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山口県の過疎地域から30年後の働き方をリサーチする—RESEARCH Conference 2022登壇レポート

去る5月28日、リサーチをテーマとした日本初のカンファレンス「RESEARCH Conference 2022」がオンラインにて開催されました。KOELからはHead of Experience Designである田中友美子が登壇し『未来探索型リサーチ「みらいのしごと」』をテーマに講演させていただきました。当日は運営側で用意されたオンラインホワイトボードやSNSなどでも視聴者の皆さんから様々なリアクションをいただき、大きな反響をいただいたセッションとなりました。今回は当日のセッションの内容を公開いたします。ぜひ記事を通じて、未来探索型リサーチについて皆さんの見識を深める機会にしていただければ幸いです。

未来の社会の在り方を描く「ビジョンデザイン」

こんにちは!NTTコミュニケーションズ デザインスタジオKOELです。今日はKOELが取り組んでいるビジョンデザインというものと、そのプロジェクトである「みらいのしごと after 50」についてお話しさせていただきます。

まず最初に私たちの会社、NTTコミュニケーションズについて簡単にご説明させていただきます。事業領域としては電話からAIまで幅広く提供させていただいています。法人向けビジネスが中心ですが、インターネットを日本で初めてサービス化した「OCN」や、ビジネスの現場で30年以上利用されている「フリーダイヤル」のようなサービスも提供している会社です。最近では新ドコモグループの一員になったことで、NTTドコモが持つモバイルサービスを活用した事業も対象となり、さらに活動の幅が広がっています。

ICTとデータ利活用から社会全体をアップデートしていく、世界をスマートにすることを目指してSmart Cityをはじめとした7つの領域で「Smart World」実現に取り組んでいます。世界中の企業の皆さんと一緒に世界のスマート化を推進している会社です。

そんなNTTコミュニケーションズの中にデザインスタジオ KOELが存在します。KOELではデジタルプロダクトの作成から事業開発まで幅広いプロジェクトを行っていますが、デザインの取り組みの一つに「ビジョンデザイン」と呼んでいるものがあります。

「10年後・20年後の社会の在り方をビジョンとして描き、生まれるニーズの仮説から、ソリューションを構想し、具体的な事業として社会実装を目指すアプローチ」。10年後・20年後という少し遠い未来について、その中の人々がどう暮らしをされているのだろうと想像し、ビジョンとして共有する、そういったことを行っています。

ビジョンデザインのような手法は世界でも多く用いられています。欧米では「スペキュラティブ・デザイン(Speculative Design)」と呼ばれているものが比較的近いものですが、有名なものだとNetflixのドラマシリーズ『Black Mirror』や、日立とMethodが共同で行ったプロジェクト『TRUST/2030』、イギリスのsuperfluxによる世界の状況変化による未来シナリオ『Mitigation of Shock』といった興味深いプロジェクトが多く存在しています。

"ありそうな" 未来像を作る3つの視点

未来のビジョンを作るとき、より “ありそうな” 未来像を作るために、いくつかの必要なステップがあります。まず「リサーチ」をして現在起こり始めていることや業界の方向性を調べ、その延長に起こりえる未来像の「仮説」を立て、その未来像の中に関係がありそうな方とお話しすることで「検証」し、最終的に未来の「ビジョン」として具現化する、という一連のプロセスを踏むことが多いです。

探索型リサーチを行うときに大切な視点が3つあって、この3つをバランスよく持ち続けることが "偏りなく"、"ありそうな" 未来像を描くときに大事になると思っています。

未来の姿を想像することによって、未来の世界の人々の生き方・生活の中の課題を想像し、「テクノロジーって何ができるんだろう?」「じゃあサービス/プロダクトってどういうものが求められるのかな?」この順番で物事を考えられるようになることがデザインリサーチの意義なんじゃないかと思ってます。

山口県の過疎地域から30年後の生き方を探索する

そんなビジョンデザインのプロジェクトとして2021年度に「みらいのしごと after 50」を実施しました。未来の人の暮らし、価値観を想像するタイプのプロジェクトです。

このプロジェクトを始めたきっかけですが、他のプロジェクトでリサーチをすると必ず「人口減少」「高齢化」という話が出てきます。日本ではとっくに2008年に人口のピークを過ぎていて、これからどんどん人が減ってくる。2050年には人口の1/3が高齢者になるというかなり厳しい現実があると感じています。

ですがその一方で世間でよく言われる “未来の都市ビジョン” は空を飛んだり、高いビルが建ったりとなんとなく人が減ってくる現実とマッチしないと感じることが多いよね、とRE:PUBLICさんや山口情報芸術センター[YCAM]さんと話していました。じゃあ私たちが思っている50歳以上の方——2050年には高齢者と呼ばれるようになっている方たちってどう生きているのか探してみよう!ということでこのテーマを立てました。

