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改めて、非常時の支援を

6,241文字あります。個人差はありますが、10分〜15分でお読みいただけます。

今日はnoteの連続更新87日目です。noteのほかに、Voicy(音声配信)もしておりますので、併せてご活用いただけると理解しやすいと思います。また、noteの通知をオンにしていただけると記事が更新するたびに通知がいきますので、フォロー、スキ、シェアと合わせて通知オンもしていただけると嬉しいです。なお、今日の放送は下記よりお聴きいただけます。

今日は「改めて、非常時の支援を」というテーマです。実は、昨年の3月11日に代表を務めているTEACCHプログラム研究会東北支部の皆さん向けに配信した記事なのですが、昨夜の北陸地方を中心とした災害を受けて、自分でもすぐにできることをしようと思いと思い、まずはこの記事を公開しようと思いました。東北支部の皆さんには申し訳ありませんが、ご容赦ください。今現地で必要な情報ではないと思います。現地ではライフラインに関することが最優先です。それでも、少しでも、どこかの、誰かのお役に立つ可能性があるのであればと思って記事を公開しています。

もし、記事が良いと思った方は、少しでも多くの地域の方々に届いてほしい内容ですので拡散にご協力いただけると嬉しいです。それでは、どうぞ。


はじめに

東日本大震災から12年が経ちました。当時、ぼくは福島にいましたが、その後横浜に移り、現在に至ります。

東北地方の方々にとっては、ぼくには理解できないような想い、経験、ご苦労をたくさんしてこられたのではないかと思いますし、それは今もなお続いているかもしれません。そして、ぼくが何かこの震災によせて軽々にお伝えできることはないとも思っています。

そうしたことを承知の上で、それでも、ぼくにできることはないかと思い、今回はこうしてコラムを書かせて頂いています。普段は、TEACCHプログラム研究会東北支部の会員の皆さん向けのコラムを書いていますが、今回はお知り合いの東北の方にシェアして頂いても構いません。非常時の支援として、ぼくが考えていることについて共有していきたいと思います。

非常時はなぜ混乱するのか

地震や台風、大雨など様々な災害が僕たちの生活にはつきものです。新型コロナウイルス感染症もその一つです。いずれも非常事態であることに変わりはなく、程度の差はあれ、不安や混乱を感じる状況です。その原因のいくつかには下記のことがあると考えています。

  1. 不確実な情報による混乱

  2. 環境の変化による混乱

いずれの場合でも共通するのは、「予測が立ちにくくなる」という点だと思います。その結果、不安、混乱、焦燥感、怒りなど様々なストレスを感じ、メンタルヘルスに影響を及ぼすと言われています。

不確実な情報による影響

非常時には誰しもが混乱し、先行きが不透明になるので、不確実な情報は致し方ないと思います。オンライン化で進み、恩恵も多いのですが、他方でインターネットやSNS上で不必要に不安を煽るような情報もあったりします。

そして、時にエビデンスは乏しいような情報も少なくありません。
  
ASDの方々の中には、全体像を捉えることや、情報の取捨選択が不得手な方々もおり、情報にさらされすぎることで、それが刺激過多になることもあります(結果として、不安が強くなり、不安定になることも)。
  
どの情報をどう受け取るか、理解されるかは、人それぞれですので、「そんなことはないよ」「いや、あれはメディアが言っているだけだからね」と言われても納得できないこともたくさんあります。
  
では、ぼく自身はどうすることが多いかと言いますと、基本的には公的機関が発信している情報をもとに説明し、具体的な根拠や数字などもお伝えするようにしています。そして、ネットやワイドショーについては以下のことをお伝えしています。

  • 不確実な情報が多い

  • 観ることもストレスになるので、観過ぎない(観る番組や時間帯を決める)

  • 気になる情報や不安に思うものがあれば、一緒に確認したり調べるので質問して欲しい

  • メンタルヘルスとのバランスを考えながら、今やること、やれないことを整理していく。

環境の変化による混乱と影響

さまざまな災害だけではなく、今現在も続くコロナでもそうですが、非常時には、生活上は一定の行動制限がかかります。
  
そうした行動制限により、家族同士の距離が近くなった方々もおり、それに対してストレスを感じる方もおられるでしょう。例えば、下記のようなことは起こり得ます。

  • 一人で過ごせる時間が減った

  • 慣れない人と場所を共有することで、ご本人のストレスが増える

  • (自分にとっては予期しないタイミングで)声をかけられる機会が増えた

  • 一緒にいる時間が増えて、これまでは気にならなかった子どもの行動が気になるようになった

  • 周りの目が気になり、普段は指摘しないようなことも指摘せざるを得なかった

それ以外にも、今まで楽しみにしていた余暇活動に制限がかかった、移動支援やショートステイの利用ができなくなった等で強い混乱を示される方々もおります。東日本大震災のように大きな災害時には、日中活動自体もなくなってしまうということがあります。
  
