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【第3部トークセッション】ベネッセこども基金MeetUP2021#2 ― 社会的養護のもとの子どもの現状と課題 ―

本記事は、2021年12月6日(月)に行ったベネッセこども基金MeetUP2021#2イベント 第3部:トークセッションのレポートです。

トークテーマ1:社会的養護のもとの子どもたちの「学び」について


>>事務局小松
トークセッションでは、2つのテーマでお話ができればと思います。

1つ目のテーマは<社会的養護のもとの子どもたちの「学び」について>です。

学び=主要科目の学びに限らず、児童養護施設を卒業するまでに、身につけてほしい力がありましたらお聞きしたいと思います。

まずは、村上さんいかがでしょうか。


>>HUG for ALL村上氏
私たちHUG for ALLの一番はじめの活動は、実は児童養護施設の子どもたちへの学習支援でした。学校の教科学習サポートをずっとしていました。

でも、学校の教科学習を無理やりやらせても、全然取り組もうとしないんですよね。

小学校6年生の子どもに「プリントやろうよ」と言っても、「私は1+1みないな一桁の足し算がやりたい」と言って、ずっと一桁の足し算のプリントをやっていることもありました。

子どもたちは、失敗したくない、傷つきたくないという気持ちがあるんです。無理矢理、教科学習をやらせても、勉強がキライになるだけです。

なので、子どもたち自身が自分から学ぼう、挑戦しようという心の状態になることをまずは大事にして、心の状態が整った子どもに適切なレベルの教材を使って一緒に取り組むことにしています。

大山さんのお話にもあった『子どもたちの自己肯定感』や『自分を大切に思える気持ち』『自分には力があるんだ、と信じられる思い』をまずは育んでいきます。

その上で、一人ひとりの好きや得意、やってみたいことに応じて、子どもたちに合った学びはなんだろうと考えていくことを大事にしていきたいなと思っています。

もちろん学校の学びもすごく大事です。
勉強を頑張りたいという子どもには、きちんと寄り添っていきたいなと思っています。
しかし、学びはそれだけじゃないということも大事にしていきたいです。


>>事務局小松
ありがとうございます。早川さん、大山さんはいかがでしょうか。



>>子供の家 早川氏
私は『三重のハンデ』を子どもたちにも共有しています。

三重のハンデ1:家庭における養育環境の不十分さ

ひとり親家庭の保護者は一生懸命頑張っています。

でも、子どもが帰る時間に家にいないため、宿題を見てあげられないんです。場合によっては、教材を十分に買い揃えてあげられない場合もあります。

また、保護者が家に帰る時間には子どもが先に寝ているので、時間割を揃えるサポートができなかったり、朝ごはんを食べさせてあげられなかったりします。

このように、学校で学習する前のところでつまずいているんです。
こういう家庭状況が多々あるということですね。
三重のハンデ2:一時保護

一時保護は、法的には2ヵ月を超えてはいけないことになっています。

しかし、先日子供の家に来た姉妹は10か月一時保護されていました。
下手すると1年を超えるケースもあります。

保護児童が増える一方で、里親や施設などの行き先が増えていない訳ですから、結果的に子どもたちは不自由な生活を強いられているということです。

一時保護期間中、基本的には学校行くことができませんので、一時保護所内だけの閉ざされた生活を送っています。

一時保護所の職員さんが学校教育の代替を頑張ってやってはいますが、子ども一人ひとりの発達段階にあわせてケアするだけの余力はありません。
三重のハンデ3:ある日突然、家庭・学校・地域がリセットされる

一時保護されている子どもは、ある日突然言われるわけです。
「あなたの行くところが決まりました。明日、清瀬市に行きます」と。

お父さんお母さんの転勤で転校するときは、学期の区切りか、年度変わりなど区切りのいい時期です。

しかし、社会的養護のもとに来る子どもたちの転校は、一時保護所を出る時も、児童養護施設に来るときも、どちらも年度途中の中途半端な日になるわけです。

すると学校側も個別に対応できないですよね。
教科書が変わってしまいますし、一時保護期間中に学校に行けていないので、浦島太郎の状態です。

一般の家庭で転校した場合は、家に帰って両親に「教科書が変わって、全然勉強がついていけない」って言えるかもしれません。

でも、施設に来た子ども達は、まず職員や子どもたちの名前と顔、生活の日課を覚えるので精一杯です。

職員が勉強の遅れをサポートしないといけないのですが、手が回っていないというのが実情です。

子どもたちが「俺、勉強キライだから」「俺、バカだから」と言った時、私は『三重のハンデ』の話を伝えます。

「あなたが馬鹿だからじゃないです。『三重のハンデ』に陥ったら誰でも勉強は嫌いになるし、できなくなります。でも、その分これからは大人たちも一生懸命頑張るから、できるところからやってみよう」