「50代以降の働き方、生き方を、地域で創造的に暮らす高齢者に学び、構想する」というテーマを立ててリサーチをすることにしました。フィールドワークの行き先として山口県山口市阿東地区を選びました。阿東地区では90年代から人口減少が進んでいて、今では過疎地域となっています。現在日本の高齢化率の全国平均は30%程度ですが、阿東地区は60%に近く、日本でも人口減少/高齢化の先駆けである地域です。まさに都市システムが崩壊しつつある阿東地区で、創造的に働く3名の方を訪問し、特徴的な仕事のあり方を実践するところを見てきました。

最初に話を伺ったのが「阿東文庫」という、配本を回収してコミュニティ図書館を運営している明日香さんという方です。本業のIT会社の経営をしながら、副業として農業、家業として奥さんの経営している和菓子屋さんのお手伝いをしながら、阿東文庫の運営と、スペダギという阿東の竹を使った自転車を作る事業も行ってらっしゃいます。明日香さんからはいろんな仕事を同時に進行させていく "複業" という考え方を学びました。

次に訪問させていただいたのは「ほほえみの里 トイトイ」を運営している高田さんです。阿東で最後のスーパーが潰れたときにそのお店を買い取って、スーパー兼コミュニティスペースとして経営してらっしゃる方なんですが、地域の高齢化が進んで「なかなかスーパーまで行けないんです」という声が出てきたら移動販売を始めたり、「本当は手作りのお惣菜が食べたいんだよね」という声が出てきたらお惣菜やお弁当の販売を始めたりと、"地域の方に求められていること" から事業を広げていく働き方をされていました。

最後に訪問したのが「前小路ワークス」の清水さんという方で、レザークラフトショップをやられています。清水さんは長年広告業界で企業広報を担当してらっしゃったんですが、55歳の時にご家族の介護のために東京からUターンして山口に移住されました。得意だった皮細工の技術を活かしてレザークラフトショップをやられていますが、その運営の中で広告の業界で培ったスキルを活かされていらっしゃいます。単発のお仕事をして副業にしたりと、無理のない自分の仕事の価値を理解される環境をご自分で作り、理想の生き方を実践されている方でした。

トランジションの時代に働くということ

阿東地区でユニークな働き方をされている3名の方に出会い、働くことへの向き合いかたにいくつかの共通点があるのかなと思い体系化しました。現場で強烈に気づいたのは阿東というところでは、東京とは全く違った、経済システムが変化していることを目の当たりにしました。

これまでテーマを「みらいのしごと after 50」として50歳以降どう暮らしていくの?という設定をしていたんですが、フィールドワークで人口減少、高齢化社会で暮らしてらっしゃる方の生の声を聞いて、年齢というよりも社会システムが変わることによって生き方が変わってくる、本質的な仕事の変化、その原因に気づきました。なので思い切ってプロジェクトのテーマを変更し「トランジションの時代に働くこと」と設定しなおしました。

こうした視点を持つことで、分散化する社会で地方がどういう場所になっていくのか、その中で生きる人にとって何が大切なのか、価値観はどう変化するのか、みらいの人々の暮らしを "仕事" という切り口で考えました。

社会のシステムの姿が変わったり、仕事に対するプライオリティ、期待値、概念が変わることが見えてきました。こうした未来像に対して、未来の世界で暮らす人のお仕事ってどうなっているのかな、ということでシナリオを書いてストーリーとして共有しました。

ここでは過疎地域で診療所を営むお医者さんの話を例として挙げていますが、これから2030年、2040年となった時にどう変化していくのか、同じ診療所という役割がどう変化していくのか、このお医者さんの仕事に対する気持ちや生活に対する意識、価値観というものがどう変わっていくのか、段階を追ってシナリオでご説明しました。

シナリオに出てくる未来の人々の特徴を紐解いたり、新しい社会、価値観の例を説明することで、社会の状況、人々の関心など、詳細のイメージを共有することで、どう生きるかという課題に対して、テクノロジーサービスのプロダクトができることを考えたりして、事業検討に活用しています。

今日は短くプロジェクトの内容を紹介しましたが、リサーチのプロセスやインサイトについてはKOEL公式noteに詳しく書かせていただいているので、興味を持った方はぜひ読んでみてください。

また、私たちKOELでは好奇心、探究心旺盛なデザインリサーチャーを随時募集していますので興味ある方はご連絡ください。駆け足なご説明になってしまいましたが、今日はありがとうございました!


KOELの未来探索型リサーチについての発表、いかがでしたでしょうか。KOELでは今後もビジョンデザインを手がけていきます。また新たな事例がありましたらこのKOEL公式noteでお伝えしていきますので、ぜひフォローをよろしくお願いいたします。
今回ご紹介した「みらいのしごと after 50」をさらに深く知るnoteマガジンも作成しましたので、こちらもぜひご覧ください。


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