こうした混乱には、ASDの方々のイマジネーションの特性が大きく関係しています。
  
イマジネーションとは、先のことを予測する(見通しをもつ)、計画を立て実行する、臨機応変に行動する、行動や気分の切替え、いつも通りを好む(変化が得意ではない)などに関係する能力のことなのです。
  
災害時、緊急時には、上記のような環境変化が生じますので、「いつになったら〇〇ができるのか」と見通しがつきにくくなってしまいます。
  
したがって、「非日常の中に、日常(いつものこと)をどう提供できるか」「いかに見通しを伝えるか」が必要になってきます。
  
ぼくらには、「変えられること」と「変えられないこと」があります(コントロールできること、できないことと言い換えても良いです)。そう考えていくと、「非常時での環境変化は変えられないけれども、情報は変えられる」と思うので、現実的にできることとしては、「どれだけ変わらないことを用意するか」「どう見通しを伝えるか」だと考えています。具体的には以下のような提案をすることが多いです。

  • いつになったら状況が収束するのかはわからないことを伝えた上で、ご本人の希望はいつくらいに叶うのか、想定よりも遠い時期に設定する(長引くのは嫌だけれども、短くなるのはそうでもない。例えば、ぼくらも誰かと待ち合わせをしていた時に、「ごめん、10分遅刻する」と連絡がきて、実際には30分遅刻されたらイライラしますが、「ごめん、1時間くらい遅刻しそう」と連絡がきて、実際には30分の遅刻だった場合には「お、意外に早かったね」となるのではないでしょうか)。

  • その時には、「◯月◯日にできるよ」と確約するよりは、「◯月◯日に相談しよう」としておき、そこでの状況によって、「〇〇という状況→◯◯できます」「〇〇という状況→〇月〇日頃に延期」など、不確実ながらもお伝えできることはお伝えする(予想通りいかない可能性があることも予想しておいてもらう)。

  • 家族であっても、一緒の時間を減らすことは不自然なことではない

  • 1日の過ごし方や週末の過ごし方にスケジュールなどを活用する(知的に高い方でも、どう過ごすかを一緒に考える

  • 声をかけても良い時間/良くない時間を設定する(赤のカードの時はダメで、緑のカードの時はOKなどでも良い)

  • 苦手なことや好きじゃないことに取り組むよりも、できることや好みの時間と活動を増やす(時間はあったとしても、ストレス状況であることは変わりない)

  • 親御さんに対しては、「この行動は気になる」と思うのは自然なことで、それ自体は悪いことではない(特に、外であれば周囲の目も気になる)。でも、ストレスの多い状況では、お子さんがリラックスできる行動(ゲーム、ネット、こだわり、常同行動など)は増えることがあり、その背景には、見通しのつかない中でも、お子さんなりにいつもと同じ行動をすることで、自分にとってわかる時間を作っている=なんとかストレスに対処しようとしているということを説明させていただく。  

そして、これらを伝える時には、可能な限りきちんと理由もお伝えしてもらうようにします(知的な遅れがあってもなくても)。
  
なぜかというと、理由のないことは納得し難いからです。
  
例えば、こんな状況はどうでしょうか?
上司:「今から出勤してほしい」
ぼく:「え?なんでですか?」
上司:「とにかく、今日は出勤することに決まったから」
ぼく:「振休はとっていいんですよね?」
上司:「そんな先のことはわかんないから、とにかく出勤してよ」
  
でも、これだったらどうでしょう?
  