最近接領域の達成課題の設定がすごく大事なんです。


最近接領域の達成とは、3年生だから3年生の教材をやりなさいという学年相応ではなく、その子にあった最近接領域の達成課題をやりましょうということです。


例えば、跳び箱が3段跳べる人は、次は4段に挑戦しますよね。
6段を跳べとか、2段を跳べとはならないわけです。

だから、子どもの習熟度をきちんとアセスメントして、個別に課題を設定していくというところが非常に大事です。


>>事務局小松
ありがとうございました。大山さんはいかがでしょうか。


>>チャイボラ大山氏
施設にいる子どもたちの3~5割は発達に何らかの障がいを持っていると言われています。先天的な障がいもあれば、後天的なものもあります。虐待が影響して表出されている場合もあります。

発達にハンデをもつ小5の子ども(A君)の九九の宿題をみていたときの話です。

2×1が2、2×2が4、2×3が6・・・となるところ、2×2が50と答えたんです。間違い方にも少し特徴があるのかなと感じました。
発達にも様々な特徴があるので、私自身も勉強しなきゃいけないなと思います。

A君の場合、本当だったら、2が2つあるから1,2,3,4になるよね、と丁寧に教えてあげるべきだと思います。

しかし、A君と同時に小学生5人をみていたらどうでしょうか。
時間が全く足りません。

実際、私は
「A君、2×2は50じゃないよ。4だよ。4はこう書くよ」
「B君、ランドセルにこれ入れてね」
と、全員の子どもを見るがゆえに、A君に丁寧な対応ができませんでした。

ここに職員があと2人いたらと思ってしまいます。
もっと寄り添って関わってあげられる大人がいることが、とても大事だなと思いました。


一方で大人が沢山いても、子どもとの信頼関係がないとうまくいきません。
知らない大人にいきなり勉強しなさいと言われても、子どもが素直に言うことを聞くことはないですよね。

継続して関わっていくからこそ信頼関係がうまれて、信頼できる人から「勉強一緒にやってみよう」と言われたときに、「ちょっと頑張ってみようかな」と思えるわけです。

村上さんもおっしゃっていたように、継続して子どもに関わっていくことはとても大事なことだと思っていますので、これからも発信していきたいなと思います。


>>事務局長小松
元々が学ぶことに厳しい環境にあること、その中で自己肯定感をあげ、本人の希望に沿った学びを提供できること、これまでの過程で発達に課題を抱えている場合も、丁寧に寄り添いっていくことが大切と強く思いました。

このテーマでもっとお話を聞きたいところですが、もう一つのトークテーマにうつりたいと思います。



トークテーマ2:社会的養護との関わり方について


>>事務局小松
2つ目のテーマは「社会的養護との関わり方について」です。

一般の人が寄付以外でどのように社会的養護の子どもと関わることができますかという事前質問もいただいています。

個人あるいは団体として、どんな関わり方ができるか。また、関わる中での注意点がありましたらお話いただきたいです。
村上さん、いかがでしょうか。


>>HUG for ALL村上氏

お二人とくらべて現場から一番遠いところにいると思いますので、一般の方に近い代表としてお話をさせていただければと思います。

関わり方は、本当にいろいろあると思います。

まず、社会的養護について知ることだけでも、とても大きな関わりだと思います。

私が同僚などと話をしていて思うことは、子どもの貧困や虐待のニュースを見聞きして心を痛めてはいるけれど、保護された子どもたちがその後どのように生活しているのかなどは知らないという人が非常に多いことです。

また、ご自身のお子様の校区に児童養護施設があった場合、施設にいる子どもを差別せずきちんと受け入れるよという方もいれば、少し偏見を持たれてしまう方もいらっしゃるのかなと思います。

偏見は、知らないことでうまれてくるものだと思います。

まずは児童養護施設にいる子どもたちの背景や、社会的養護とはどういうことなのかを知っていただくことが大切で、一番手軽にできる関わり方なんじゃないかなと思います。


それ以外には、我々のようなボランティア団体のボランティアに参加する関わり方があると思います。
学習やピアノを教えてくださるボランティアさんを児童養護施設で募集しているところもあります。

