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かがくいひろしの最後の絵本、ラフスケッチを見て、思ったこと。


2009年9月28日、54歳にて


人間は、致死率100%です。
いつか、その日がきます。
その時は、誰にもわかりません。
だから、いつかくるその日まで
精一杯生きています。

平均寿命が84歳の日本においては、
54歳は、いささか早すぎるけれど。

こんなMOOK本を読みました。
かがくいひろしさんの急逝が伝えられていました。
付録には、「ぞうきんがけとぞうさんがけ」
という小さな絵本がついています。
生前のラフスケッチのまま。

付録はきちんと製本されています。

我が子に読んであげたら、
ぞうきん絞りの後の場面にくいつきました。
ぞうさん絞りの絵を期待して。

結果、小学生でも大笑い。
(うちの子が幼いだけかもしれませんが)
子ども心をつかむのがうまいです。
もちろん、絵の構図も面白い。

代表作の絵本たち

かがくいひろしさんの作品。
「だるまさん」シリーズ
おしくら・まんじゅう
おふとんかけたらなどなど。

子どもたちに大人気の絵本でした。
「これ、よんで。」と持ってくる本に
選ばれていました。

でも、作家さん自身のことは調べていませんでした。
このMOOK本で興味をもって知りました。
え?ずいぶん前に亡くなっていたんですか……。

絵本という出来上がった作品を手にすることはあれど、
その向こうのそれを創り上げた人に
フォーカスを当てることまでは
保育士だった頃の私はしませんでした。

でも、今はクリエイトに興味があります。
だから、じっくり読みました。

奥さんから見た夫のこと

このMOOK本には、ご本人ではなく
加岳井久美子夫人へのインタビュー記事が
載っていました。

◎彼が小さい頃、身近に少し障害のある人がいて若いうちに亡くなったのですが、そんなこともあったりして障害児教育に興味があり、副免を取ったんです。さらに養護学校が国で義務化になった等、色々理由が重なって、養護学校への就職を決めました。
 その頃は学校へ若い先生がどんどん入り活気があって楽しかったようです。生徒一人一人に合った授業という考え方が基本で、その子に合った物は何かって一生懸命考えてました。

絵本 作家73人の話 ロングインタビューより

ほぅ。
かがくいさんは、先生だったんですね。
養護学校だから、それぞれの個性に合わせ
教材も手作りしていたそうです。

私も保育園で多くの障がい児と接してきました。
発達差が大きいので、個別対応必須なのはわかります。

言葉も擬音を使うと生徒が楽しんでくれる。先生の仕事をしながらでしたが、表現欲求が強い人だったので作ることでリフレッシュしてた。3~4時間寝れば平気な人でした。

絵本 作家73人の話 ロングインタビューより

睡眠時間3時間!
ヤバいです。

かがくいさんは、自費で個展を2回されていて、
立体作品が大賞をとったこともあるようです。
その後、絵本の世界に入ってきました。
講談社の絵本新人賞は、2回の佳作。

3回目で大賞を獲った時は二人で抱き合って泣いたんですよ。やっと門が開いた感じで。

絵本 作家73人の話 ロングインタビューより

これは、さすが奥さんのセリフです。
ずっと、頑張る夫を応援し励まし続けてきたのでしょうね。

――全体の世界観については何か言っていましたか?

◎例えば映画で、泣かせる病気の話を観ていた時「泣かせるのは簡単なんだよ。だけど俺は笑わせたい。本当の喜劇役者は悲しさを知らないとなれないんだ」と言っていました。

本人の思考の根は悲観的なものでした。将来は大変になっていく、って。宮崎 駿さんの「風の谷のナウシカ」とか遠藤周作さんの小説が好きで共感もしていました。悲観的な思いがあるからこそ「それを突き詰めて何かが得られる」って言って人を愉快にさせたかった。悲観と笑わせたいのと、表裏一体だったと思います。

絵本 作家73人の話 ロングインタビューより

自分が悲しさを知っているからこそ、
人には笑っていて欲しい。

何だか親の愛情のような温かいものを感じます。
楽しい未来を信じてほしい。
何があっても、笑って乗り越えていけるという
メッセージが込められている感じがします。

私は、楽観的すぎるから
もう少し悲劇も感じてみるといいのかも。

――それから絵本がどんどん刊行されていきます。冊数を経て変わったことは?

◎独りよがりな所が減ったと思います。人に伝わるか、をじっくり考えるようになりました。絵本が出ると「絵本ナビ」のWeb上の書き込みや絵本の雑誌とかも端から端まで見ていました。
 よく「50(歳)過ぎてのデビューで良かったよ」って言ってました。佳作佳作で3度目に大賞で本が出たのも必要なプロセスだったって。若いうちにデビューしてたらもっと独りよがりだったろうって言うんです。自分に気持ちいい感想じゃないと聞き入れなかっただろうし。

絵本 作家73人の話 ロングインタビューより

50歳の絵本作家デビューって、
何だかみんなにも希望があります。
いつからだってやりたいことはできる!って。

そして、謙虚。
謙虚さを忘れないからこそ
みんなに響くものがあるんですね。
これは、いつまでも忘れてはいけない心意気。

大切なこと

大人になると、絵本はあっという間に読み終われます。
その、あっという間の世界の中に閉じ込められた想い。
それに一番気づけるのは、感じる力のある人たち。
感受性の高い子どもたちや、知っている大人たち。

世の中の作品たちには、必ずその作者が存在します。
絵本作家の名前も「かがくいひろし」という1人の名前の後ろに
これまで教員時代に出会ってきた子どもたちや
本の編集に携わる人たちや、
感想を書きこんだ読者たちや、
身近で支えている家族などの、
たくさんの関わった人たちの想いがこもっています。

そんな風に作品をとらえてみると、
大切なことは、
作品が好きか嫌いかじゃなくて、想いがわかるか。
お金儲けのことだけじゃなくて、
本当に心が躍っているかどうかがわかる自分でいる
そういうことが、大切。

みんなが笑っている世の中に
海賊王を目指すルフィもニカって笑っている。
日本は、そんな楽しい未来を目指したい。
私たちの子どもたちに残す未来にも
いい未来を残したい。
心おどる世界を。

そのためには、今の日本で起こっている悲劇を知り
大人が受け止めて、笑いにかえて子どもに残す。
こんなバカなことしていたんだよ、昔はね。って。
言えるぐらいに。

お金なんてただの紙きれで、
信用されなきゃ捨てられちゃう。
大切なのは、心おどること。
心がおどらない配給なんかよりも
自分でクリエイトする方が100倍楽しいよって
そうやって価値を拡げていく方が
みんなが笑って暮らせるよって。

言葉だってただの文字の羅列で
信用されなきゃ読まれない。
大切なのは、心おどること。
心がおどらないニュースなんかよりも
自分で表現していく方が100倍楽しいよって
そうやって価値を広げていく方が
みんなが笑って暮らせるよって。

笑って暮らせる前に、傷つき泣き怒ることもあるでしょう。
それが悲劇だとしたら、
その先にある笑いまで持っていける人が強いのでしょう。

「泣かせるのは簡単なんだよ。
だけど俺は笑わせたい。
本当の喜劇役者は悲しさを知らないとなれないんだ」



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