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串揚げで立ち飲み、北千住の酒場にて

 食に心を奪われ、酒場の魔力に魅了されて多くのお店を訪れる事がすっかり趣味となって以降、多くの出会いがあった。初めて降りる、訪れる土地ばかりで一軒一軒に、個性が溢れていた。

 24区のうちまだ行ったことが無い区がある。それは足立区だ。なんとなく一番遠い場所だからか、つくばエクスプレスの乗り換えぐらいしか行く機会がなく、行ってみる機会が無かったわけだ。

 そんな足立区の北千住に初めてやってきたのは3年前のことである。

 その時はつくばエクスプレスの乗り換えのついででふらりと降りてみた。駅前は東口に個人商店が中心で肩を並べて、夜が来るのを今か今かと待っているような感じだった。なるほど、酒場やチェーン店もけっこう造りが個性的な感じがした。

 そして、そのままぐるりと回り西口へ。そして、西口には驚かされた。先程の東口の整頓された感じに比べ西口はさらにゴチャゴチャと酒場が肩を並べたディープな魔境だったわけだ。
 それにガールバーなどもあるので、かなり誘惑が多かった。また今度夕刻に来てみるか。その時は駅の近くのタイ料理を食べて帰った記憶までで止まっている。

 というわけで、北千住の西口に夕闇が黒に近づく時間にやってきた。2年越しである。前、見て歩いた時に唾を付けた店があるのだ。その店は西口から出て狭い呑み屋路地を行った場所にあるお店だ。渋いオオバコのお店の『永見』というお店だ。

 帳が下りた北千住の呑み屋小路はまさに魔境。近くの学校の学生や帰りのサラリーマン、堂々と立っている客引きが入り乱れるてんこ盛りの流れ。そんな流れを突っ切り、右手側の白い光に誘われていく。だが、どうやら地元客ですっかりオオバコの店内は埋まってしまっているようだった。どうにかして入れないものか、覗いても一人席も全滅、やってしまった。歯車が狂ったか。

 待つか、違う店にするか。ふと思い出したことがある。この店の隣にも渋い佇まいの店があった。立ち飲み処、串カツ専門店、赤いスーパードライの暖簾。こちらも昭和のドンとした佇まいが残るいい店かも知れない。中を覗くと大型のコの字に立ち飲みの呑兵衛たちがずらりと。

 ここならなんとか行けそうだ。標的をここ『天七 本店』に変更し、ガラリドアの扉を開く。うお、熱気が凄い。寒いのに汗が流れてきてしまいそうなほどの声量と熱気だ。

 とりあえず1人のジェスチャーをして、コの字の一番奥に誘導される。狭い通路を熱気と酒気と串が上がる音を耳に聞かせながら、グイグイっと押し込むように定位置に着いた。ずばりメニュー表の前に陣取れた。串は一本170円~190円、で一品二本なので大体5品で10本の計算になる。

 大きな白木のテーブル、隣の人との距離が近く、久々の酒場だと感じる。こんなに他人と近づくなんてこのご時世出来なかったわけだし。やはり漬けソースとつまむためのキャベツがテーブルの各所に設置されている。串カツの合間にキャベツを食べるといいって、漫画で誰か言ってた。多分キン肉マン2世のサンシャインだ、そういやなんで悪魔超人が串カツ食ってたんだろう。まあ、いいや。そんな彼が似合いそうな場末の酒場とこの店内はそっくりだ。


 キャベツをかじり、メニューを見上げる。

 

ちょくちょく売り切れが出ているのは早いうちからこの店がいっぱいであるということを気づかせてくれる。先に注文していた生ビール片手にすらすらと食べたいものを告げていく。

 「豚、牛、アスパラ、アジ、それと紅ショウガ下さい」この大きなコの字で迷うのは愚の骨頂、一気に定番に野菜、魚、大阪の味とバランスよく注文する。またビールを呑む、ああ、寒いのに体は熱い。すっかり店の熱気にやられてしまったよ。

 目線の先の揚場に目を凝らす。注文を取るスタッフの声を聴いて、真ん中で何本も串カツを一気に揚げている。よく見分けがつくなあ、あれだけ一気に揚げるなら時間差や品を間違えてしまう事はないのだろうか。そこは串カツとの付き合いの長さなのか。次々と油の海から上がっていく金色のカツたち。その余分な脂を落とすために、力強くふるう音が小気味よく聞こえる。

 

すぐに牛カツが出てくる、流石に早い。ソースにどっぷりつける。2度漬けはご法度だ。何と言うかソースはかなりパンチが強い辛めですぐに後味が溶けていくすっきりタイプで串カツの衣の軽さとよく合う。串カツ、美味いなあ。リズミカルに、衣がさくりと軽くて楽しい。

 次は豚。これもまた軽い。牛と豚、肉質が違うが味わうなら牛カツ。脂を楽しむなら豚だな。きまり。合間で挟むキャベツがまた甘い。キャベツ、助かる。君がいるだけでどこまでも行ける気がする。

 カツとビールと嗜んでいると一気に頼んだすべてが揃った。早い。こんなファストフードがあれば絶対にみんな寄るぞ。


 


 アスパラの甘味を一本丸かじりで味わう贅沢。ビールが浮いてしまうほどの存在感。アジはフライとは違うフワフワな食感でほろほろと口で崩れていく。これもいいぞ。フライもいいが串カツのアジも別格だ。


最後に紅ショウガ、これが食べてみたかったんだ。たっぷりとソースにくぐらせて串に齧り付く。紅しょうがのあのピリッとした感じが衣の中からあふれ出る。



シャキサク、これは大阪と漬物文化の融合だ。揚がっているからか、辛味が程よい感じになっているのがまた聴いている。またソースとの相性が最高だ。このピリ辛ソースは紅しょうがのポテンシャルを最大限に引き出す好リードを見せてくれた…。あっという間だった、立ち飲みで北千住、楽しんだ。


軽く流し込んだビールと店の熱気でジワリとかいた汗が心地よい。このまま、ちょっとふらついてみますか。


思うよりも足立の酒場はディープすぎるのかもしれない…。


今回のお店
天七本店
住所 東京都足立区千住2-62
定休日 日・祝日
営業時間 平日 16時~22時
     土曜 15時~21時


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