継続的に子どもと関わっていきたいお気持ちがあれば、ボランティアプログラムを探してみるのもいいかなと思います。


気を付けるポイントについては、先ほどからお伝えしている通り、子どもに継続的に関わっていくことがとても大事だと思います。

施設に入る時、我々が一番気をつけたいなと思っていることは、あくまで子どもたちを一番支えていらっしゃるのは施設職員さんだということです。

職員さんにもプラスになるような形で関わることを意識して支援を行うことが大切だと思います。

大山さん、早川さん、いかがでしょうか。



>>チャイボラ大山氏
ボランティアとして直接子どもに関わる支援もありますが、スキルや知見をいかして我々のような団体の活動運営をサポートいただくボランティアとして関わることもできると思います。
チャイボラは20名ほどのボランティアさんに関わっていただいています。


他にも、機会の提供や場所の提供もアリかなと思います。

例えば、高校生に対しては職場体験だったり、地域のホールや体育館、グランドを自由に使っていいよなど。都心だと大きい広いお庭が無かったりするためです。


私は、日本では寄付文化が希薄だと感じます。

私自身、小中高校の時に募金をしていましたが、一体何に使われているのか分かっていませんでした。

児童養護施設にいる子どもたちは、寄付される機会が多いためか、自分の使わなくなった物やサイズが合わなくなった服を寄付したいと言うことが多いです。幼稚園の子どもでも「寄付するんだ」と言います。

普段からしてもらってるから、してあげたいという気持ちがうまれるのだと思います。

寄付というのは、一生懸命稼いだお金という意味合いだけではなく、その人の想いが乗っていると思っています。

団体や施設に寄付するということは、ただお金を渡しているということではないと思います。

子どもたちにとって、誰かからしてもらったことを、誰かに返そうという気持ちを育むきっかけになっているからです。

寄付してくださる方の想いがあるからこそ、我々も責任を感じますし、ただ金銭をいただいているとは思っていません。

このような考えをこの国に根付かせていきたいなと、 NPO 法人の一代表として思っています。




>>子供の家 早川氏
20年前とくらべると大分施設の風通しがよくなったと感じます。

私がこの業界に入った時は、社会的養護全般が知られていませんでしたし、施設もお家の代わりということで閉鎖的だったので、ボランティアなんて…という考えがありました。

しかし、今は大分変わってきたなと思います。

私が前にいた施設では、絵画や編み物など、一芸をいかして色んなことを教えてくれるボランティアさんがいました。中でも、一番重宝していたのは学習ボランティアさんです。

学習ボランティアさんには中学生に個別についてもらっていました。

社会人の方が多く、長く継続してくださっていました。
学生さんももちろんいましたが、学生さんは就職するとやめてしまうケースもありました。

当時中学生だった子どもに関わってくれていたボランティアさんと私で、その子の結婚式に行ったことがあります。

子どもにとって、施設職員以外の社会人の方と継続的に関わることは非常に有効であり、多様なロールモデルが身近にいることは良いことだと思います。

ボランティアの受け入れを積極的に活用するしている施設が増えていると思いますので、施設に問い合わせたり、村上さんや大山さんのような団体に相談するといいと思います。


>>事務局小松
ありがとうございます。様々な関わり方がありますね。どのような関わり方であっても、継続的に関わるということが大事ですね。

先ほどお話いただいた、そだちのシェアステーションのように、地域で参加できる支援もあるのではと思いますが、早川様いかがでしょうか。


>>子供の家 早川氏
私はすべての小学校区に1つ、そだちのシェア拠点があればよいと思っています。

でも、私1人では出来ないので、まずは具体的に示して「楽しいからみんなやろうよ」と声をかけていければいいなと思っています。

学童は大体校区ごとにあると思います。泊まれるし、ごはん食べられるし、遊べる、そんな学童保育所みたいなものを作れるといいなと思います。

このような場所が標準化されていくと、家庭の密室化を減らせるんじゃないかなと思います。


登壇者から一言


>>事務局小松
ありがとうございます。こども食堂や学童などを運営する団体さんが少し工夫することで、外に開いていくことができるんじゃないかとご提案をいただきました。ぜひ参考にしていただければと思います。

他にも沢山のご質問をいただいておりますが、お時間がきてしまいました。
※回答できなかった質問および登壇者の方からのご回答は、こちらにまとめております。ぜひご覧ください。

最後にお三方から一言ずつ頂いて、トークセッションを終了したいと思います。


チャイボラ大山氏から一言

本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
12月25日までクラウドファンディングを実施しています。
(2021年12月27日現在:支援総額16,120,000円 支援者807人)

今この瞬間も職員が足りず困っている施設さんが沢山あります。
私たちの活動を全国に展開するためにぜひご協力をお願いします。

今日この会が始まってから約5名の方にご寄付をいただきました。
今ご参加いただいている方からのご寄付かもしれません。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