上司:「今から出勤してほしい」
ぼく:「え?なんでですか?」
上司:「ごめん、〇〇さんがインフルエンザにかかってしまって、どうしても人が足りないんだ。その変わり、〇〇日は休んでいいから」

仮に、楽しみにしている予定があったとしても、「仕方ない」と思えるのではないでしょうか。ASDの方たちも同じだと、ぼくは思うのです。

日頃から備えておく

皆さんもご承知のように、日本は災害大国です。したがって、今後も様々な緊急自体は生じる可能性があります。もちろん、その時にならなければわからないこともたくさんあるのですが、見通しがたたなくなった中でも、どう見通しを用意するか、今の段階から備えられることもたくさんあるように思います。

どうして普段から備えるかというと、非常時に新たなことにtryするのは難しい(不安が強い時に、不安が強くなることはできない)ためです。特に、新しいことは変化です。そうした変化に対して臨機応変に応じていくには、元々得意ではないので、それなりにエネルギーのかかることです。ですから、普段から取り入れておくことで、「新しいもの」ではなくて「いつものもの」にしておく、そうすることで、緊急時には「いつもある、変わらないもの」の一つとして提案できる可能性が高くなるからです。
  
ぼく自身は、そのような話をさせていただくこともあり、具体的にどのような提案をしているか共有させていただきます(もちろん、一部ですし、全員に有効なわけでもありません。もっともっと良いアイディアもあると思いますので、是非皆さんからも教えてください)。

  • イヤーマフや耳栓を日常的に使っている人は、車などにもストックしておく(音楽プレイヤーなども同様)。また音に敏感な方は、普段から使っておく。

  • 退屈や混乱を凌げるグッズを用意しておく(好きなDVD、TVの録画、ポータブルDVDプレイヤーなどの「いつも通り」を作る)。特に、お気に入りのものはストックがあると便利。特に、お気に入りの音楽は、CDを購入したり、CDやUSB、SDカードにダビングしておく。

  • スマホやタブレットのモバイルバッテリーを用意しておく(予算が許せば、電池式と充電式どっちもあると便利かも)。ノイズキャンセリングイヤホンを使っている人にとっても充電できるのは役立ちます。

  • 全員ができるわけではありませんが、服薬している方は、お薬手帳はいつもスマホで写真を撮って記録を残しておく。あるいは、難しい話ですみませんが、クラウド上に保存しておく(お薬手帳が紛失した場合でもスマホやネット環境にさえつながればなんとかなる)

  • 普段使っているスケジュールなどの支援グッズは予備で防災バックに入れておく(紙とペン、ホワイトボードもあると便利)

  • 保存食なども確保しておき、定期的に食べてみる。

  • 偏食の強い方の場合には、食べられるもののストックを用意しておく。

  • 個室が用意できないこともあるので、その時には小さめのテントを活用してもいい。

  • 次に同じようなことがあった場合には、具体的にどうするか想定しておく(誰に連絡するか、どこに避難するか、どう過ごすか)

  • 意図的に体験する機会を設けるために、緊急時を想定してスケジューリングして、試しに過ごしてみる

ご家族や支援者のケアも

誰しもが、お子さんやご本人たちの生活を優先して考えることは当然かもしれません。ですが、保護者の方、支援者の方々も同様にストレスは抱えておられます
 
ですので、保護者の方々にとって、難しいことは承知の上で次のような提案をさせていただくこともあります。

  • 親御さんがリフレッシュする時間をきちんととること(その数時間で、家族全員の生活バランスが大きく崩れることはないけれども、親御さんが倒れた場合には長期で大きな影響がある)。

  • 無理をしない日(=楽をする日)を作ってもいい。外食、テイクアウトでも良いですし、今日は食器も洗うのが面倒だから、捨てられる食器を使う日があってもいいと思います。

  • 疲れている時には、疲れていると言ってもいい。

その上で、支援者の方々には、以下のようなお願いをさせて頂く事もあります。

  • 親なんだからやって当たり前、頑張って当たり前、我慢して当たり前と思わないこと

  • 無意識的にでも、いわゆる「良い親であること」を求めてしまうことがあり、それが親御さんのプレッシャーになることも知っておくこと

支援者の方々のケアも大切で、上記のことは支援者の方々にも当てはまるだろうと思います。同時に、ぼくが意識するのは、これは緊急時であれそうでなくても同じですが、「支援者を孤立させない」ということです(ご本人、ご家族もそうであることは言うまでもありません)。
  
これは現場の問題ですが、時々感じるのは、意欲のある支援者の方ほど孤立しやすいということです。
  
例えば、
やりたいことはあるけれど自分の一存ではできない・やろうとしても批判される

何もできない

生徒、利用者の方々、患者さんたちにとって何もできないストレス、仕事を続けるのもしんどい
  
となってしまう場合もあります。
  
残念ながら、今のぼくにはどうしたら良いのか解決策は持っていないのですが、それでも何かあった時に繋がれる仲間を持っておくことは、その一助になるだろうと思っています。その一つとして、このTEACCHプログラム研究会東北支部が皆さんにとっての「居心地の悪くない居場所」になれば嬉しく思います。まとめると次のような感じです。

