、どんな仕事をしているのかという、みらいのしごとストーリーの想像を膨らませていきました。どんなやりがいがあり、何を「しごと」とし、その営みがどのように継続していくのか、そんな仕組みも考えながら、アイデアを固めて行きました。

そうして生まれた新しい「しごと観」からしごと道具を仕立てるのは、楽しくもあり、大変な作業です。使えた時間は、たったの3時間程度。どのテーマに絞るのか、それを表すためにどんなモノを作るのか、各チームで知恵を絞り、時間と戦いながら、しごと道具をプロトタイプしました。今回用意した材料は、廃材のセレクトショップMATERIAL MARKETさんのお楽しみボックスに詰まった木片の積み木や、100円均一で売っている工作に使えそうなモノなど、様々です。それに加え、目についた使えそうなモノやゴミを見つけては、心に思い描いた道具を制作して行きました。

出来上がったプロトタイプは、どれもユニークなストーリーのある、多様さを持った3点でした。

Aチーム:利益が上がらないようにするお弁当屋さん

利益を出さないために、前日の売り上げから高級食材の最低容量が決められる。お弁当を買う人は、バイキング形式で旬のおかずが指定%以上にならないと買えない。というお弁当バイキングの計り。

Aチームでは、みらいの世界は、事業の拡張・利益の増幅を目指すのではなく、地域での循環を目指す社会になっていくという点に着目し、よく売れた日の翌日には利用者に利益を還元するという、「ほどほど弁当」というお弁当屋さんを想定し、そこで使われているお弁当の計りを作りました。未来なおかずのネーミングも楽しいプロトタイプです。

Bチーム:地域のスキルを貯めておける車

地域という小さな単位で誰がどんなことができるか、どんな知識・スキルを持っているかを集約する。車として拠点が移動することで誰でもアクセスでき、自分も簡単に情報を発信できる。この車に乗っているモノ・コトを1つ受け取る代わりに、自分で価値のあると思ったモノや自分のできるコトを2つ車に乗せていく。ガーデニングができるけれどそれがすごいコトだとは思っていなかった主婦とガーデニングを教わりたい人が出会う、というように自分がスキルだと思っていなかったことに気づくことができる。

Bチームでは、みらいの世界は、自分のスキルが地域のために役割を担っている自覚を保ている社会になっていくという点に着目し、画一的ではなく当事者同士で決まる価値の中で行われる物々・スキル交換を可能にする大型車をプロトタイプしました。

Cチーム:生きる力を伝える道場

歳を重ねると体力に反比例して“生きる力”が高まっていき、若い時は体力はあるが“生きる力”を持っていない。若い時の方が“生きる力”がより必要な場面が多いのにも関わらず。

この道場は、高齢者が“生きる力”を必要としている人たちに、その力を伝えるための場所。生きる力とは、自分の生活に必要なものを自分でどうにかする力のことであり、言い換えれば生活のために生産する力のこと。

老いることをよりポジティブに捉え、身につけたスキルを誰かのために使う役割を持てるコミュニティと、コミュニティのマインドを表現する場としての道具。

Cチームでは、みらいの世界では、年齢を重ねても挑戦するための準備をできる環境がある、高齢者は“趣味”の延長として誰かを支えることができる、お金でない価値観の交換が普通になるという点に着目し、自分にとっては特別なことではないけど他者からは特別なスキルと認識されるものを伝授する道場をプロトタイプしました。

最終プレゼンテーションの模様を全国にライブ配信

ユニークなアイデアをご紹介した成果報告のプレゼンテーションは、YCAMのYouTube channelでライブ配信もしました。フィールドワークでお話を聞かせていただいた、明日香さん、高田さんにも貴重なフィードバックをいただき、実りのある発表になりました。

たったの2日間とは思えない、普段とは違う場所、普段とは違う視点で、みらいのしごとについてじっくり考える充実の凝縮のワークショップでした。凝縮したスケジュールの中、YCAMチームの地域に密着したサポートのお陰もあり、山口ならではの体験が満載で、人口の少ない地域での生活のイメージが具体化されたり、想定以上の気づきが多い訪問となりました。

参加いただいた学生さんからは、「学生向きに用意された課題をやるのではなく、社会人の方と一緒になって考えるのは初めてで、刺激的だった」などの感想をいただいたり、社会人組は自分の今後の働き方について真剣に考えるきっかけになり、山口から帰ってきても、会うたびにその話題で盛り上がっています。

KOELの未来洞察系プロジェクト

KOELでは、ビジョンデザインと呼ばれるプロジェクトにも多く取り組んでいます。ビジョンデザインとは、​​「10年後・20年後の社会の在り方をビジョンとして描き、生まれるニーズの仮説から、ソリューションを構想し、具体的な事業として社会実装を目指すアプローチ」というもので、未来の人々の暮らしを想像することから、今からできること、今やるべきこと、これから向かう方向性などを見据えていこうという探索型のデザインです。
今回のワークショップも、そうした未来について考えるプロジェクトのひとつとして行いました。

2日間のフィールドワーク・ワークショップからの気づきは、持ち帰ってインサイトとして まとめています。次の機会に、このワークショップから見えたこと、考えたことについて、深掘りしてご紹介できればと思います。

次回はKOEL稲生さんによる、ワークショップ事前準備のために作成した「しおり」のお話です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?