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1人酒場飯ーその22「穴場のホルモン、山形赤湯の隠れ場で」

米沢にある「東光」の酒蔵を訪ねた後、僕は日帰りで温泉にでも入ってから帰るか、そんな思い付きで赤湯駅に降りた。

 赤湯温泉のある南陽市はワインで有名な高畠町の隣という事もあり、ワイナリーも点在している。観光では熊野大社や烏帽子山公園が有名だそうだ。


 しかし時間が悪かった。もう午後4時だ。中途半端な時間に来てしまった。温泉は微妙に遠いし、かといって駅の周りは通りがあるといっても閑静な地方の一市という感じだ。

 ふと、地方路線の長井フラワー線の駅名を見て南陽市市役所液と宮内駅中心地なら何かあるかもと思い、タクシーに乗り宮内駅へと移動することにした。

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が、宮内駅に着いてみると思った駅の姿とは違っていた。まるで昭和で時間が止まったような駅の姿。構内に入ってみると待合室には雑誌や漫画、何故か机が置かれ地元の学生が一人で時間を潰していた。


 「何だか凄い場所に来てしまった」思わずそんな言葉を呟き、どうするか考える。


 また移動するか、いや、移動して店が近場で見つからなかったらどうする。こうなってしまえば流れに身を任せるしかないだろう、時計を見ればもう5時前、流石に空いてる店もあるだろうと店を探すことにした。


 しかしまあ、何とも味のある街並みだ。

 住宅地と個人経営のお店が多く、静かな空気がとても落ち着く。と、街中を歩いていると南陽ラーメンの文字が目に付く。なるほどこの地はラーメンが名物なのか、もし一手が無ければ南陽ラーメンにしようか。

 ぐるりと街を一周するように歩き回っていると、遠目に看板を見つけた。下に「清酒 東の麓」の文字。


 「ん、あれは・・・宿かな・・・」


 どうやら宿か、それとも直売所か。確かに近くに「東の麓」という日本酒を作っている酒蔵を見かけたがそれかもしれない。だが、目線を変えた僕の目は見逃さなかった。

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白い電工看板に書かれた「ホルモン焼かっぱ」の文字と河童の絵。目線を下に移せば何とも不可思議な店構えをしながらも茶色の暖簾が揺れる店を見つけた。
「やった」思わず小さく頷き、暖簾をくぐる。

 網戸越しに店内を見ればカウンター8席ぐらいと奥の上りが数席で何ともレトロ感のある店だった。しかし誰もいない。


「すいません」何度か声を掛けてみると店の奥から女将さんが出てきてくれた。とりあえず良かった。


 「じゃあ、ここで」入口真ん前のカウンターに陣取った僕は壁に貼られたメニューに目を向ける。肉はホルモンミックス、レバー、なんこつの3種のみ、それに野菜焼きだけという潔さ。

 もらったおしぼりで手をふきながら、メニューから目を外しぐるりと見ていく。すごく渋いなあ。それだけが率直な意見だ。


と、店の奥から女将さんと入れ替わりで若い店主さんが出てきた。ちょっと驚いた。


 「メニューはこれだけですか?」一度聞いてみる。
 「そうですね。まずホルモンから食べてもらうと」自信のある一言だ。
 「じゃあ、ホルモン一皿で」
とりあえずホルモンミックスを注文し、日本酒で「東の麓」の常温をもっきりで頂くことにした。


それにしてもこんな場所でホルモンとは期待が高まっているぞ。目の前に運ばれて来た赤い七輪と炭の熱が胸を焦がす。


 あっという間にホルモンミックスが来た。おお、確かにミックスだ。ホルモンらしい大腸、小腸、ハツにコブクロ。個性のあるミックス皿になっている。
「一度下茹でしてるので軽くあぶっただけでも大丈夫なんですよ。そっちが好きな人もいます。」

 へえ、店主さんの言葉を聞いて丁寧な仕事をしているなというのが率直な意見だ。


 とりあえず焼いていこう。ホルモンの小腸、ハツを網の上へと。いい感じに焦げ目がつくまでじっくり待つんだ。1人焼肉はタイミングとリズムの勝負だ。

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チリチリっという音を境にひっくり返す、いい焦げ目だ。僕のホルモンが焼けてきた。特性の甘さの強いつけダレにつけて食べる。


 美味い。何といっても美味い。本当に臭みもない新鮮で生き生きとしたホルモンだ。脂がほんのり甘くてつけダレとも相性がいい。歯応えも軟じゃない、しっかりとしたものだ。


 本当に美味い、驚かされたぞ。この渋い街の一角でこれほどまでのホルモンに出会えるとは全く思っていなかった。僕はまだホルモンのホの字も知らなかったのだ。


 次にハツ。これも美味い、コリっとしたホルモンらしさとシャッキリと噛み切れる柔らかさ、淡白さの中に力強さを持ち合わせている。コブクロは歯応えの強さが魅力だった。
 

 ホルモンの中でも好きな人が1番に多いと店主さんのお墨付きを受けたのはダイチョウだ。焼けば脂が滴り、炭をじわっと強くしていく。


 ああ、確かに脂の甘味が強くて人気は高いだろう、確かに美味しい。これは日本酒で脂を流してリセットする。


 しかしながら、このホルモンの美味さはどれだけ丁寧な下処理を行っているかで大きく変わると思う。ここは本当に丁寧だ。

 店主さんを始めとした接客も心遣いにあふれるものだった。例えば火力が足りないと感じるやすぐに炭を追加してくれたり、暑いからとうちわを出してくれたりと気遣いが行き届いている。
 ホルモンミックス一皿を食した後、突き出しで出されていた漬物をポリポリ、日本酒を啜りながら、追加第二弾でレバー半皿に切り替える。

ホルモンのレベルから言ってレバーも相当いいだろう。

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その予感通り、新鮮な色味のレバーが手元にやって来た。何というかほれぼれするワインレッドだ。軽く火を通し、あまり固くならない程度に焼く。うん、レバーだ。とても味の濃いレバーだ。これもいい。


 最後に注文したのはなんこつ一皿。これでコンプリート。塩コショウを自分でまぶして混ぜるタイプだ。なんこつ薄切りで周りに肉が付いたパターンと筒状で触感を感じるタイプの2種類に分けられている。

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これはじっくり、パリッと火を通すのがセオリーだ。香ばしい香りが鼻をくすぐる。


 カリ、コリッ。いい歯ざわりだ、周りの肉も美味い。なんこつはがむしゃらに噛み続けるに限るな。


 ふと目線を真横に向けると「従業員募集中」の文字。それに「かっぱ西小山店」。

 ほう、本流から源流に流れるように東京にもこの店ののれん分け、あるのか。七輪の熱を感じながら、日本酒を飲み干す。とてもいい時間だったぞ。

「ごちそうさまでした、美味しかったです」一言とありがとうございました、のやり取りがまた心地いいんだ。


 茶色ののれんを潜り、小さく頷きながら僕は帰路に着いた。西小山の分店にも行ってみたいな。思いつき思いを馳せるように小さくうなづいた…。

今回のお店
ホルモン焼きかっぱ
住所 山形県南陽市宮内1017-20
お問い合わせ番号 0238-47-7278
定休日 日・年末休止・不定休あり
営業時間 17時~23時(ラストオーダー22時30分)


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