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【読書記録】本「オルタネート」を読んで

本を眺める


文庫本も出ましたが、
単行本の表紙にはキラキラの『a』が
印刷されています。一見の価値あり。
なんだかスレッズのマークに似ていますが
この本の方が先だったはず。
作者の加藤さんは先見の明がありそうです。

小説の世界と現実世界の対比、おもしろい。

小説の世界では、この「オルタネート」という
マッチングアプリが主人公たちの中心にあります。
現代のSNSのようなもの。
お話の設定で、高校生限定となっています。

小説の流れとしては、
高校1年生、2年生、3年生の男女たちが
アプリの交流、音楽、料理の軸で関わっていきます。
最後の文化祭では
映画のシーンのような怒涛の展開で
全員が絡み、一気に読ませてくれました。

いやぁ。すごかった。
最初の架空のカタカナ用語の世界についていくのが
ちょっと大変だけど、それを越えたら一気に駆け抜けられます。

一気に読ませる力のある物語が書けるのは、
まさに作家力!
この作家さんははじめまして、でしたが
この作品はすごいって思いました。
有名人なのも手伝って、
プロモーションも力が入っていました。

本の感想

私の世代には、カタカナと人名になじむのに
ちょっと時間がかかるかもしれません。
3人の主人公の名前が
いるる凪津なづ尚志なおしなので、
ここをまず受け入れます。

いるるをベースに話が進んでいきますが、
料理に興味がない読者さんは
遺伝子マッチングに興味がある凪津なづ
ドラマーの尚志なおしを追うのかも。

私は、調理部部長のいるるを追いました。
この学校には、調理部があって
この子は去年料理大会に出場しましたが、
そこでトラウマを残す出来事がありました。
それを乗り越えるため、今年も挑戦します。

私の高校生の時代は、
こんなドラマチックな青春はありませんでした。
大会に出場とかも……
バドミントン部で練習試合したぐらいか。

私にとっては、
料理大会決勝戦出場なんて小説だからあり得る世界。
だから、共感とか没入体験というより、
ドラマの観察者の視点で楽しめました。
そして、ちょっと過去の自分を思い出す。

それでも、この本はおすすめできるんです。
なぜなら、
いたるところに現代の問題がちりばめられているから。
子どもたちにも読ませたい。
うっすらでもいいから感じてほしい。

今日ではそのメンデルの法則は多方に知られることになり、市場に出回る野菜のほとんどはこの法則に由来する雑種第一代、通称「F1種」になっています、と笹川先生が土を混ぜるようにしながら話した。

オルタネート p7

いきなりメンデルの話から「F1種」のタネの話題に入っていきます。
ここに引っかかれば、
子どもたちが小説を最後まで読まなくても
今の日本のスーパーマーケットに目を向けられます。

それは、私たち消費者の問題でもあるし
食べ物の在り方に関心が向くのかもしれません。
賢い子は、種子法と農薬の関係にたどりつくかも。
そして、巨大資本の存在と株式市場を見て経済まで。
見たくもない真実まで。
だから、対立しちゃダメ。
人間理解。自己理解。

小説は基本的に人間関係を描いていて
それを楽しむものですが、この物語には
「F1種」
(遺伝子組み換え食料の問題)
「ジーンマッチング」
(遺伝子情報で相性を見る是非と個人情報のだだもれ提供への危機感)
「異性恐怖症」
(自分が原因じゃないのに知らない所で襲われてしまう弱者の恐怖感)
「SNSの闇」
(配信者として生きていると本当の感情がわからなくなる不安感)
「両親の影響」
(高校生って親の影響力がまだまだ強い。だからこそあの性格)
などの設定が入っているので
何かしら読者の心に刺さる部分があると思います。

だから、おすすめなのです。
これは、1回は読むといい。
合う合わないはあると思うけれど、
物語の力で最後まで一気に読ませてくれるから。
少しでも、学校では教わらない知識が入るから。

「もっともっと自分を信用することにする!もっと自分を好きになる!そのために、私は私を育てる!!」
 弾けるようなリズムが遠くで鳴り響いている。

オルタネート p351

とにかく、単行本の351ページまでは駆け抜けてほしい。



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