  1. 非常時には混乱することを前提に、情報整理をする

  2. 予測がつかないということを含め見通しを伝える

  3. できるだけストレスの少ない過ごし方を、ご本人・ご家族にも提案する

  4. 様々なリスクをゼロにはできないし、ストレスとのバランスを考えた活動を

  5. 急な対応は難しいので、普段の生活から経験できることは、無理のない範囲で経験を

  6. 支援者の支援も必要

ぼくは、これまで東北の皆さんに対してお役に立てるようなことはしてきませんでした。そのため、何を今さらと思われるかもしれませんが、今だからできることもあり、可能な限り皆さんとご一緒したいと考えています。

「こんなことはお願いできないか?」などあれば、全部に応えられるわけではありませんが、下記まで遠慮なくご連絡ください。ぼくにできそうなことがあれば是非ご協力したいと思っています。これからも一緒にかんがえていきましょう。

teacch.tohoku@gmail.com

みなさんにとって、居心地の悪くないと思える日常が増えることを願って。

2023年3月11日(土)

TEACCHプログラム研究会東北支部
代表 佐々木康栄

災害時に役立つさまざまな情報

被災地で、発達障害児・者に対応されるみなさんへ(国立障害者リハビリテーションセンター)

防災・支援ハンドブック(日本自閉症協会)

災害時、発達障害の子どもの支援についての医療関係者へのお願い(内山登紀夫先生)

オンラインサロン「みんなで考える発達障害支援」

クラウドファンディング

▼9月に大阪にて講演会をさせて頂いた「一般社団法人泉大津・発達支援勉強会Lien」さんが、「大阪府泉大津市、及び、泉州地域である近隣市町村一帯が、発達障がいや多様な子どもたちにとってより過ごしやすい地域に」を目指して、クラウドファンディングをされています。特に、4月2日の世界自閉症啓発デーでは、世界中がブルーライトアップされます。これは色々な人に目を向けてもらうための活動でもある一方で、それだけ予算がかかります。

そのため、どの地域でもできるわけではありません。今回、泉大津市内のブルーライトアップをしたい!という想いを叶えるためのクラウドファンディングです。目標金額は220万円です。ちなみに、これは行政と一緒に取り組んでいるものなので、「ふるさと納税」として寄付ができます。

ぼくも応援メッセージを出させて頂いています。どうか皆さんも応援していただけないでしょうか。

皆さんの応援が力になり、その力が地域を進める行動になり、その行動が当事者やご家族の未来になります。

一緒に地域の未来を変えるお手伝いをしてくれませんか?

セミナー情報

▼TEACCHプログラム研究会 第16回実践研究大会 in 東北・東京・熊本・鹿児島 「共に学び 成長する 熱い冬」

ぼくは仙台会場にいって、一丁前にコメンテーターというのをさせて頂きます!翌日にはTEACCHプログラム研究会東北支部主催でイベント「自閉症支援の未来会議 in 仙台」も開催しますので、2月10日(土)、11日(日)はご予定の確保をお願いします!

▼会員限定動画▼

これまで、会員の皆さんには限定のコラムや動画を配信してきました。現在下記のような動画を配信中です。閲覧にはパスコードが必要です。何度かメールでご案内しておりますが、もし会員の方で「パスコードがわからない!」という方はteacch.tohoku@gmail.comまでご連絡ください。

▼会員限定コンテンツ▼

現在、会員限定の質問フォームを設けています。匿名にしようかとも思ったのですが、会員の方からのご質問であることを確認するためにお名前のご記入をお願いしたいと思います。ご質問については、全てにお返事できるわけではなく、会員の皆さん全体にとって有益だろうと思うものを中心に取り上げて、限定コラムなどで書いていきたいと思います。

▼その他▼

ここに記載した以外にも、東北支部ではさまざまな取り組みを今後もしていきます。会員の皆さんには、「今こんなことを考えています」というのもお届けしますのでお楽しみに。公式LINEもあり、会員以外の方もぜひご登録ください!定期的に情報発信していく予定ですので、「TEACCHって何だろう?」「興味はあるんだけれども、どんな活動をしているんだろう?」という方はぜひご登録ください!

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