14日は「施設を退所してからみえてきた子どもたちに必要なこととは」オンラインイベント18日には早川さんと都内の児童養護施設長とのオンラインイベントを実施します。ご興味あればぜひご参加いただければと思います。

村上さんがおっしゃっていた通り、まずは知ることが支援の第一歩だと思います。イベントなどにご参加いただくことも支援の形かなと思います。

引き続きよろしくお願いします。本日はありがとうございました。


HUG for ALL 村上氏から一言

本日はありがとうございました。

お二人の話を伺い、児童養護施設の職員さんが日頃からどれだけ子どもたちに寄り添っているのかを改めて知ることができました。
そして、職員さんと子どもたちに対して、我々に何ができるのか、改めて考える機会にもなりました。

この場を借りて皆様にも話を聞いて頂き本当にありがとうございます。

私から2つお誘いをさせてください。

1つ目は、12月25日クリスマスにHUG Meet2021イベントを開催します。

今日は一つの活動についてピックアップしてお話させていただきましたが、我々がどんなことを考えて、どんな風に子どもたちの学びに寄り添っているのか、詳しくお伝え出来ればと思います。


2つ目は、ワンコインでHUGコミュニティの仲間になろう!キャンペーンです。
今日(12月6日)から2月6日の2か月間実施します。
子どもたちのことを少しでも知ってもらって、子どもたちの育ちに寄り添っていきたいなとか、子どもたちが何か困った時に助けたいな、と思ってくれる仲間を、私たちはHUGコミュニティとして作っていきたいなと思っています。
まずは子どもたちのことを知るところから始めてみようかなと思った方、まずは200人の仲間を作っていきたいなと思っていますので、コミュニティの仲間になってくださると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。
子供の家 早川氏から一言

子どもと関わる上で必ず職員と共有していることがあります。

「存在と行動を峻別しましょう」ということです。

社会的養護のもとにいる子どもを「かわいそうな子ども」だと思って、子どもがおかしなことをしているのに、容認してしまうことがあります。

逆に、存在を否定するような言葉がけはよろしくないと思います。

例えば、マサルくんが石を投げてしまった時
「マサルくん、やめなさい」
とは言わないで、
「石を投げるのはやめてね。用があったら近くに来て声をかけてね」
と伝えるようにお願いしています。

褒める時は、
「マサルくん、今日も笑顔が素敵だね」
と名前を呼んで褒めていいと思うんです。

でも、マイナスの行動を指摘しないといけない時には、行動に着目して、代わりにどうしてほしいのかを伝えないといけません。

また、とにかく褒める子育てなどが一時流行りましたが、褒めればいいということでもないと思います。

相対的価値と絶対的価値があって、相対的価値を褒めるのはやめましょうということです。

相対的価値というのは、テストの点数や順位、背が高い低いとかね。これは家庭の子育てでもそうだと思います。

例えば、子どもが運動会で1等賞をとった時、なんと伝えますか?

「やったね。1等賞だったね」と伝えたらどうでしょう。

子どもは次からもずっと1位を取り続けないと悔しがるだけです。

これでは相対的価値に呪縛されます。

絶対的価値の褒め方は
「走っている姿が格好良かったよ」「頑張ったんだね。嬉しそうだね」ですよね。

社会的養護のもとの子ども達に絶対的価値は大事なことですが、日本中の子どもたちと関わる上でもすごく大事なことだと思います。

資本主義の我々の文化は、学校教育も含めて相対的価値が非常に蔓延しています。だからこそ、絶対的価値で子どもと関わるということを共有したいなと思いました。


>>事務局小松
どうもありがとうございました。参加者のみなさんにとって、社会的養護の状況が分かり、関わり方を考えるきっかけとなる会となっていれば幸いです。早川さん、村上さん、大山さん、本日は誠にありがとうございました。

ベネッセこども基金では、初心者でもご理解いただける「社会的養護」はじめの一歩と題して、QA形式の漫画を制作いたしました。本日の会の復習としてもご覧いただける内容です。ぜひご覧ください。

以上でベネッセこども基金MeetUPを終了いたします。ありがとうございました。



MeetUP2021#2アーカイブ動画視聴はこちら

当日の投影資料や質問へのご回答はこちらからご確認いただけます

また、以下のテーマごとに随時noteを発信していきます!

第1部 基調講演 児童養護施設子供の家 施設長 早川悟司氏
第2部 活動団体報告 NPO法人 HUG for ALL 代表理事 村上綾野氏
第2部 活動団体報告 NPO法人 チャイボラ 代表理事 大山遥氏
第3部 質疑応答

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